第11話 苦い、甘い。−2
いきなりそんなことを言われたら、なんって答えればいいのか分からないんだろう。しかも学校なのに、さりげなくそんな話を口に出すのか…先生って人は。
「フンー」
「意地悪い…雪原先生…」
「可愛くないよーもっと優しく言って…」
「知らない!教室に戻ります!」
教室に戻る蓮の後ろ姿をじっと見つめていたさくらはその姿が消えた後に頬を染めた。しゃがんで赤くなった頬を触りながら、蓮からもらったコーヒーについた自分の口紅を見てほほ笑む。
「私…今蓮くんと間接キスを…」
再び思い出して心の中から「キャーキャー」と叫んでいるさくら。
子供みたい、でも好き。
こんなことが嬉しくて、蓮との日常から感じられるこの感情こそさくらにとって幸せの人生だった。歳は離れているけど、さくらにとって時間の差は妨げにならない。蓮がそばにいてくれるだけで、それで十分だと思うさくらだった。
「でも…次は気をつけないと…」
今更自分が教師だったことに気づく。
———放課後。
このままじゃ先生にやられっぱなしだから、対策を考えておかないといけない。次は絶対こっちから先生にスキンシップをする、と心の中で決意を固めるけど先生のその笑顔を見る度、全てが無に戻る。それが一番怖いことだ。
でも次こそ絶対だ。
「蓮?」
「うん?」
「何怖い顔してんの。」
「いや、なんでもない。」
そうだ。今日の放課後、みんなと一緒にカラオケ行くって言ったよな。
「あのさ、二人は?」
「香奈ちゃんと山口のこと?」
「そう。」
「さっき行くってL○NEが来たから、今ならカラオケに着いたかもな。」
「そうか。」
先生も…高校生だったら、こうやって二人でカラオケに行くんだろう。前に歩いているカップルを見て、なんとなくそんな考えが思い浮かんでいた。でも、別に高校生じゃなくてもいつだって行けるし、馬鹿みたい…俺。
一緒に何かをやりたい、その気持ちが心を占めていた。そして一度だけ、さくらって呼んでみたい。怒られるかもしれないけど、なんかそう呼んでみたいな…
「おい!蓮!こっちだ!こっち!早く行こう!」
「あ…うん!」
そして二人がいるルームを探した。
「こっちか…あ!いた!」
「朝陽!」
「香奈ちゃんー!」
これから二人のイチャイチャが始めるのか…カップルいいな。
ルームの真ん中にテーブルがあって、その両側に長いソファが置いていた。左側に全員座るのは無理だし、俺一人で反対側のソファに座ってぼーっとしていた。どうせ、歌も下手だから適当に時間をつぶして帰ることしか考えていない。
「はい!みゆきちゃんはそっち!秋泉くんの隣に座って!」
「いきなり…?」
「どうせ二人とも恋人いないでしょう?」
「…はっ?」
こっちに山口を送るつもりか、隣に女の子が座るなんて…
「よろしく…ね。秋泉くん。」
「うん、よろしく。」
黒髪セミロングをしている山口は静かであんまり喋らないタイプの女の子だ。中学の時はちょっとモテる子で、可愛い顔と背が低いのが魅力だったから同級生の男子と上の先輩にすごく告られた覚えがある。
まぁ…男の保護本能を刺激する顔は相変わらず、すごいんだ。その後、言葉を交わしたことがないから知ってるのはこれだけだ。
「じゃあ!俺たち始まるぞー!」
その中から始まる朝陽と今田の歌、二人で歌うのがなんかムカつく。でも、なかなかやるじゃんあいつ…「俺も歌下手だよ。」は嘘だったのか、朝陽。
「あの…!秋泉くんはどんな曲…?歌う?」
「俺…いいよ。山口さんから歌ってくれない?」
何か、ためらう山口がスマホを出してこう話した。
「この曲、一緒に歌いたい…」
「えっ…?」
「ダメかな…」
あ…なんって言えばいいんだ。
この状況、なんか話しづらい…山口から一緒に歌いたいって言われたから、これを断るとあの二人に変なこと言われるかもしれない。一応やってみようか…
「あ、この曲…」
この曲は多分テレビで聴いたことあるかも…照れくさい曲ってことはちゃんと知っている。普通の曲はないのかよ、これを女の子と二人で歌うなんて…けど今は悩むところじゃないんだ。
隣の山口がもう準備万端でマイクをしっかり握っていたから…
『君にー届けー!』
『届けー!』
二人の曲が終わって、ソファに座る朝陽が変な顔で俺を見ていた。
「じゃあ、ふたりっ…いや、次は誰が歌う?」
「私たち二人で歌う…」
「お!そっか!二人で歌うんだ!」
「どの曲!ワクワクするね!」
すごく楽しそうに見えるけど…なんだあの二人は。
そして山口が予約した曲がルームの中に流れた。タイトルが「恋したい君に。」って照れくさいのもほどがあるだろう…どこに隠れたい、あの恥ずかしい歌詞がくるぞ。
助けてください…先生。
……
「はくしょー!」
「あれ、さくらもしかして風邪?」
「ううん…違う、なんか寒気が…」
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