第3話 昨日のこと。
俺は家から遠くにあるコンビニでバイトをしている。歩いて35分くらいかな、遠い場所で働いている理由はこっちの店長が父の知り合いだからだ。
今は普通に手伝う感じで働いている。
性格もいいし、話も上手くて俺の相談にもよく乗ってくれる優しい人だ。けど、店長は今年で40代になるのにまだ彼女がいない、ずっとソロでこのコンビニを守っていた。
「えっと…あの、何してます?」
夜からナンパか…
「接客だよ、接客。」
「いや…それはどう見ても…」
「なー!蓮…聞いてくれよ…今日もダメだった。」
「…」
今年も店長の春は来ないのか、悲しいな…と。
店長を励ます暇もなくレジの前に立っているお客様に気づいて、そのままレジに入った。
「あっ!すみません。720円になります!」
「…」
「ありがとうございま…」
「ねぇー君。」
「私ですか?」
「うん…」
俺の名札を確認した女性のお客様はポケットからスマホを出して笑っていた。
「秋泉くん。バイトいつ終わるかな?」
「え?」
「君、可愛いね。電話番号…教えてくれない?」
何、この状況…いきなり知らない女性から電話番号を聞かれた。このお客様にはどうやって答えたらいいんだ…ぼーっとして頭が真っ白くなったけど、いくつかの選択肢は考えておいた。
『一つ、後の店長はどうですか?』
『二つ、スマホを持っていません。』
『三つ、彼女がいます。すみません。』
これくらいだ。
俺は真面目に3秒くらい考えて、2番の選択肢を選んだ。店長に任せるのは無理だし、代わりに彼女がいるって嘘をつくのも無理だったから…やはりスマホを持っていないって答えた方が一番いい答えだ。
「え…私、スマホ持って…な…」
その時「ピンー!」とポケットの中からL○NEの通知音が鳴いてしまった。
うわーついてねぇ。
「スマホ?」
「えっと…」
スマホを持っているのをバレちゃった瞬間、慌ててうじうじしている俺のところに店長が来た。
「私はどーですか?」
「何この人…」
「この子は彼女がいるんで…代わりにこの私が!」
「いらない!」
と、叫んだ女性はそのままコンビニを出てしまった。
「ありがとう…店長…」
「…お前ってやつは。」
「え…?」
店長、なんで泣いてるんですか…
「羨ましい…!蓮の青春が…クソ羨ましい!」
「また…馬鹿馬鹿しいことを…」
「たまには譲ってもいいんだぞ。」
「はい、もう終わったし帰ります。」
「そうか?お疲れー!」
ったく…店長はいつもテンションが高いからむしろこっちが疲れる、でも先は店長のおかげで助かった。俺は女子と話すのが苦手だから、1年生の時はバレンタインデーのせいですごく苦労した覚えがある。
服を着替える時、さっきのL○NEを確認しながら水を飲んでいた。
サクラ
『他の女と楽しそうに話してるよね。蓮くん。』
『あの女は誰???』
『スマホ出して蓮くん、全部見ているから。』
読めば読むほど、俺に他の危機が迫っていることに実感した。
「まずは、返信…返信…」
あれ…なんで手が震えてるんだ。俺もしかして怯えているのか、え…そんなはずがない。恋人でもないし、どんな関係でもないから…ただ俺の片思いだから…片思いなんだけど、なんでこんなに怖いんだ。
返信、サクラ
『今...』
って、返事に何を打てばいい…?しばらく返信に何を打つのか考えていたんだけど、やはり早く先生のところに行った方が良さそうだ。
「…これは、雪原さんのいたずらだ。怖がらなくてもいい。」
スマホをポケットに入れて、自信を持って事務室から出る時に先生から電話がきた。
「もしもし…」
「あー蓮くんだー」
「は、はい。」
「今日は私が迎えに来たから早く出てくれないー?」
「分かりました。」
「うん。私の車はちゃんと覚えているよね?」
「はい。」
「うん。」
…なんだ。別に怒ってない…よかった。
「店長、今日もお疲れ様ですー」
「おう、お疲れー」
えっと…先生の車は確かに黒い色だったよな。俺はコンビニの駐車場を見回して先生の車を探した。
「黒い車…黒い車…あ、一番奥にあるんだ。」
先生が待ってるから走って行こう。
「蓮くんー」
「雪原さん!」
先生の笑顔、そして俺に手を振ってくれるその優しさが好きだ。
「それで?」
「はい?」
なぜか運転席ではなく、助手席までついてくる先生。
「先の女とどこまでやった?」
いきなり車に押しつけられて、先生にアゴを持ち上げられた俺はそのままカバンを地面に落とした。
「え…」
夜の涼しい風が吹いてくる駐車場の隅、俺は鋭い目線で見つめる先生にせめられていた。
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