第21話 二人のバカ。
「はあ…はあ…」
小春先生からもらった紙切れには先生の電話番号が書いている。けれど、俺は先生に電話をかけられなかった。なぜだろう。その声を聞くのが怖いと言うか…スマホの画面を見つめるだけで、何もぜず新幹線の席に座っていた。
「今日…そこに行ったら帰れないよな…」
もちろん、計画なしで体が先に動いた。
紙切れに書かれていた住所はそんなに遠くなかった。この地域を検索してみたらちょっと都会から離れているような気がした。もしかして、ここは先生の実家ってことか…家に帰った今の先生は何をしているんだろう。早く会いたいな…
そんな気持ちを抱えて静かに眠る。
「…先生。」
新幹線から降りた俺は先生の実家を探し、初めてきた地域を彷徨う。
「え…なんでスマホの地図を持ってるのに、よく分からないんだ…?」
方向音痴、秋泉蓮。
「あれ、この看板は先も見たんじゃ…」
完全に道を迷ってしまった。どこに行けばいい…?
そうだ。俺は昔から道を探すのが苦手だったよな…それを今更思い出してどうすんのかよ。いけない、このままじゃ先生の家はともかく泊まる場所を探すのも無理だ。
「先から見えるのはこのでかい和風豪邸、どれだけでかいんだよ…?」
確かに、今立っている場所とマップのアプリが映し出した場所が合致していた。だけど、なんでこのでかい家しか見えないんだ。先生の家は一体どこなんだ…?
「…はあ、とりあえず泊まる場所を探さないと。」
日が暮れる時刻、もう遅い…
今から泊まる場所を探さないと、外で野宿…は絶対に嫌だ。
「はあ…どうしよう。」
急に頭が痛くなる。
考えしすぎたかな…目を閉じた俺は道の真ん中でしゃがんでいた。
「…っ。」
他地域はやはり無理だったのか…
ため息をついた後、俺は薄暗くなった周りの景色に悩んでしまう。今は電話をかけた方がいいかもしれない…やはり先生に電話をかけて方がいいと…
思った瞬間だった。
「どうしたの…?」
「…」
後ろから俺の目を隠して、ある人の声が聞こえた。
その声は…ずっと聞きたかった声、懐かしくて…ずっと頭の中から消えなかった声、先生の声が俺の後ろから聞こえていた。目を隠す時の温かい手はあの頃と同じで、先生の温もりが感じられる。
少しだけ、涙が出てしまう。
「道、迷っちゃったの…?蓮くん…」
「…」
ためらっている俺は振り向くことができなかった。そこに先生がいるのになぜか先生と目を合わせるのができない。今すぐ、先生を抱きしめたい気持ちが湧き上がっている…けど、何から言えばいいのか…複雑になった頭の中から先生に話す言葉を必死に悩んでいた。
「れ、蓮くん…?」
「…あ。」
「うん?」
「会いたかった…」
これしか出てこない。
先生と会った時に伝えたかった言葉がいっぱいあったけど、実際これくらいしか言えないんだ。
「会いたかった…私も…」
泣き声で答える先生が話した。
「ねえ…私を見て、蓮くん。」
「ちょっと…待ってください。」
「なんで…?」
「なんか、今…涙が止まらなくて…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ…」
俺の心が俺を追い越した。
ダサい、なんで涙しか出てこないんだ。先生がすぐ後ろにいるんだよ…
「会いたかった…ずっと…会いたかったよ。蓮くん、私を見て。」
その言葉を聞いて、振り向いたところにはいつもの先生がいた。
「さくら…本物のさくらだ。」
「うん…本物の私だよ。蓮くん。」
「なんで…泣いてるんだ。さくらは…」
「でも…」
「さくらが一番悪いんだ。一体どんな彼女が好きな彼氏を捨てていくんだよ…!」
「でも…でも…そうしなと…蓮くんが行っちゃうから。」
「どれだけ…心配してたのか…分かってる?」
「うん…」
俺と手を繋いだ先生がぎゅーと握り締める。手を見つめていた先生が指先を触りながら、さりげなく俺に抱きついた。やはり先生のことは忘れないよな…こんなに好きだったから、抱きしめた時に伝わる先生の温もりは離れる前と同じだった。
「指先が冷えたよね…?」
「ちょっと…道を迷って…」
「バカ、あれ?蓮くん…背が伸びたの?」
「ちょっとくらい…?」
「もっとカッコよくなった。嬉しい…」
つま先立ちをして顔を寄せる先生が目を閉じる、俺は迷わず先生とキスをした。
一瞬だけ、一緒に過ごした時間を思い出してしまう。ずっとこうしたかった…俺の背中を掴む先生は自分の気持ちを激しいこのキスで現した。
「はあ…気持ちいい。ねえ…頭撫でてくれない…?」
「うん…」
その頭を撫でてあげると、笑みを浮かべる先生が俺を見つめる。この笑顔がまた見えてよかった。ほぼ1年ぶり…先生と出会ってからいろいろあったけど、もうこんなことは二度とごめんだ。ずっと一緒にいたい…
「家に入ろう!」
「え…?行ってもいい?今日はただ会いに来ただけなのに。」
「うん!大丈夫!すぐ後ろだけど、入り口がちょっと遠いからね…」
「えっ?」
先生の人差し指が指したところは和風の豪邸がある場所だった。
先からずっと見えたこのでかい家が先生の実家ってことか…本当か…?
入り口まで歩いている二人、ソワソワするさくらが蓮をちらっと見ていた。
「どうした?さくら…」
「えーと、一応聞いておきたいけど…」
「うん?」
「私たちまだ付き合ってるよね…?」
「俺を捨てたくせに、よくも言うよね。」
「ご、ごめん…やはり…」
慌てる先生と手を繋いだ。
「ずっと一緒って言ったからねー」
「…」
「でしょう?」
「うん!」
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