第42話 余計に気になる。

 家に帰ってバイトの準備をする。服を着替える時、学校から聞いた今田の話が余計に気になってしきりに思い出してしまう。今田は友達だから嫌な気持ちにならないけど、やはりそんな言い方…俺には不愉快だった。


「チッ…」


 また…消したい記憶が思い浮かんでしまう。

 そして鏡の前に立って首筋に貼っているファウンデーションテープを剥がした。赤く染められた首筋から先生が感じられる、昨日のことは何も思い出せないけど…なぜか恥ずかしくなった。


「これは…いつ消えるんだ…」


 先生からつけてもらったキスマークを見て少し顔を赤めていた。そしてバイトに行くため、買ってきたテープを首筋に貼る。すると、ポケットから「ピンー!」とL○NEの通知音がしてびくっとしてしまった。


「びっくりした…」


 先生からの…

 いや、別に変なこと考えてないけど…先生から届いたL○NEに緊張してしまう。準備を済ませて家を出る俺はゆっくり歩きながら先生のL○NEを確認した。


 サクラ

『今日、晩ご飯一緒に食べよう!』


 晩ご飯か…ちょっと遅くなるかもしれないからやっぱりやめとく。


 返信

『今日は遅くなりそうです…先に食べてください。』


 返信した後、コンビニに入ってまた服を着替える。


「よっー!秋泉くん。」

「吉川さん、こんにちは。」

「蓮かー!」

「相変わらず元気ですね。店長。」


 今日のチェックリストを確認した後に売り場の中を見回した。俺がくる前に大体終わらせたように見えて、今は吉川とレジに入っている。


「暇だな…」

「そうですね。今日は忙しかったんですか?」

「先、店長一人でいた時には忙しいって言われたけどね。」

「店長はちょっと仕事しないと、フッ。」


 それにしても今日は本当に暇だった。たまにはこんな日もいいだろう…平和だ。


「ねね、秋泉くん。」

「はい?」

「なんか面白い話を聞かせてよ!」

「面白い話…って言われても別に面白そうなことないし…あっ!」

「何か思いついた?」

「いや、これはそっちの話じゃないですね。」

「なんでもいいよー暇だから聞かせてよ。」


 一つだけ、気になるのはあるけど…

 女の子に好きな人がいるって言われたことを吉川に言ってもいいのか、そもそも俺って吉川と親しいのか…?やっぱりダメだな。他の話題を考えないと…


「今、何か思いついたんでしょう?」

「…は?」

「言ってみて!」

「うん…大したことではないけど…聞いてくれます?」

「うん!」


 なんで椅子を持ってくるんだ…仕事しないのかよ…

 吉川の目はキラキラしている、まぁー俺もちょうど吉川に聞いてみるところだったからいいかもな。こんなこと先生には絶対言えないし…


「学校で女子から…好きな人いるって言われました。」

「へえ…?本当?モテるねー」

「でも、あの子彼氏いますよ。なんで私にそんなことを聞くのか、それが分からないんです。」

「ふ、二股なのか!」

「いや…さすがにそれは…あの子とあの子の彼氏も友達で同じクラスです。」

「そう?あの子が言ったのはそれだけ?その前に何か言ってない?」

「うん…あ、確かにそんなんじゃないから誤解しないでって言われた覚えがあります。」


 何かに思いついた吉川がにやついている。


「なんですか…」

「モテモテだよね…」

「え…?」

「やはり男子は鈍感すぎ…そこまで言われたのに何一つ気づかないとは…」

「え…私のせいです?」


 なんだ。俺だけ理解できないのか、本当に…?それにしてもモテモテってなんだ…


「周りにいるんでしょう…?秋泉くんを見ている人が…」

「すみません…女の友達ないんですけど…」

「ないなら、周りにいる友達の友達になる可能性とか一緒に遊んでる友達の中に他の女子とかいるんじゃない?」

「え…」


 そういえば…いるよな。山口みゆき…

 てか、そんなわけないと思うけど…山口みたいなスタイルいい女の子が俺みたいなやつと…?無理無理、そんなわけない。確かにちょっと気が弱いけど、山口は男子にモテる人だからな。


「フン…そんなことを悩んでたのか…」

「なんか嬉しそうな顔をしていますね…?」

「いや、秋泉くんはけっこうカッコいいから…やっぱりモテるんだ…って思っただけだよ。」

「普通ですよ…」

「隣にあの怖い美人がいなかったら、蓮くんのことを私がもらっていくつもりだったのにー」


 人差し指で俺のあごを持ち上げた吉川が色っぽい表情をしていた。

 吉川は金髪ロングで髪全体的にウェーブをかけた。近いところで見ると、ちょっと濃いメイクをしていわゆるギャルって感じだった。


 てか、今はそんなことを見る時じゃない…!


「やめてくださいよ…」

「なになに…?ドキドキした…?」

「雰囲気いいな…お二人…」


 用事を済ませて戻ってきた店長がこっちを睨んでいる。

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