第41話 二人の女子。−2

 急いで教室に戻る香奈、授業が始まる5分前なのに蓮の姿が見えなかった。もし蓮に好きな人ができたら、今までやってきた努力が水の泡になってしまう。どうしても彼に聞かなければならない香奈だった。


「香奈ちゃん、話はどうだった?」


 先に戻ってきた朝陽が手を振っている。


「よく分からない、まずは秋泉くんに好きな人がいるのか聞いてみなきゃ…」

「蓮か…ないと思うけど…」

「それでも確かめないとね!」


 チャイムが鳴く1分前、あくびをする蓮が眠そうな顔をして教室に入る。何も言わずに席に着く蓮とそれを見つめる二人、合図を送る香奈に頷く朝陽が突っ伏した蓮に話をかけた。


「蓮…?」

「…」

「もしかして…寝てんの?」

「あ、本当だ。」


 そのまま寝てしまった蓮にため息をつく二人だった。


「今日はなんか疲れているように見えるね…秋泉くん。」

「そうだな…」

「学校が終わったらカラオケでも誘ってみよう。」

「そっちの方がいいかも…」


 ———放課後。


 再び、目を合わせた二人が蓮に声をかける。


「蓮、今日カラオケどー?」

「今日は…うん、バイトがあるからダメだ。また今度にしよう。」

「…まじ?バイト…?」

「そうだけど…?」

「そうか…」

「なんだ…じゃまた明日。」


 香奈の方を見る朝陽が頭を横に振る。気が早い香奈はこのままじゃダメだと判断し、教室を出た蓮に追いかけてカバンを掴んだ。ちょうど隣のクラスで出るみゆきとその廊下に立ち止まった二人、香奈はみゆきの存在に気にせず声をかけた。


「話があるからちょっと時間いい?」

「ここじゃダメか…?」

「うん。」


 スマホの時間を確認した蓮がそれに頷く、そして人けがない階段で香奈が口を開ける。二人の話が気になったみゆきは下の階で息を殺していた。


「あの、秋泉くんってさ!」

「うん。」

「べ、別に誤解しないでほしい!これはそんなんじゃないからね?」

「分かった。話って何…?朝陽のこと…?」

「違う…秋泉くん、あの…好きな人いる…?」


 下の階で目をパチパチするみゆきが二人の話に耳を傾ける。ドキドキする心臓の鼓動が邪魔になるほど、緊張しているみゆきは上の階を見つめて蓮の答えを待っていた。


「えっ…?なんの状況?俺?俺が…?好きな人?」

「う、うん!そうよ!私は秋泉くんの好きな人を聞いている。」

「なんで…?」


 そう話しながら頭の中で考える蓮、彼には香奈の質問に対して慎重に答える必要があった。自分の答えによって面倒臭いことが起こるかもしれない、学生時代にはよくある話だ。誰が、誰を、この二つだけで盛り上がる時期だから蓮はためらっていた。


「え…それは気にしなくていいよー」

「まぁ…今は…」


 「今は」…下の階で緊張するみゆき。そして期待をする香奈、彼女は「ない」と言ってほしかった。「ない」だけ言ってくれれば4人で過ごす幸せな高校時代になる、と香奈はそう思っていた。


 だが、その話は自分とみゆきの願いだけ蓮の意見は少しも聞こうとしなかった。


「うん…今はない…」

「本当?」


 やはり「ない」を選択した方が学校生活に有利だと判断した蓮、「はい」と答えたら「誰?好きな子は誰?」みたいな質問が出るのを知っていたからだ。面倒臭いのは避けたかった蓮、そして彼にはすでに好きな人がいるからどっちを選んでも結果は同じだった。


「ならまだ好きな人がいないってことでいいよね!もしかして…いや!この話はまた今度にしよう!」


 一人でいやに浮かれている香奈を見ていた蓮が話す。


「どうした…?それがそんなに重要なことだったのか…?」

「うん!」

「なんで…?」


 理解できない蓮。


「ありがとう、次はまた4人で遊びに行こう!秋泉くん、じゃーね!また明日!」

「…待っ。」


 そう言ってから階段を降りる香奈に、何も言えなかった蓮はそのまま疑問を抱えて家に帰る。全く理解できない状況、香奈の話を思い出してそれなりに考えてみてもこれと言う解答は思い浮かばなかった。


「バイト先の吉川さんに聞いてみようか…」


 ———帰り道のみゆきの香奈。


「ないってー!みゆきちゃん!」

「う、うん…」

「よかったよねー」

「うん…ありがとう。私の代わりに聞いてくれて…」

「フフフッ。」


 まだ知りたいのは多いけど、まずは蓮に好きな人がいないってことで安心するみゆきだった。少しは余裕ができて街のカフェによる二人はまだ終わってない話の続きをした。

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