第66話 冬の物語、記憶の欠片。
———蓮と一緒に寝たあの日。
「はあ…私と同じ匂いがする…」
あの夜、私だけ眠れなかった。蓮くんがすぐそばにいてくれたから…
手が届く場所に蓮くんがいる。私はこっちに向いてすやすやと寝ているその姿から目を逸らさなかった。先からずっと繋いでいたこの手は離さず、お互い指を絡ませて体をくっつけるから気づいていなかった心の音もちゃんと聞こえる。
蓮くんの胸に顔を埋めると、その無防備な体が私のものになってる気がした。不安になった時はいつもこうやって私を抱きしめてくれたから、私にはこの体の温もりに癒されているのよ。
たまに…たまには先に寝ちゃうけどね。それは蓮くんのせいじゃないけど、一人で残された気分になって…ちょっとだけ寂しくなる。でも、その時は私なりの方法があるんだよ…
先言ってたよね…無防備って…
蓮くんが私と一緒に寝る時、いつもオーバーサイズのパジャマを用意しておく。脱がせるのも易いし…首から鎖骨まで見えるのが超可愛いのよ!これは、これは無防備な蓮くんが悪いんだよ…そうでしょう?私は悪くない…!
「いただきまーす。」
唇と舌から伝わる蓮くんの感触が気持ちいい。こうやって首筋から鎖骨の下までキスマークをつけてから、ようやく安心して眠れるんだよ。一つ一つ丁寧につけてあげたんだから、少しは感謝してほしいけど…起きたらいろいろ言われそう…えへっ。
「はあ…」
欲を満たした後は蓮くんの服を脱がせて濡れた部分を拭けばいい。それで終わり!
「半裸だ…!」
その後は寝ている蓮くんと体を重ねて、甘い夢の中で会えるのを祈るだけだった。
……
「うぇーっ!」
去年の冬、私はすごく酔っ払っていた。道の真ん中に吐き出して、家までふらふらと歩いていくあの日を忘れていない。とてもつらくて逆に狂った方が楽になるかもしれない寒い冬だった。
マンションの前にある電柱にくっついて目を閉じると、ある男の子が声をかけてきた。
「だ、大丈夫ですか…?」
「うん!私は!うん!だいじょうぶっー!」
「本当に大丈夫ですか…?」
ぼんやりして何も見えなかったけど、あの男の子に大丈夫って言った。その後、住所を教えたら自分も同じマンションに住んでいるって言われて…そこまで背負われて…そして私のベッドで寝ちゃった。
普通に寝ることじゃなくて、私からあの男の子に手を出して家に行かせなかった。
———振られた。
初めて付き合った彼氏に振られた。私が振られた日の帰り道、お酒をどれくらい飲んだのか分からないほど…あの人を忘れたかった。そのまま死にたい気分になって、自殺も考えたけど…周りの人に迷惑をかけたくなかったから諦めた。それは人として言えるもんじゃなかった…そしてやってはいけないことだった。
あの日もそうだった。
「今日は
亮平くんの誕生日に合わせて手作りケーキとプレゼントも用意していた。まだ約束時間まで余裕があるのに、焦ってドキドキする気持ちを抑えられない。亮平くんは甘いものが好きだから、喜んでくれたらいいな…
私たちは二人とも甘いものが大好きでどこでデートをしても食事の後は必ず甘いものにする決まりがある。「あーん」したら食べさせてくれるその顔が…私を見て笑みを浮かべたその顔が、とても好きだったよ。甘いものより好きな彼氏…恥ずかしい。
「亮平くん…」
想像するだけで顔が赤くなる…バカみたい、私。
私はドキドキしながら約束時間まで待っていた。でも、すぐ亮平くんと会えたかった私は約束時間より1時間早く家に着いてしまった。びっくりさせたかったから鍵を差し込んでこっそりと亮平くんの家に入った。
「亮平くんをびっくりさせる…フフフッ。」
ドキドキする気持ちを抑えながら亮平くんの部屋まで静かに歩く。すると、私は私の目を疑ってしまうほどの状況が目の前で起こっていた。それはあまりにもショックだったからしばらくその状況をぼーっとして見つめていた。
とても…激しい音が響いていた。
すごく……苦しくて息ができなかった。
本当に………今、見ているのが現実なのか。
全てを否定したかった。
「あっ…!あっ…!亮平くん…!うんーっ!」
「気持ちいい?えんちゃん!」
「気持ちいい…もっと、もっと!キスして…亮平くん…」
「えんちゃん!えんちゃん!!行くね…!」
「あー!はあ…」
「えんちゃんとやるセックスが一番好きだ!」
「あら…彼女が可哀想…」
何…?これ…
「あの、甘いもんばっかり食べるクソ女に合わせるのも飽きたぞ。」
「フン…それでどうするつもり?」
…もう、やめて。
「振ってえんちゃんにしよう!あの女、そこまで合わせたのに一度もやってくれねぇじゃん。」
「彼女の写真見たよ?すごく綺麗な人だったけど…後悔しない?」
「美術品じゃあるまいし、もういい。はあ…思い出したらムカつくよな…もう一回やろう!」
「うん、いいよ。」
もう…嫌だ。
体から力が抜ける…
「誰だ!」
人けに気づいた亮平が下半身にタオルを巻いて扉を開ける時、そこにいたさくらは床に座り込んで大粒の涙を落としていた。
「さ…さくら…?なんでここにいる…?」
「嫌だ…」
と、一言を言ってその場からすぐ立ち去った。
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