第67話 夏が始まる。
「もぐもぐ噛んでいるのがハムスターみたい…蓮くん。」
「からかわないでください…」
「可愛いよ。」
今日もいつものように先生と夕飯を食べている。こうやって一緒に過ごした時間はもう半年以上が経って、俺の中に隠した好きって気持ちがますます大きくなっていた。一人で我慢してきたはずの気持ちが…俺の判断基準が壊れている、多分先生が慰めてくれたあの日からその優しさに惹かれて、もっと先生のことを求めていたかもしれない。
一番我慢しているのは先生かもしれないのに、俺ってやつは…変なことばっかり考えている。てか、その前に先生は我慢をしていたのか…?それもよく分からない。
「ね、蓮くん。最近けっこうくるよね?うち。」
「…あ、すみません。やはり嫌ですとね…減らします。」
やっぱりそうだった…
最近は先生に会いたくて、ほぼ毎日来てるから…知らなかった。意識したらなんか恥ずかしくなる…
「えっ?いやいや、それじゃなくて。」
「え?なんの話ですか?」
「蓮くんがうちによく来るから嬉しいってことよ…バーカ。」
「…えっ?あ、そうですか…よかった。」
「ねね、蓮くん。」
頭を撫でる先生がこっちを見つめていた。
「はい。」
「こうなったらやはり一緒に住むしかないんだよね?」
「プッー!」
あ、緊張してみそ汁が…
「ケホッー!ケホッー!」
「大丈夫…?」
「え…へぇ?いいへ…たいジョブでふ…」
何変なことを出してんだ…俺…
さりげなく言い出したその言葉にすぐ心臓がやられた。やはり先生は我慢なんかしていない…こんな話は危ないって言っておいても無理だった。二人でいる時の先生は本能に従っているように見える。と、考えていても実は喜んでいる自分が恥ずかしい。
「それより…蓮くん!」
「はい!」
「二人の時はタメ口で言って!」
「一応、先生ですし…歳の差もあるから…そんなにやすやすと言えません。」
「むっー!」
頬を膨らましてこっちを睨む先生がそばにきた。
「一緒に寝たじゃん、もう夫婦だよ!」
「え…?先生、なんの基準?何を言ってるのか自覚してください…」
「夫婦!」
「恥ずかしいから…」
「じゃあ、首輪をつけることとタメ口で話すことどっちが好き?」
何その選択肢…どっちも苦手なんですけど、ワンちゃん扱いよりはタメ口の方がマシだ。でも…でも…今まで女子を下の名前で呼んだことがあったのか…緊張する。
「タメ口、します…」
「じゃ…言ってみて、蓮くんの声を私に聞かせて…」
こっちに耳を傾ける先生の耳元で囁く3文字、「さくら」。頬を染めて目を閉じる先生とそのそばから照れている俺、なぜか普通の日常がすごく楽しくなってきた。
「さくら…」
「…」
「これでいい…?恥ずかしい…」
「わあー!」
大声を出して俺を抱きしめた先生はそのまま床に倒した。
「いきなり…?どうした?」
「へへへ…」
横になって見上げた先生の姿、嬉しそうな顔で俺を見つめていた。今まで先生のいろんな顔を見てきたけど、今の顔はちょっと違う気がする。なんで見分けができるのか分からないけどな、これは本当に喜んでいる顔だった。
「下の名前がそんなに嬉しい?」
「うん!」
「なんで…?」
体に乗っている先生が俺の顔を触りながら額を合わせた。
「やっと、私のものになった気がしてね。」
「どこにも行かないよ…心配しなくてもいい。」
「ごめん、不安になるのが…癖になっちゃった。」
「変な夢でも見た?」
「ううん…」
先生の前髪を後ろに流して目を合わせた。先生の中にある記憶が心をかじっている。だから同じ言葉を繰り返す癖ができたかもしれない…不安になるから。こんなに可愛いのに、先生に傷つけたやつは一体どこの誰だ。
だから、俺は先生にそんな思いをさせたくないんだ。
「なんか…こうやってタメ口で話したら本当に恋人になった気がして恥ずかしい。先生なのに…先生にタメ口で話して、今こうやって抱きしめられて…」
「いやなの…?」
「もう…ちょっと待ってくれたら…俺からやってあげるつもりだったのに…」
「顔、赤くなっちゃったね。可愛い…」
「チッ…」
顔の上に落ちる先生の髪とちょっとエロい体勢、私にだけ見せてくれるこの姿がとても好きで…もう否定することができなかった。
どうしよう…本当に先生が好きになっちゃった。隠していた気持ちが…あやふやだった気持ちが…真っ直ぐ進んでいく。本当にいいのか…これで。
———まだ、少しは人が怖い蓮だった。
卒業するまでは…やはりダメだ。
「今年…」
「うん?」
後戻りはできない、こうなったら先生といろんな思い出を作りたい。もう夏だし、祭りとか海も行きたいな…問題は先生にそうする時間があるのかだ。
「夏だから!海とか、祭りとか!どこでもいいから夏の思い出が作れる場所にさくらと一緒に行きたい。」
もう、前向きで行こう。
先生のことがもっと知りたい…!
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