第68話 夏が始まる。−2

 先生と過ごした日から数日が経って、俺の学校生活もちょっと変わってしまった。それは多分白川の影響があったと思う…それからいろいろ振り回されて、休み時間とか昼休みとか二人きりになる時が増えてしまった。


 仲良くなったって言うか…今もこうやって白川と屋上にいる。彼女は片手にジュースを持ってさりげなく話をかけてきた。


「蓮くんはどうする?あの3人と…」

「あ、一応はほっておいて…とか言っちゃったから…それからなんの連絡も取ってない。」

「やはり、そうだよね。最近、山岸と今田も蓮くんに話をかけないよね…私が話をかけるけど、一人でいる時間が多いでしょう?寂しくない…?」

「え…どうだろうな…そんな感情を持ったことないから分からない。」

「だから、前にもうちと遊ぼうって言ったのに…」

「いや…それはちょっと…」

「バカ…」


 孤立された中学時代から慣れてしまった。どこに行っても同じだし…


「ねね、それでどこまで行った?」

「何が…」

「さくらちゃんとのスキンシップに決まってるじゃん!」

「は…?そんな関係じゃないし。」

「え…素直じゃないね。」


 床に座って壁に寄りかかる白川がジロジロこっちを見ていた。そしてスマホをいじってからまたこっちを見つめる白川、じっとして何も言わないから余計に気になるんだろう…なんとか言えよ。


「どうしたんだ。白川、言いたいことがあったら言えよ。」

「…」

「どうした?急に。」

「ただ、心配になって…」

「何が?」

「え…蓮くんに嫌われてるんじゃないかな…って。」

「別に…なんでそんなことを?」

「私のせいで嫌なことを思い出させたから…」

「もう昔話だろう。気にするな…」

「じゃあ…今年の夏、一緒に海とか行かない?」


 急に立ち上がる白川が近寄ってスマホの画面を見せてくれた。そこには2泊3日の旅行が書いていて、目的地はここからそんなに遠くない海だった。ウェブサイトに載せている写真を見たらけっこういいところに見えるけど、その前に先生と行きたかったから断っておいた方がいいかな。


「蓮くんを知ってる友達もいるよ。中井なかいくんって。」

「あ、俺より先に転学したあの中井なのか…?」

「うん、そうよ。他学校の友達と行く旅行だからどー?」


 白川の方から誘ってくれるのか…別に予定はないけど、まずは先生のスケジュールを確かめた後に答えよう。


「じゃあ、ちょっと考える時間をくれない?」

「うん、分かった。夏休みが始まったらすぐ行くからね。」

「うん。」


 そして教室に戻ってきて午後の授業を受ける。7月だろう、そして夏休みはおよそ23日くらいで始まるから…いや、7月23日…?ちょっと待って、何か忘れていたような気がした。ちょっと大事なことだと思うけど、考えても思い出せなかった俺はそのままぼーっとして黒板を見つめていた。


「じゃあ、今日の授業はここまで。しっかり勉強しろよー」

「はいー」


 全ての授業が終わった頃、俺はスマホを出して先生にL○NEを送る。一応、スケジュールを確認した後で…それより、引っかかるこの気持ちがなくならない。


 送信、サクラ

『さくら、白川に海に行こうと誘われたけど行ってきてもいい…?』


 心に引っかかることを考えていたら先生に変なことを送ってしまった。


 うん…?ちょっと待って、俺は今何を送った…?

 これはスケジュールの確認じゃなくて…まるで許可を得る状況だ。彼女でもないのになんでこんなことを送ったんだ。あれ、今更知ったけど…L○NEもタメ口で送ってしまった。


 返信、サクラ

『なになに?私から許可を得るの…?いいけど、浮気しないでね。』

 送信、サクラ

『変なこと言うな!』

 返信、サクラ

『タメ口も慣れたようだね。可愛い。』

 送信、サクラ

『知らない。後で…あの夏休みのスケジュール送って…』

 返信、サクラ

『うん、分かった!夏休みはちょっと忙しくなるかもしれないから、私のことは気にせず友達と遊んでもいいよ。実は二人で行きたいのに…羨ましい…(泣)』

 送信、サクラ

『でも…やはり海よりさくらと夏祭りに行ってみたいな…浴衣姿が見たい…』


 L○NEを送りながら頬を染める蓮、そして同じく頬を染めて職員室から足をバタバタするさくら。立場は違うけど、二人とも夏休みが来るのを楽しみにしていた。


「じゃあ、一応これで白川に電話…を…」


 連絡先のアプリを押す時、俺は周りに人影が近づいてくることに気づいた。ふと、見上げたところには腹が立っている顔で俺を睨む今田と目を合わせない山口が立っていた。


「あ、秋泉くん…」

「いつまで私たちを無視する気…?」

「いや、別に無視してないけど…」

「私が悪かった…ごめん…秋泉くん…ごめん…」


 なんですごく謝ってくるんだ…山口。


「何かあったら言ってよ。友達でしょう?」

「あ、うん。じゃあ…俺は用事があって。」

「座って…話がある。」


 俺の肩を掴んで席に座らせた山口が前に座る。すると、隣席に座った今田がこっちをすごく睨んでいた。何、今の状況は…何をする気だ。何も言わずに俺を見つめる二人、そして囲まれた俺は二人のプレッシャーに体を動けなかった。


 今更、白川の話が思い浮かんで…手が震えてきた。


 ごめん、白川電話は後でかけるから…

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