第69話 夏が始まる。−3
教室の中に残された3人、今田と山口は俺に話したいことがありそうだった。慌てる顔と怒ってる顔、久しぶりに話をかけられたらこうなるのか…ため息が出る。
口喧嘩はしたくないから、もうほっておいてくれ…
「それで…?なんの話?」
「最近の秋泉くん…変だよ…」
「別に…いつもと同じだと思うけど?」
「違う…あの、あの…最近私たちと一緒じゃないんだもん…」
「…」
空気が変だったのは今の無駄話でよく分かった。先から睨んでいる今田も…何が話したいのか分からない山口も、何しにここにきたんだ。それと今田の性格がちょっと変わった気がする、なんか昔の…一宮…
んなわけないよな…
「えーと、あの…」
気に入らない顔をして、足を組んでいた今田がうじうじしているみゆきの代わりに口を開けた。
「秋泉くん。」
「ん。」
「正直…私はがっかりしちゃった。白川に振り回されるなんて…私たちよりあの子が大事なの…?」
今田が悔しい声で話している。彼女はみゆきの気持ちを知っていたから鈍感な蓮が嫌だった。ここまで努力をしても分かってくれない蓮が…他の女の子に振り回されて仲良く過ごしていた友達と距離を置く蓮が…嫌だった。
そして今はさりげなく、無視をした。
とても嫌だった。
裏切られた気がして、ムカついていた。
「そこまで、もういい…俺は二人と口喧嘩などしたくない、ただ一人でいたいだけだからほっておいて。」
「…」
悔しくてムカつくけど、それでも友達だから4人で一緒に思い出を作りたかった香奈は涙を流した。思い通りにならない香奈は泣き声で話を続ける、どうしても蓮が自分の気持ちを理解してほしかった。
「なんで…なんでだよ。」
「今田…」
「か、香奈ちゃん…」
「なんで…分かってくれないんだよ…一緒にいい思い出を作りたかった。なんで秋泉くんはいつもそんなことをするの?」
そして香奈の涙を拭いてあげたみゆきが再び蓮に話をかける。
「あの…ちょっと…秋泉くん。な、夏休みになったら私たちと一緒に海…行こう!うちに…別荘があって…そこで4人で遊ぼう!」
先、白川に送ったL○NEの返事が来た。「了解」と。
だったら、みゆきが話してくれたその言葉に返す返事は…
「ごめん、約束があるから…」
「えっ…?」
「今年の夏は…友達と海に行こうって誘われたから…ごめん。誘ってくれてありがとう。」
あえて白川の話をする必要はないだろう。
「私…秋泉くんとはもう遊べないの…?」
「そんなこと言うな…次があるんだろう?」
「なんか寂しくなる…」
「今はちょっと…うん、来年もあるし。」
なんか、雰囲気を壊してしまったけど…今の俺たちは距離をおいた方がいいと思う。みんな…ちょっとリラックスして、その後に話し合おう。
みゆきが蓮を見つめて静かに涙を落としていた。
「山口まで…どうしたんだ。」
「…ただ、蓮くんと一緒に遊びたかっただけなのに。」
「え…?いや、あの…だからごめんって。」
蓮から届いた返事を読みながら廊下を歩く白川、外で聞こえる3人の声に教室の中を覗いた。その状況が面白くて、にやついた白川が大声を出しながら教室に入る。すると自分の声にびくっとする二人、白川はその顔をちらっと見てから蓮に近づいた。
「あ!ここにいたのー?蓮くんー」
「白川?」
こんなタイミングで教室に戻るなんて…お前ってやつは…
あえて、白川の名を言ってなかった俺の心遣いを無駄にさせる気か…
「あれ?話の邪魔になった…?」
「いや、今…ちょうど話が終わったところだ。もう帰るからまた明日、二人とも。」
沈黙する今田と山口、もう飽きた香奈とは違ってみゆきは二人が教室を出るのを睨んでいた。
「秋泉…」
「ごめん…香奈ちゃん。もういい…今までありがとう。」
スマホを握るみゆき。
「今からは私一人で頑張ってみるね…」
———香奈に見せる笑顔、そしてその死んだ目に映ったのは白川の後ろ姿だった。
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