第65話 邪魔。−3

 めんどくさい…でも、行くって言っておいたから仕方がなかった。


「…」


 今はそれより、蓮くんとあの女の子そして白川の方がもっと気になっているみゆきはスマホを出して美那にL○NEを送る。けど美那のトークルームまで入ったみゆきは考えた末に、状況がもっとややこしくなる可能性を心配していた。


「…いや、今はやめよう。」


 ふと、不安になったみゆきはポケットにスマホを入れて音楽室に向かった。


 音楽室の扉を開けたところには岩田がピアノの前に座っていた。薄暗いところでいきなりピアノを弾く岩田、なんか意気込んでるような姿に私は演奏が終わるまで待っていた。


 そして演奏が終わった後、岩田が私に近づいて顔を赤めている。言いたいことがあるのにうじうじして顔色をうかがう岩田に私から声をかけた。


「い、岩田くん…?ピアノ上手だよね…?」

「そ、そう…?」

「それで…?私にしたい話って何…?」

「あの…山口さんは好きな人がいますか?」


 わ…なんで嫌な予想は外れないのかな…


「え…?好きな人?いきなり…?」

「は、はい!」


 みゆきが慌てて答えを悩んでいる時、廊下には香奈がみゆきを迎えに来ていた。音楽室の中から聞こえる二人の声に気づいた香奈はこっそりその姿を覗く、そして告白の現場を見てしまった香奈が息を殺していた。


「え…うん、ごめん。私、好きな人がいるの…」

「山口さんは、いや…あの人も山口さん…が好きなんですか…?」


 一線を越える岩田、その話はみゆきの前で言ってはいけないことだった。顔色が悪くなるのを感じたみゆきは強いて明るい表情を維持していた。作り笑いをして岩田に優しいイメージを与える、同時に中の怒りを抑えながら…とにかく話を続けた。


「うん…何?」

「告白は…しましたか…」

「まだだけど…?」

「私にチャンスはありますか…?あの!私は山口さんが好きです!好きで、好きで…ずっと前から…」


 外で話を聞いていた香奈が自分の口を塞いで俯いた。


「ごめん…好きな人がいるから岩田くんももっといい女の子が似合うよ…私はそんなにいい子じゃないから…ごめんね。」

「1年の時から声をかけたくて、やっと勇気を出して…」

「その気持ちは分かる、だからね…ごめん。私もはっきり言った方がいいと思う…もっと優しい言い方もあるけど、それは岩田くんを傷つけるだけだよ…」

「…あの、人…カッコいいですか。」


 ここまで言ったのに…分からないのかな、うざい。


「うん…すっごくカッコいい人なの…ずっと前から好きだった人だよ…」

「そうですか…分かりました。」

「ごめん…」

「いいえ…いいえ…」


 あ、泣いてる…まじうざい。

 なんで、そこまでするの…?私よりもっといい子がいるって言ってあげても無駄なの?好きな人がいるって言ったでしょう…?大好きって言ったでしょう…?なんで、私の前で泣いたり、しつこく質問したりするのよ。


「…」


 すすり泣く岩田がその場に立っていた。


「もう…泣かないで…」


 あ、どうしよう…気持ち悪くて吐き出しそうだよ。


「すみません…振られて…自分の気持ちがよく分からなくて…」

「うん…」


 気持ち悪い…

 泣き顔が嫌なわけじゃない…その対象によって違うんだよ。私が見たいのは…


「なんで…山口さん…」

「…ごめん。」


 蓮くんの顔だよ。

 床に倒れて…私を見上げる時の泣き顔、優越感に浸って興奮するのよ。それがどれくらい気持ちいいことなのか…蓮くんは分かるかな…?とても可愛くてカッコいい、一生私の部屋に閉じ込めて飼いたいくらいだよ…蓮くん。


「…もう泣かないで。岩田くん、わ、私もう帰るから…じゃーね…」


 そして音楽室を出るみゆきは先の妄想ににやついていた。

 

 ねぇ…蓮くん、再びその顔を私に見せてくれない…?私なら蓮くんの身も心も満足させてあげるから…私は優しい、美那ちゃんのように殴ったりしないからね…?


 蓮くんは私に従うべきなのよ…


 会いたい…

 大好き…


「みゆきちゃん…?」

「あ、香奈ちゃん…」


 先の話を聞いた香奈ちゃんが困ってる顔で話をかけてきた。


「先の…話…聞こえたの…?」

「ごめん。私、そんなつもりじゃ…」

「いいの…」


 香奈を抱きしめるみゆきがすすり泣く。しばらくうじうじしながら香奈と階段を降りるみゆきは1階に着いた後、繋いでいた手を震わせて話をかけた。


「ごめん…香奈ちゃん。」

「何が…?」

「私のせいで…変なことを聞かせたよね…」

「うん…?いやいや、大丈夫!」

「用事って言ったのに…あの子が怖くて…変なことが起こるんじゃないかな…と思って、不安になって…」


 震えるみゆきの手を見て心配する香奈が背中で軽く叩いてあげた。


「ううん…大丈夫だよ!みゆきちゃん。」

「ごめん、ごめん…私が悪い…」

「みゆきちゃんは…心が弱いから…分かるよ。」

「香奈ちゃんが一番好きだよ…」

「へえ?一番好きだったのは秋泉くんじゃなかった?」

「えへへ…」


 みゆきの頭を撫でる香奈が笑っていた。少しは安心したようなみゆきの笑顔にほっとして、近所のカフェに連れて行く香奈。


 やはり、この子は優しいよね…

 

 ———蓮くんの邪魔になるのは私が全部排除するからね…じっとして待ってて…♡

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