第13話 お花見をしよう。
夜の10時、寝る前にベランダへ出た。ちょっと涼しい風、外から落ちていた桜を見つめて目を閉じた。お花見、今週のうちに行かないと今年は無理だよな…先生とお花見がしたいけど、先生と生徒じゃデートなんかできるわけがない。
「桜…見たい…」
「私?いきなり下の名前で呼ぶの…?」
「え?雪原さん?」
まさか隣に先生がいたのか、それよりなんで口に出したんだ。俺ってやつはもう…
「いいえ、先生のことじゃなくて…」
「お花見がしたいってことでしょう?」
「まぁ…そうですけど、今年は無理ですよ。」
「なんで…?」
「なんでって…今週のうちに行かないと、散ってしまうから…」
隣のベランダから先生が顔を出して話した。
「ここにいるじゃん、一緒に行く人。」
「え?」
パジャマでメガネをかけた先生が外に腕を伸ばしてこっちを見た。
えっ、今一緒に行く人って言ってたよな、先生。もしかして、俺と一緒にお花見をするってことなのか、あれは。
「蓮くんと一緒に行きたいんだよー」
「でも…雪原さん、私たち外で…」
「うん?外で…?」
そうだ。先生と一緒に外を歩くのが無理だったから、今まで我慢してきたんだ。二人は先生と生徒の関係だからこれ以上はいけない、俺はともかく一番危険なのは先生だ。
それを知っているから先生に…言わなかった。でも一緒にお花見がしたい、どうしよう…なんで俺はこんな大事な時にはっきりと決断を下さないんだ。
もう…夜は本当に変だ。と、俺は全てのことを夜のせいにしていた。
「ダメです。」
でもやはり先生のことを守る。
「え?なんで…?私、明日時間空いてるよ?」
「…とにかく、ダメです!」
2回「ダメ」と断られたさくらがムカついて頬を膨らませる。
「ね、蓮くん。こっち来て。」
俺は手を伸ばして手招きする先生の方に近づいた。
「はい…?」
「見えないから顔を出してくれない…?」
「うん?」
優しい笑顔を見せる先生が俺のあごを撫でていた。そして首を傾げる時、あっと言う間に先生の右手が俺の両頬を掴んでしまった。いきなり両頬を掴まれた俺は先生と目を合わせるしかできない状況になって、そのままをじっと見つめていた。
「他の女でもできたかな…?蓮。」
「あの…ふ…つうに…し…んぱい…でぇ…」
「蓮…無駄話が多いよね…?私が言った通りにしてくれない…?」
「は…いぃ…」
「全く…黙って私に従えばいいのに…悪いワンちゃんには首輪をつけたくなるから気をつけて…ね?」
何度も先生に勝ちたいって心の底から思っていたけど、やはり大間違いだった。多分二十歳になるまでこのまま大人しく従った方がいいと思う、いやいやいや…これはまるで先生のワンコじゃないのかよ。
「答えは…?」
「分かったよ…」
「タメ口…?」
「分かりました…」
「よしよし!」
両頬を掴んでいた手で頭を撫でる先生が手すりに寄りかかって俺の方を見つめた。
「やっぱり蓮は可愛いね。」
「い、いきなりなんですか…!」
「可愛いから…?」
笑ってくれた。
「あの、可愛いことより…」
「より…?何?」
「たまには雪原さんにカッコいいと言われたい…」
「…えっ?」
もう寝る時間なのに、何を言っているんだ。馬鹿馬鹿しい…
「な、何よ!か、カッコいいとか知らない!早く寝てよ!明日L○NEするから!じゃあ、おやすみ!」
と、ベランダの窓を閉じる音が聞こえた。
それを10秒以内に話すんだ…ある意味ですごいな。
「お…やすみなさい。」
そしてさりげなくベッドに横たわる俺は明日のために目を閉じた。
目を…閉じる。
目を……閉じてくれないか。
「どうしよう…眠れない。」
先、先生に触れた感覚がまだ顔に残っていて気持ちを抑えない。起きてスマホでもいじってみようと思ったら時間はもう11時43分だった。今すぐ寝ないと明日絶対起きられない、どうしようもないから枕に顔を埋めて寝ることを選んだ。
———だから俺は夜なんか、大嫌いだ。
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