第88話 君がいるから。−3
「どう?気持ちいい…?蓮くん。」
「とこけるような甘さ…」
先生のキスがますます激しくなってる。なんか先生の雰囲気に圧倒されて主導権を取られた感じ、ちらっと見た先生の目はまるで獲物を捕らえる時の猛獣みたいだ。見下す時の視線に色気を感じて、先生のその白い首が噛みたくなるんだ。
「蓮くん、私に惚れたんでしょう?」
「え…?」
本能的に先生から顔を逸らした。
「なんで答えないのかな…?」
そばに座る先生がにやついた顔をしてこっちを見つめる。
「ねえ、蓮くんー聞いてるじゃんー」
「ちょっとだけ…」
「へえ…顔は大好きですーって書いてるんですけど?蓮くんー」
「もう降りるから…!からかわないで!」
「へへ…」
先生と一緒に遊園地を見回ったらいつの間にか日が暮れる時間になって、俺たちは夜の公演が行われるイベントステージに向かった。パンフレットに書いている通りならまもなく盛大な公演が始まる予定で周りの人たちもますます増えていた。
「楽しみだよね?蓮くん!」
「うん。」
そして始まる盛大な公演に人たちはが盛り上がっていた。始まりの歌と演技そしてダンスまで見られるすごいパフォーマンスに拍手を送る、俺もそばにいる先生も輝いている演技者を眺めていた。
「ねえ、蓮くん!」
そばで手を繋ぐ先生、公演が終わるところで声をかけた。
「楽しいよね?」
「うん、すっごく。」
二人きりの時間を過ごすのが大好きだ。
こんな幸せな時間を送る時に俺はたまたま、先生が高校生だったらどうなるかな…と考えてしまう。誰よりも俺のことを理解してくれる人は先生が初めてだった。もう中井みたいな友達もいないし…朝陽との関係もあの日で崩れたかもな…俺は一人になっていた。
「私も!」
蓮の方を見て笑うさくら。
「…」
お父さん、俺さ。
歳がけっこう離れている人が好きなんだ…お父さんだったら理解してくれる?同じ学校にいる先生が好きなんだ。初めては…ただ困っているように見えたから手伝ってあげただけ、その後は何かを怯えているように見えたからそばにいてあげただけ…
これさ、「縁」って呼ぶやつだよな…?
一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、心の底には先生のことでいっぱい積み上げていた。そんな感情を無視したかった…いけないことって知っていたからだ。でもさ、それがそんなに大事なのかと思ってしまう。もう…先生がいない現実は想像すらできないほど、先生が好きなんだ。
怖がっていた昔から今まで俺は前に進もうとしたから見守ってくれないか。あの時は人を信じられなかったからいまだに友達がないんだけど、先生がそばにいてくれるなら俺はあの時を克服できるかもしれない。
———叶うはずもない夢を見ている。
ちょっと歪んだ形になっているかもしれない…
でも、正しいか正しくないかは自分の目で確かめたい。もう決めたからさ!ずっとあの人のそばにいたいと決めたから…
「蓮くん…?」
だから…一歩を踏み出す。
「蓮くん…!」
「あ、うん。」
「どうしたの…?ぼーっとして!もう終わったからね。」
「あ…ぼーっとしてた。」
「バカ…夕食を食べようよ!」
頭の中を埋め尽くす先生と言う存在、レストランに向かっている時も食事をしている時も頭の中にはもう先生しかいない。俺は今食べている料理の味さえ感じられないほど、悩んでいた。そんな俺の気持ちなんか分かってくれないんだよね…先生。
「蓮くん、どうしたの?さっきから…変だよ?」
やはり…それはあの日に渡した方がいいかもな。
「何も…ない!何もしてない!」
「うん…?」
それからまたぼーっとしていると、先生がこっちに手を伸ばしてテーブルを叩く。
「私に集中してよ。」
「ごめん…ちょっとぼーっとしてた。」
「もう…」
「何の話だった…?」
「今日はホテルに泊まるけど、いい?」
「うん…?」
「車あるじゃん…」
「へへ…」
と、笑っていた先生が手にワインを持っていた。顔が少しずつ赤くなったのはワインを飲んだせいか…ワインを飲んちゃったら運転はできないよな。てか、先生は男といるのにさりげなくアルコールを飲むのか…何かされたらどうするつもりだ。
「飲んちゃったー!」
「何…その嬉しそうな言い方は…」
「へへ…ホテルで寝るから心配ないー!」
「適当に飲んで…」
「はいー!ワインなんだから酔わないよ。」
「分かった…」
食事が終わった後、先生と手を繋いで隣のホテルに向かった。
「わあー!綺麗な部屋だ。」
外の夜景を眺めて浮かれる先生と後ろのベッドに座ってる俺、部屋の照明は先生一人だけ照らしているようだ。いや、違う…薄暗いこの部屋を照らすのは先生の存在かもしれない。じっとして先生の方を見つめていたら、ずっと堪えてきたこの感情が溢れる…
「ねね、蓮くん。外見て!夜景が綺麗よ!」
「あの、さくら…!言いたいのがある…」
「うん…?」
———もう、ダメだ。
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