第70話 ストリート・ピアノ

 最近、あちらこちらでストリート・ピアノが置かれていることに気づきます。わたしがいつも使っている駅の近くにもストリート・ピアノが置かれました。


 ――だれが弾くというのだろう。


と思って見ていましたが、意外に大勢の人がピアノを弾いていくようです。そして、これもまた意外なことに、とても上手な人が多いのです。観客のリクエストに応じ、即興で弾いてくれる人もいたりして。


 ――すごく上手。音大出? プロ?


 さして大きな町とも思えない町なのですが、芸達者な人はいるものです。


 わたしは音楽ができない(小学生の頃、ハーモニカを満足に吹けなかったトラウマが……)うえ、恥ずかしがり屋なので、人前で楽器を演奏するなどもってのほか。街角に置かれたピアノを演奏するなど想像もできなかったのでした。


 ピアノのそばを通るたびに、「触ってみたいな」「どんな音が出るのだろう」と思うのですが、「演奏のできない、触っていいものじゃないんだろうな」と考えてしまって、触れてみたいのに脇を素通りしてしまうのです。


 ――わたしなんかが

 ――どうせわたしなんて


と考えちゃだめなんでしょうけど(笑)




 思い返せば、小説を書くことについても似たようなことを考えていたような気がします。小説を読むのが好きで、高校生の頃にはひとり、小説の創作をしていました。


 ――小説が書けたらいいなあ。


と、なんとなく思っていました。でも、本屋さんに並んでいる本物の小説は、わたしの書く下手な作文とは別種のなにか高尚な文章と感じられたものでした。人様に見せるだなんて、とてもとても。


 あれから長い月日が流れて、あのころノートに鉛筆で書いていた文章は、スマホをタップすることでも書けるようになりました。だれも読んでくれなかった小説も、インターネットの小説投稿サイトに投稿すれば、心優しい読者さんが読んでくれると分かりました。


 人様には見せられない?


 そんなことは全然なくて、肝心なことはやってみせるかどうか。それと読んでくれる人に感謝することでしょうか。いつも、ありがとうございます。


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