第76話 ここはストリップ劇場

 数年前、県内某所へ出張した際、山間やまあいの温泉街に一泊しました。温泉に浸かって、ひとり羽を伸ばして眠ります。プチ一人旅な気分です。


 次の日は、早く目が覚めました。

 朝ごはんにはまだ時間があるので、ホテルの周りを散歩することにしました。温泉街の道にほとんど人影はありません。


 ここは、昭和の時代、60年代から80年代にかけて賑わったむかしの温泉街です。過疎化の波が押し寄せる街は、どこもかしこも古びていてどことなく寂しげです。


 細い路地を歩いてゆくうち、いまは農機具倉庫に使われている「劇場」の前で足が止まりました。温泉街の劇場=ストリップ劇場です。バブル期までは、全国どこの温泉街でも普通に見られた小規模、低俗、低料金のストリップ劇場です。


 いまは客席もステージも、何もかもが取り払われて、コンクリートの地面の上に埃を被ったトラクターが並んでいます。ここがストリップ劇場であったことは、外壁に「◯◯劇場」とペンキで書かれているから分かるのです。ペンキは激しく剥げていて、ずいぶん前にストリップ劇場を廃業したことが分かります。


 むかしは夜になると、ホテルでの宴会を終えた団体客がこのストリップ劇場に集まってきていたのでしょう。当時ですら、ここはうらびれていて、入り口で入場券を切っていたおばさんが後でステージに上がるような、そんな場末の劇場だったに違いありません。


 いまは屋根と柱が残るだけのがらんとした倉庫になって、埃にまみれた農機具が並んでいるだけです。ひんやりとした朝の空気に目を覚ました山間の温泉街が見ていた儚い夢の跡です。


☆☆☆


 カクヨムって、ストリップ劇場のようだと思うことがあります。小説を書くって、書き手の内心を晒すような行為だから。はいているパンツを脱ぐような行為だと思う。


 ――小説を書いているんですよ。


 なかなか言えないですよね。


「どんなのを書いているんですか?」


 などと聞かれようものなら、


 ――えっと。


 あれは恥ずかしい、これも恥ずかしい、それは人間性に疑問を持たれそうだと、人に見せられないものばかり書いていたりしませんか。わたしはそんなのばっかりです!


 カクヨムはストリップ劇場なんですよ。

 書き手はストリッパーです。ステージ(小説)の上でパンツを脱ぐんです。気前よくぽんぽん脱ぐ人もいれば、恥ずかしそうに「これくらいでいい?」ってな人もいます。ストリッパーそれぞれの個性の楽しんでくれる観客がここにはいて――やっぱり、ストリップ劇場ですね(笑)


 さあ、おもしろい小説書くぞ(おれの脱ぎっぷりを見てろ)〜!

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