第4話 ひとりで書いてるんじゃねーよ
思い返すと、わたしは「絵の小説」を書いてきたと気づきました。
カクヨムに上げている小説、50余り(増えたなあ)のうち少なくとも5つは「絵を描くこと」を描いた小説です。世の中いろいろなテーマがあるっていうのに、絵を描くことをテーマに据えた小説が10パーセントを占めるなんて、割合が高すぎますよね。
好きだから。ずっと気になっているからなんだと思います。
web小説を書いているんですけど、どうにかすると文章より絵の方が好きだったりします。いまはコロナ禍で美術館へ行くことはできていませんが、絵の展覧会へ出かけることも大好きです。
――おもしろいな。
気になった絵の前には、ぼーっと立って眺めます。
だいたい「展覧会の絵」というものは、絵の脇に小さな解説板が貼ってあって、いつ、だれが描いた、なんという絵で、その絵の関するエピソードが云々……というようなことが書いてあるものです。この解説板を熟読。再度、絵の正面に立ってぼーっと眺める。
至福、至福。
ときどき奥さんと一緒に展覧会へ出かけます(家においていくと機嫌がわるい)が、芸術全般に興味の薄い彼女は、さっさと歩いてしまって、中規模の展覧会ならものの30分もかけずに見終わってしまいます。
「早く歩きいな。遅い!(関西風のイントネーションでお願いします)」
わたしは展覧会に出かけると、まあ2時間はじっくり絵を見ているので、ふたりのリズムが合いません。そして奥さんが怒りだす……美術館へはひとりで行きたい。
……。
奥さんのことを愚痴りたいのではありません。
いま読んでいるマンガの話をしたいのです。
『ブルーピリオド』(山口つばさ アフタヌーンKC)
最近読ませてもらってる一宮けいさんのエッセイで紹介されてたんですが、一読して気にいりました。ぜったいに面白いやつだと。おれ向きのマンガだと。
四巻まで買って読みました。
ビンゴ‼ 完璧わたし向きのマンガでした(大歓喜
物語は、美術に関してはまったくド素人である高校生、矢口八虎(やぐちやとら)が、美術部の先輩の絵に触発されて一念発起、「芸術界の東大」東京藝術大学(藝大)入学をめざす……というお話。
まず、絵の好きな素人という八虎の設定が、わたしにすごくシンクロしてて楽しめます。遠近法とか、色彩とか、構図とか、むかし美術の教科書で見かけた絵の基本についてページを割いて解説してくれる。
基本的に、主人公の八虎が絵を描く技術を習得していって、だんだん絵がうまくなるというマンガなんだけど、時折行き詰る。そこを突破するためのヒントとなる言葉を美術の先生や友達がくれて――八虎が壁を乗り越える……というパターンが4巻までは繰り返されています。
この「八虎がもらっているヒント」っていうのが、絵に限らず創作の本質を突いていてシビレます。
「人は神と自分を比べることができない。悔しいと思うならまだ戦える」【すごい才能をもった人間と出会い、自分を見失いかけた八虎に友達がかけた言葉】
「デッサン力は大事だよ。絵に説得力を持たせてくれる。でも最も大事なのは『自分の絵』を描くこと。『作品』はその作家が出したひとつの『答え』。まずは、自分がなにを好きか知ること」【絵が分からないという八虎へ予備校の先生からのアドバイス】
「芸術に失敗は存在しない。受かる受からない、売れる売れないなど、世界にはいろんな価値の基準があります。(でも、それといい絵は違う)「失敗」という概念は一度捨ててみて。そしたら今まで得た技術知識――があなたの味方をしてくれますよ」【自分の描いているものの良し悪しがわからなくなった八虎へ、美術部の先生からのアドバイス】
「他の作品を把握するのは良いことだけど、比較しすぎるのは危険なの。一位の絵じゃなくて、矢口の『最高の絵』を目指さなきゃね」【藝大の合格作品と自分の作品を比べて落ち込む八虎に予備校の先生がかけた言葉】
わたし読んでいると、すべて自分と小説のことに置き換えて読んでしまう。めちゃ心に刺さりますし、元気が出てきます。ひとりで書いてるんじゃねーやという気持ちになれます。
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