ー第5章ー
第75話 いざ、カサノヴァへ!
「プロテインよしッ! ダンベルよしッ!」
──指差し確認、タンパク質よ〜し!
「え〜と、これと、これも……」
その横でシャルロットとメイメイが、散らかった荷物を整理している。
「これも入れるアル。シャルちゃんにプレゼントネ」
「わ〜、ありがとう、メイちゃん!」
──え……。
「え……」
シャルロットも俺も固まる。
メイメイの手には、貝殻の際どいパンティーが握られていた……。
あれから、3日。
バーバラは、アルスター城史上初の女性宮廷メイドの職に就いた。亡命したその身をソロモン王は、手厚く歓迎した。
彼女の心の傷は、きっと癒えることは、ないだろう。
それでも、ソロモン王ならどんな形であれ、彼女を救ってくれるだろう。
それから俺は、アルスター支部のジムのインストクターの育成も行った。
もてる知識を全て叩き込んだ──とは、いかず、主にバーベル、ダンベルを使ったフリーウェイトを重点的に教え込んだ。
ゲイ卓の騎士とサイモン将軍が、この街のジムを切り盛りしてくれるだろう。
ガチャン──とドアが開く。
「おう、旦那。こっちはいつでも出発できるぜ」
ゲシムが顔を出す。
「寂しくなりますね」
と、その後ろからアウラが顔を出した。
「バーバラさんは、どんな感じですか?」
「えぇ、淡々とお城のお仕事をこなしていますわ。今は忙しくしていて、ちょうど良いのでしょう」
「そうですか……」
反乱軍の国家、カサノヴァ帝国。
バーバラは栄養失調で、死んだと思われる赤子の亡骸と、このアルスター王国にやってきた。
彼女の栄養失調状態も、とても酷いもので、免疫力もなくなっていた。
怪我した足の自己再生が困難になり、その引きづり歩いた足は腐敗していたのだ。
彼女の話によると、カサノヴァの民はほとんどと言っていいほど、飢餓状態がデフォルトらしい。
老若男女問わず、飢饉で亡くなる人が相次いでいる。
──なぜ、そんな状態なのか?
『数年前までは、そんな事はなかったのです……』
バーバラの話では、カサノヴァ王率いる反乱軍を中心とした帝国は、それはそれで上手くやっていたらしい。
しかし、2年前。
魔王軍が侵略してきて、人が変わったかのようにカサノヴァ王は独裁的に変貌を遂げたと言う。
カサノヴァ王の側近達と政敵と見なされた者は、皆殺しにされたそうだ。
『私は元々カサノヴァ産まれなので、教え聞かされていた悪魔のアルスター王国と洗脳されていました。えぇ……、こちらに来て、大変驚きました』
彼女は、涙を浮かべ俯き言葉を繋げる。
『もし……、もし……、そんな話を信じずにこちらに来ていれば……あの子は、あの子は……』
──とても大胸筋が痛い話だ。
今も同じように苦しんでいる人達がいると聞いた。
そんな俺たちは、満場一致で次の旅先に、カサノヴァを目指す事にした。
「ほっておけないよ!」
と、真っ先に言葉を発したのは、シャルロットだ。
もちろん俺もそう思った。メイメイも、バーバラの話に胸を打ち──
「そんなクソヤロー、メイメイが、たらふくハナクソ喰わせてやるアル!」
と、息巻いていた。
詳しく状況を聞くに、謎の宗教が横行していて、国民達は食糧や財産を吸い上げられているらしい。
犯人は魔王四天王の1人、ラプラスの右腕と言われる同じ人間族のキルケーと呼ばれる魔女。
魔王軍のことは、よく知らないけどこの目で確かめる必要性を感じた。
──そういう事で。
俺たちの新しい旅が、始まった。
そうそう──、プロテインを普及するに至って、まずミノタウロスが管理する魔王軍支部にも配給を頼んだ。
そして、ディズルの森のみんなにも届けてくれるらしい。ありがたや、ありがたや。
アルスター王国から、距離にして1,000キロ。
バーバラさんは、あんな華奢な体でこの広大な砂漠を乗り越えてきたと言うのだから、驚きだ。
ソロモン王は馬車を一台くれた。
ゲシムの運転で、俺たちはカサノヴァを目指す。
◇◇◇◇◇◇
「熱ちぃ〜。熱いアル……」
馬車窓に顎を乗せ、だらりとうなだれるメイメイ。
「さすがに、ソロモン様の加護がないと厳しい熱さだね」
両手でパタパタと仰ぎ風を送るシャルロット。
「もう五日も、寝ずに24時間、君達にアイスやら冷たい冷気を送り続けたせいで、僕のMPもすっからかんだよ」
シャルロットの肩にうなだれてジンが言った。
『んももぉぉぉ──!!』
突然、馬車を引っ張るトリタウロスが、唸り声を上げて暴れ出した。
俺たちは驚きの声を上げて馬車から、振り落とされないようにしがみついた。
──な、なんだぁ!?
「何やってるアル、ゲリムッ!!」
「きゃぁぁぁ──!」
女性陣の声がこだまする。
「ち、ちげーよ! ビックリアントだ! くそでかいぞ!」
ゲシムは、トリタウロスのコントロールを何とかしながらアリ地獄に入らないように右往左往する。
「やべーぞ旦那ッ!」
慌てて手綱を握るゲシムの先には、二階建ての家程の大きいビックリアントが立ち塞がっている。
──で、でかい!!。
【540,002/302,000】
カロリー54万にタンパク質30万か。
さすがに、アリのように堅そうだ。
「めんどくさいアル〜、熱いアル〜、很熱アル〜」
『シャァァァ──!!』
ビックリアントは、突然二本足で立ち上がり、更に威嚇してくる。
「こ、こいつ立つのか!?」
「はい、どぅどぅ!」
ゲシムがトリタウロスを宥めて落ち着かせる。
──しかたない。俺が行こう。
俺は馬車から飛び降り、肩をくるくる回した。
やはり、運動の前はしっかりと肩甲骨をほぐさないと、何ごともパフォーマンスが落ちてしまう。
股関節が硬いと怪我もし易くなるので、ストレッチも忘れずに……。
「俺がやるぜ旦那……」
股関節をほぐす横にゲシムが立った。
「あ、じゃあ、お願いね」
「おい! 早ぇーな! おいッ!」
俺は、そのままゲシムに任せて馬車に戻った。
ゲシムはアルスターに滞在中に、ひたすら足腰を鍛えていた。
打撃にもっとも重要なパーツは、重心を司る足腰と体幹であると言われている。
パンチやキックなどの打撃を繰り出す度に、重心がブレてしまうと、クリティカルポイントがブレてしまい体重が逃げ、ピークの打撃がヒットしない。
重心がブレてしまうと、体の戻しがワンテンポ遅れ、スキが生まれる。
そして次に大切なのは、力だけでなく距離感。
パンチか蹴りのクリティカルポイント、つまり伸ばしきった瞬間のピーク時にヒットさせる。
相手も動くうえに、反応されてしまうとクリティカルヒットしない。
ゆえに、助走などはなく、最小の動きで、反応をさせない、詰め寄る踏み込みが必要。
メイメイのように企画外の踏み込み、またはゼロ距離でも粉々にしてしまう技術は謎だが……。
それでもゲシムは、達人の域にいる武術家なのは間違いない。その彼が、ひたすら鍛えた足腰のパワーを見せてもらおうか。
『シャァァァ──!』
ビックリアントは、腕を振り下ろす。
ど──ん!!
──はやっ!
巨体と見た目からは、想像もつかない音速。
振り下ろし終わったあとに、風を切る音が聞こえた。
「なかなかやるじゃねーかアリンコロ……ヒュー」
ゲシムは、サイドに避けて構えをとった。
「俺様が、ブルガリアンスクワットで鍛えこんだ体感と足を見せてやるぜ。見てろよメイメイッ!」
◇◇◇ブルガリアンスクワット◇◇◇◇◇◇
──通常のスクワットの片足版。
下半身の非常に大きな筋肉を鍛えることができる。下半身がどっしりし、土台がしっかりすることで、安定感が増すことはもちろん、代謝が上昇して、太りにくい身体が手に入るというメリットもある。
大腿四頭筋、大臀筋、ハムストリングスを鍛える。
やり方。
椅子または、台の前に立ち、片足を椅子に乗せる。
手は胸の前や頭の後ろで組む。
前足の膝をゆっくりと曲げていく。
このとき、背筋が曲がらないように気をつけよう。
膝の角度が90度になるまで曲げ、90度になった時に、つま先より前に膝が出ないように注意。
ゆっくりと元の体勢に戻ります。
10回3セット行い、逆足でも同様に繰り返す。
◇◇◇◇◇◇
「フォァチャァァァ──!」
ゲシムの回し蹴り一撃で、ビックリアントの片腕が斬り飛ばされた。
「最高の蹴りは、最高の足腰と体感と、カチカチのスネで生まれんだよぉぉぉ──!」
ゲシムは、そのまま猛攻を繰り出しビックリアントの堅い体がドンドン蹴り壊されていく。
「消えちまえなぁ──! フォァチャァァァ──!」
飛び蹴りをかまし、ビックリアントは星のように飛ばされた。
「見たか!?」
振り返るゲシム。
俺は親指を立て奮闘を讃えた。
「グガァァ──」
メイメイは爆睡し。
シャルロットとジンは、砂遊びでお城作りに夢中になっていた。
「見てみてジンちゃん、アルスター城だよ」
「よく出来てるね〜」
──どんまい……。ゲシム。
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