第63話 フォームをだいじに!


「マミーGよ。安らかに眠れ……」

 ミノタウロスが胸に手を当て追悼を祈った。

 

 R.I.P、マミーG、安らかに眠ってくれ……。

 俺もマミーGに追悼の意を示し祈りを捧げた。

 

「さて、好敵手よ。これより吾輩達の勝負の時だ」

「あぁ……」

 俺は気持ちを入れ替えてグッ奴を睨んだ。

「よい、顔をするではないか」

 ミノタウロスは、ニヤリと笑った。

「それではルールを説明する。おい、キラーマシーンよッ!」

 機械の稼働音が響く。

 ガガガガシャンと鉄が地面を揺さぶり嫌な音鳴らせる。

 キラーマシーンと呼ばれた魔物が俺達の前に現れた。


 鋼の体……、と言うより、もはやロボットだ。

 その背中には弓を背負い、両手には剣を持つ。

 配線剥き出しの関節だが、それとは真逆の性質を示すかのようにずんぐりとした胴体。

 ギョロっと顔の真ん中に真っ赤な目玉だけがある。


【0/0】

 

 カロリーもタンパク質もない、ただの機体だ。

「ソレデハ、ルールヲ、セツメイシマス……」

 キラーマシーンは、ルールの説明を始めた。


 HANZOルール。

 

 プレイヤーは2人同時にスタートをする。

 各エリアに仕掛けられた仕掛けを攻略しながら進んで行く。

 魔法や所持アイテムを使用してのクリアは無効。

 各エリアに配置してあるアイテムは使用可能。

 相手プレイヤーに妨害行為、殺害行為は認められている。

 相手プレイヤーに妨害する場合のみ魔法やスキルが有効。

 死ななければマグマに落ちてもエリアの振り出しに戻れば再挑戦が可能。

 最終的に最終エリア頂上に設置された赤いボタンを押した方の勝ちとなる。


「イジョウガ、ルールニナリマス」

 なるほど……、大まかなルールはわかった。

「シツモンハアリマスカ?」

「ハイッ!」

 ミノタウロスが元気よく手をあげた。


 お前が質問すんのかいッ!

 思わず心の中で突っ込んだ。


「食事やエネルギー補給は可能か?」

「ショクジハ、カノウデスガ、アイテムニヨル、ドーピングハ、ゴエンリョネガイマス」

「了解した」

 

 いや、お前の作ったルールじゃないんかい!

 更に心の中で激しく突っ込んだ。


 すると、悲鳴やら足音だの入り口の方が騒ぐしなった。──一同が入り口の方を注意を払う。

「エレちゃん!」

 どこからともなくメイメイの声が聞こえた。

 メイメイが、サイモンとゲイ将軍を引き連れて入口に立っていた。

 右手には、ボロ雑巾のように引きづり回されたカンフー着の男が泡を吹いて失神している。


「みんな無事だったの? 良かった」

 俺は皆に向かって叫んだ。

 あの引きずられてる人は……あれ?

 え? 誰?


「オカマ共はメイメイが、助けたアルヨ」

 そう言ってこちらに来ようとしたが、ベオウルフがそれを静止する。

「おっと、あんたら何さね?」

「お前こそ何アル?」

「威勢のいいガキだね。ここから先は行かせないよ。ん? おい、ゲシム、何やってんだいアンタ!」

 どうやらあのボロ雑巾の様に引きずり回された男はゲシムと言う名らしい。


「邪魔すんな犬ババア、メイメイはエレちゃんに用があるネ」

「い、犬ババアだと!? このガキ引き裂いてやろうか!」

 ベオウルフが激怒している。

 

 今にも一触即発だったが、その後ろからシャルロットとジンが駆けつけた。

「あっ、メイちゃん!」

「リヴァイアサン!」

「おー! シャルちゃんと詐欺精霊、みんな揃ったアルネ」

「そ、その言い方はよしてくれないかな……」

 ションボリするジン。

「エレイン!」

 そう言ってハニカミながら手を振るシャルロット に俺も手を振って返した。

「こ、ここ凄い熱いね……」

 シャルロットは額の汗を拭う。

「この変な建造物は何かな?」

 ジンがキョロキョロとHANZOを見渡す。


 シャルロットも無事だ。

 みんな揃った。


「さて、観客も揃ったところで……」

 ミノタウロスはこちらを見て。

「ケルト・ロールッ!」

 突然、指を突き立て叫んだ。

 すると陽気な音楽と共に楽器を演奏しながらホビット達が行進して現れた。

 フルートやバグパイプ、アコーディオンやバイオリンを演奏している。

 ロックンロールならぬ、ケルトミュージックだ。


「フォ──ッ!」

 奇声を上げるミノタウロス。

 狂ったように激しく踊り狂う。

「カモンッ!」

 キラーマシーンをエスコートする。

 

 キラーマシーンも機械音をギシギシ言わせながら踊っている。

 しかし、俺を含めた一同が翻弄され立ち尽くした。

 

 どうしよう……。

 何故か、何かしなきゃいけないと言う衝動に駆られる。

 どうしていいか、わからない。

 とりあえず俺は音楽に合わせてスクワットをした。


「フォ──!」

 再び奇声を上げ1回転し、ピタリと止まった。

 

「「「わぁ──!」」」

「「「ミノタウロス様ぁー!」」」

 ホビット達が拍手喝采を上げた。

 

「さぁ、余興は終わりだ。位置につけ好敵手よ」

「お、おう……」

 なんだか翻弄されっぱなしだな……。


 俺達はスタート位置についた。

「イチニツイテクダサイ」

「好敵手よ」

 ミノタウロスが、俺を呼ぶ。

「ん?」

「スタート時にまず〝ぐるぐる地押し〟を100回やってからこのラインを超えるのだ」

 ミノタウロスは地面に描かれたスタートラインを指差した。

「ぐるぐる地押し?」

「我輩が、手本を見せてやろう」

 ミノタウロスはそう言って腕立て伏せの様なポーズを取った。


 ん? 腕立て?

 あれは……。

 はっ!? もしやヒンズープッシュのつもりか?


「だっはっはっはー! 見てるか好敵手よ」

 それっぽい動作を俺の前で行っている。

 しかし……、微妙に違くてむず痒い。

 だんだん許せなくなってくる。


「ちょっと待つんだ!」

 思わず我慢ができずに声を荒げてしまった。

「な、なんだ? 急に大きな声を出して……」

「筋トレはフォームが命だッ!」

「フォーム? 筋トレ?」

 ミノタウロスは首を傾げた。

 

 筋トレのフォームは、トレーニングの効果に影響を与える。正しいフォームを意識せずに筋トレを続けると、トレーニングに期待できるはずの効果が十分に得られないこともある。


また、誤ったフォームで鍛え続けると、筋肉への刺激が不足するだけでなく、場合によっては体を痛めてケガにつながるおそれもある。

 フォームを無視すると大切な効果が損なわれてしまうのだ。

このように、正しいフォームを守ることは非常に大切だ。


「いいかい? ヒンズー・プッシュアップはこうやるんだ」


 ◇◇◇ヒンズー・プッシュアップ◇◇◇

 ヒンズープッシュアップは大胸筋、上腕三頭筋が鍛えられる自重種目です。

 ヒンズープッシュアップは、スタンダードなプッシュアップよりも、正しいフォームで行うことがより重要視されるトレーニングメニューだ。

 しっかりとしたフォームで行なおう。

 

 その1、肩幅より広めに腕を広げて地面につけて、猫が背筋を伸ばす動作のようにお尻を天井に高く突きつける。腕からお尻にかけてはまっすぐをしっかりとキープしておく。

 

 その2、足の幅も腕と同様に肩幅より少し広めに取っておく(ここまででセットポジション)

 

 その3、体を地面すれすれで手と手の間をすり抜けるように動かす。そのままぐるっと元の位置まで戻ってくる頭は下げすぎないように注意しよう。

 

 なお、ヒンズープッシュアップは一般的な腕立て伏せと違って前後運動も加わった筋トレだ。

 そのため、疲労度も桁違いになるので、疲れた時でもしっかりと正しいフォームを意識しよう。

◇◇◇◇◇◇


「なるほど、こ、これは確かに凄いぞ!」

 ミノタウロスが、正しいフォームでヒンズープッシュアップを行なっている。

 

「僕達トレーニーの命令コマンドは常に、ガンガン行こうぜ、でもなく、いろいろやろうぜ、でもなく、MPを使うな、でもなく【フォームをだいじに】の一択だッ!」

「我輩は感動したぞ好敵手よ。ようやく全力でぶつかり合う相手と出会えたようだ」

 ミノタウロスは握手を求めてきた。

 無論、しっかり握り返す。


「ソレデハ、スタートシマス。3……2……1、ゴォォォ!」

 スタートの合図が鳴った。


「「うおおおおおおお──!」」

 俺とミノタウロスの気合いの雄叫びが、木霊する。

「「「エレイン、がんばって!」」」

「「「ミノタウロス様──!」」」

 皆の声援が聞こえる。

 魔物達の声援も負け時と張り合う。

 

 まずは、ヒンズー・プッシュアップ100回。


 97……、98……、99……、100!!

 俺はすかさず100回をこなしてスタートを切った。


「な、なんだと!? 早いではないか!?」

 ミノタウロスは慌てている。

 

 どうやら日頃から綺麗なフォームでやっていた俺に分があったようだ。

 いい加減なフォームでやっていた、ミノタウロスからするとほぼ初めて様な物だ。初めてのトレーニングは慣れていない分かなりキツイ。


 俺は早くも、第1エリアのクワッド・ステップの1枚目のパネルに飛び移る。下はマグマ──落ちたら死だ。

 しかし、リズム良くトン、トン、トンと飛び向こう岸に渡った。

「うおおおー!」

 ミノタウロスもヒンズープッシュアップを終えて跳ぼうとしているところだ。


 第2エリアは、ローリンヒルなる場所だ。

 角度40度くらいで高さ5メートルくらいの壁にグルグル回る丸太が、何本も埋め込まれている。

 足をローリングに取られるとそのまま回転に巻き込まれてマグマに落ちる仕組みだ。


 迷っている暇はない。

 後ろを振り返るとミノタウロスは既に飛びおわろうとしている。


 丸太と丸太の間の溝に足を入れてよじ登る。

 焦ればローリングが回転してしまい真っ逆さまだ。

 2メートル付近でミノタウロスが下まで追いついた。


「ふん……ふん……!」

 ミノタウロスは強靭な爪をめり込ませてドンドン上がっていき、ついには俺を追い越してしまった。

「おっ先〜!」

「あぁ!」

 まだ3メートル付近なのにミノタウロスは登り切ってしまった。

 

「くそ、抜かされた!」

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