第52話 メイメイの探し人



 秦皇国、またの名を戦闘民族国家秦。

 オディナ大陸、アルスター大陸と同じくして3大大陸の一角を担うラージャ大陸の中核都市。

 戦闘民族国家の噂に違わぬ国柄は秦国の老人から女、子供まで老若男女問わず武術、武器術、の達人である。

 魔力などには一切頼らず、〝気〟というラージャ大陸出身なら誰もが扱えるこの国特有の戦闘技術を持つ。

 

 戸籍や住民票にも段位や級の等級の格付けがされ、強ければ高い階級に昇格する。代々続く名家であろうと家柄は一切考慮されず、ただひたすら強さのみで全てが決まる。武を持って武を制す、武を持って国を律するというまさに戦闘民族国家。

 その頂点に君臨するは、三大英雄が1人武神〝李 剛頂〟。「初撃が止め」と謳われるほどの剛拳を持つとされる。

 もっとも軍力が高いオディナのアーサー、知恵と魔力と策力のアルスターのソロモン、少数ながらも住民全員が武人国家のラージャの剛頂。この3派閥がこの世界の均衡を保つとされている。

 そして、19年前に満を辞して誕生した武神〝李 剛頂〟の子、天才児と言わしめた〝李 華史無(ゲシム)〟はわずか6歳の頃からその才が開花し、全ての少年クラスの武術大会を優勝。12歳にして、秦国最大の無差別級武術トーナメントである秦国NO1最強決定グランプリ、略してS-1の王者に輝いたのである。

 誰もが次期、武神を引き継ぐのは天才児〝李 華史無〟だと思っていた。華史無自身も敵を知らず、順風満帆に武神になると思っていた。そして次期武神になるために拳聖の名に手が届こうとしていた。


「メイメイ。お前が現れるまではな〜」

「たった1回、張り倒されたくらい何言ってるアル」

「その1回が、たった1秒、1発、9個も下の、しかもたった10歳のお前にやられた事が問題だ」

「お前が弱いんじゃない、メイメイが強すぎたアル」

「うるせーぞ、ボケッ!」

「はぁ〜、昔は優しいお兄さんだったアル。今じゃ何アルかそれ?」

「あん?」

「そんなにやさぐれてしまって、顔にはクソダサいタトゥー、そしてそのクソダサい髪型。ゴブリンのチョン毛のがまだマシネ」

「──クッ」

 ゲシムの顔真っ赤ネ。

「ところで、てめぇこんな遥々アルスターまで何のようだ?」

「決まってんだろ。お前を連れ戻すために探し回ってたアル」

「は? てめぇが? 俺を?」

「そうアル!」

「どういう風の吹き回しだ? なんでてめぇが、俺を探してんだ?」

「お前とメイメイの中だろ! 水臭い事言うなよ!」

「は? てめぇとは確かに8年も同じ劉師範の生徒だったが、それだけじゃねーか」

「お前にとってはそうかもしれないけど、メイメイにとっては2歳からずっと面倒みてくれたお兄ちゃんみたいなもんアル!」

「名前も間違えるレベルなのにおかしくねぇか?」

「そ、そ、そ、そんな事より、その髪型カッコいいアルネ。今年見た人間の中ではダントツある」

 目を細めたアル。絶対怪しまれたアル。

「てめぇ……、怪し過ぎんぞ」

 言えないアル……。お前の親から大金を貰ったなんて……。言えないアル……その大金も途中でなくしてしまったなんて……。言えないアル……、連れて帰って大金をせがむつもりだなんて……。

「てめぇ、親父からいくらか貰ったか?」

「そんなわけないアル〜、メイメイはお金で動くなんてそんなハシタナイ美少女じゃないアル〜」

「もらったな……」

「そんな事より、早くそのクソダサいタトゥーと髪型を戻して帰るアル。大金が……、いや親父さんが待ってるアル」

「本心ダダ漏れだぞ」

「さぁ、とっと帰るアル」

「帰るわけねーだろぉッ! はぁぁぁぁ──!」

 

 闘気が爆発みたいに噴き出てきたアル!

 今までのゲシムには決してなかった闘気アル。でも何でアル? 質が〝気〟じゃないアル。魔?

 

「驚いたかよメイメイ。やっとてめぇを殺す力が手に入ったんだよ」

「どうしたアル? 髪型だけじゃなく闘気もやさぐれてるアルな」

「魔王様に頂だいんだよォ〜、そして俺は四天王ミノス様の配下になりミノス軍最高幹部三銃士の1人にまで上り詰めたんだよッ!」

「何でだ! 何でだよゲリちゃん!」

「ゲシムだって言ってんだろッ! はあああ!ッ」

 更に闘気が高まったアル。わかったアル。

 あの、だっせータトゥーは魔王から刻まれた魔族の紋様。

 人間でありながら魔王の血を取り入れた事で闘気がここまで膨れ上がってるネ。

「行くぜメイメイ。拳聖もここで終わりだよォ!」

 ゲシムが前に出てきた──。

「遅ぇ……」

「──!?」

 いつの間に目の前に!?

「ほぉぁたたたたたたたたたッ!」

 油断したアル!

「アタッ──!」

「ッ!?」

 ゲシムの右ハイキックを喰らったアル。

「何、吹っ飛んでんだよ。はっはっはっはっ!」

 ずいぶん久しぶりに顔に攻撃をもらったネ。

「ちょっとだけ早くなったなゲリちゃん」

「余裕こいてんのも今のうちだぜ。あれくらいでぶっ飛ばされてるようじゃ俺の方が拍子抜けだよ」

 ゲシムは勝ち誇って大笑いしてるアル。ずいぶん調子こいてんなこいつ……。

「ブッ!? ペッペッペッ!」

 ゲシムがツバを地面に吐き散らしている。レディーの前で汚い奴アルネ。

「ペッペッ──、てめぇ……、今何しやがった?」

「ハナクソを三粒お前の口に飛ばしたネ」

「げぇ──」

 ゲリムは嘔吐したアル。

「てめぇ……終わったぞ。もう遊びはなしだ。殺す……」

 いかにも全身全霊全力の闘気アルな。城が揺れてるアル……。

「うおおおおおお──!」

 花瓶や石像が落ちて割れてるネ。確かに強くなったっぽいアル。

「ふはははははーッ! 最高だ! これが俺の力だ!」

 両拳に魔が宿ってるネ。

「行くぜぇメイメイ!」

「仕方ないネ……相手になってやるアル」

「ほぉーあたたたたたたたたたたたッ!」

 魔気が宿った両手で猛烈な連打。

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」

 が、ぶっちゃけ油断しなきゃ当たらないネ。全て片手で手首をはたき落として終わりネ。

「ッ! これならどうだぁぁー!」

 縦回転式の蹴り。はいはい、何回クルクル回ろうがメイメイには当たらないネ。

「く、はぁ……はぁ……、どうなってやがる!」

「どうもこうもないネ。最初からわかりきった事アル」

「あッ?」

「お前がメイメイより弱い。ただそれだけアル」

「──殺すッ! 絶対殺すッ!」

「そんな怖い顔したって強くならないアル」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

「ほいさ!」


【武眼】


 武眼。瞳孔に気を流し込み、細かい相手の表情と筋繊維、皮膚に浮き出た血管を読み取り先読みをする。その読みは、達人になると99.99パーセント確定した未来が見える。


「くそ、くそ、くそぉッ! なんで当たらねぇー!」

「そんなに当たって欲しけりゃ喰らってやるネ」

 メイメイは、自ら相手の拳を顔面で受けた。

「!?」

「はっはっはっ! バカめ! 死ねッ──ッ!?」

「どした? ほら喰らってやったネ」

「なんで!? なんでピンピンしてやがんだよぉ!?」

「格の違いアル。もうわかったろ?」

「や、やめろぉ、やめろぉ、そんな顔で俺を見るんじゃねぇ──ッ!」

「やれやれアル。仕方ないネ。おまえにエレちゃん直伝の必殺技をお見舞いしてやるネ」

 

 ──〝気〟の念度には無形と扇形(センケイ)がある。無形とはそのまま体から放たれた気を宿した攻撃であり、扇形は気を放つ前に体のチャクラ部分で練り込んだ気を放出する。達人や仙人と呼ばれるレベルにもなると、瞬時に扇形を放ててしまう。それがメイメイクラスである拳聖ともなれば念度も威力も桁外れなのは明確。

 

 刹那の獅子の時にチラッと見せたメイメイの技〝覇王昇天撃〟をエレちゃんが見て改良した新技。

 エレちゃん曰く、覇王昇天撃は扇形の気を宿した拳を当ててから気を放出する。しかし、それでは一撃ではなくニ撃だとエレちゃんは言った。

 それだと100パーセントの威力が発揮されないとエレちゃんが読んだと言われる参考文献には、書かれていたらしい。そしてエレちゃんが改良した新技、それが────。


「覚悟はいいか?」

「お、おい、なんだそれ! やめろ!」

 

「はァァァ──ッ」

 

「【黒閃】」

 

 もろに顔面に入ったアル。


「──ぐはッ」

 

 それにしても、武の国秦にもそんな参考文献はなかったアルな……。今度、見せてもらいたいアルよ「呪術◯戦」とかいう参考文献。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 その闘いの一部始終を見ていた迷宮城監視員のマミーは語る。

「ワッチもあんなん初めてみますわー! こうバチバチって、もうすごいのなんのって!」

 インタビューに答えるマミーは凄く興奮して包帯が解けていく。

「ゲシムさんもねー」

 少し勿体ぶってマミーは間を置いた。

「魔王軍に入ってから相当ブイブイ言わしてるお方だったんっすよー」

 マミーは解けた包帯を巻き直しながら淡々と語る。

「それが、あんなんちっこい女の子にねー。あれはまだ子供でしょ? それやのにあんなすっごい技使うんでっせー! たまげたのなんのってもう〜」

 マミーは、包帯でぐるぐる巻きになって拳を突き出した。

「一撃でっせ〜! たったの一撃! あのゲシムさんがやで!?」

 興奮で机をバンバン叩きながらマミーは言った。

「あの技、黒閃って言うんでっしゃろ? もうね。当たった瞬間、ゲシムさん白目剥いて気絶しましたよー。あんな技、ワッチも欲しいですわー」

インタビューに応えてくれたマミーは子供のように黒閃の真似をずっとしていた…………。


 ◇◇◇◇◇◇



「結局、俺はお前には勝てないのかよ……」

 気がついたゲシムはひどく落ち込んでいる。魔王に頼ったのが情けないって顔をしているアル。

「落ち込む事ないネ。メイメイのパンツやっからよ」

「いらねーよ!」

「仕方ねーな。特別に染み付きやるネ」

「汚ねーんだよてめぇーは! ハナクソだの染み付きだの……」

「お前絶対モテないな」

「お前に言われたくねぇ」

「この世界は広いアル。メイメイより強くなりたいんなら魔王なんかじゃなくてエレちゃんを頼れ」

「誰だそいつ?」

「メイメイより強い奴ある」

「はッ! お前より? なんの達人だ? 剣か? 武術か?」

「そんなのやってないアルよ」

「は? んじゃお前みたいに生まれつき理不尽な強さで生まれた奴かよ。チッ──」

「ちげーぞ。エレちゃんは剣も魔法も武術もやらないし、生まれつき強い訳じゃないネ」

「デタラメ言ってんじゃねーよ」

「会えばわかるアル。エレちゃんは筋トレの達人ネ」

「筋トレ?」

「魔王軍やめて、ついて来いよ。メイメイに勝つ可能性は、それしかないアル」

「なんだよそれ……」

「魔王の力でも精霊の力でも魔法の力でもない。自分に勝つ力アル。メイメイはやらねーけどな」

「は? お前やってねーのかよ」

「魔王の力に頼ったって事はお前、自分に負けたんだよ」

「…………」

「自分に勝てない奴がメイメイに勝てる訳ないアル」

「わかってるよ。それ以上言うをじゃねーよ」

「筋トレは、自分に勝ち続ける強い人間にしてくれるネ。おまえもやればいいアル」

「筋トレか……とりあえず紹介しろよ」


「いいぞ。500ギルな!」

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