ー第三章ー

第28話ー72の悪魔達ー


 




「アルスター国王、ソロモン王の名によりエレイン・グランデ──、と、その同胞を王国まで連行する……わよッ」


「──わよっ?──」


「待った──、ちょい待った!」


  先程、発言した兵士の後ろから鎧を擦らせながら他の兵士をかき分けてもう一人の兵士が俺たちの前に現れた。【210000/17000】


「──コホンッ! ──えー、ジュリアス将軍……、交渉は俺、いや私サイモンの役目ですよ? ここは任せもらうお約束でしたが?」


「──オッホン!──よろしい」そう言ってジュリアスと呼ばれた兵士は一歩下がった。このジュリアス──、将軍と呼ばれるだけあって【200000/150000】タンパク質量が他の兵士より際立って高い。

 皆、兜や仮面をかぶっているので誰がどんな顔しているのか人相は一切わからないがタンパク質量、十万越えの兵士もチラホラいる。


 アルスター十字軍。ミッドガル王国でいうスヴェンが入団を希望していた聖騎士団に匹敵する国家戦力。ソロモン王率いるアルスター十字軍は七十二の悪魔と恐れられる程の勇猛果敢な猛者、七十二人の将軍達が統率する大部隊だ。


 ──またソロモン王自身も魔術王、智慧の王、賢王など様々な異名を持つスーパー超人で有名な英雄の一人であるが──、その姿は四メートルを超える巨人だったり──、可憐な美少女だったり──、仄めかしい賢者のエルフだったり──、はたまた豪傑無双のあらあらしい大漢だったり──、様々の噂が流れていてどれが本当のソロモン王なのかベールに包まれている──、らしい……と、シャルロットが言っている……。


「──先程は失礼しました。ジュリアス将軍は本来、この様な役回りをしないお方でして、不躾な対応をしてしまい申し訳ありません──、俺、いや私の名前はサイモンと申します。同じく将軍の地位を承るモノです。以後、お見し置き下さい」


 サイモンは右手をお腹に添えて紳士的に俺たちに向かって一礼した。


「──僭越ながら、我が主人のソロモン王によりエレイン様御一行を城にて持てなすように命を受けています。もちろん客人としての持て成しです──、誓って危害が及ぶ様な事はこの命にかけてないと保証いたします──、どうか我が主人の元へ御同行望めませんか? もちろん強制ではありませんが──」


 チラッと衰弱しているメイメイを見た。確かにメイメイはしんどそうだ。王国がモテなしくれるならこれ以上にいい事はないが本当に危険はないのか?

 そもそもなぜ──。


「そもそも何故、僕たちを招待するのですか? 僕たちは王様どころかこの国の人々と面識も縁もないはずです。なのに何故、僕の名前を知っているのですか?」


「エレイン様だけではございませんよ──、シャルロット・ハーティー様──、えっと──そちら少女は──、すいません、その少女存じませんね。何せ我が王は、とても変わり者の変人でして……、おそらく理由は王に直接会えば信じてもらえるでしょうが、『千里眼』で見た──未来視、予言であなた方の事は存じているようです」


 ──未来視、予言? 二十一世紀育ちの俺からしたら信じがたいが……、相手はあのソロモン王だ。ありえなくはないだろう。それに──これだけ騒ぎ立ててしまったのだから、この港からは離れなくてはならない。目立ちすぎて警戒されてしまう……、言う通りにしよう──、俺とシャルロットはアイコンタクトを取り頷きあった。


「危害ない保証があるようでしたら──、わかりました。同行します」

 

「それはよかった、ささ、なら早速、キャリッジにお乗り下さい」


 船から連れられて降りるとそこには真っ白なトリタウロスが四頭繋げられた煌びやかで豪華なキャリッジがあった。

 俺はメイメイを抱えてシャルロットと共に乗車した。中に乗り込むと半裸の男性が二人いて団扇を仰いで涼ましてもてなしてくれた。飲み物をついでくれたりVIPな接客だ。


(男性ってところが暑苦しいな……、まぁ兵士なのだからしょうがないか……)


「だ、大丈夫かな? ソロモン王って、謎多き人だから怖い人じゃないといいね……」シャルロットは不安そうに言った。


「ここどこある? どこ行くアルか?」メイメイが目を擦りながら気が付いた。

「こいつら誰ネ? なんで兵士達に囲われてるネ」


 ほっておいたら暴れそうなので、一部始終をメイメイに話をした。「──ふーん」とだけメイメイは言って鼻をほじり始めた──、とれた鼻くそを人差し指ではじき団扇を仰いでくれてる人に飛ばした──。俺たちは凍りついたが飛ばされた人は一瞬余所見をしているタイミングだったので気づかれなかった。あぶね──。


「メイちゃん、メッ! ダメよ!」シャルロット が小声でメイメイに耳打ちした。

 

 外を見ると港から少ししか離れていなかったのに一面は砂漠だった。暑いわけだ──、はじめて見る大型のサソリや、三メートルほどの恐竜のような魔物が見えた。大サソリ【140000/48000】サンドサウルス【400000/280000】

 まだまだ色んな魔物が潜んでいそうだ。


「──砂漠の魔物は初めてですかな? この辺の魔物には砂の中に潜みじっと罠を張り、ガブリとくる魔物もいるのでガイド連れでない場合はお気をつけ下さい」サイモンがラクダに乗りながらキャリッジの窓ごしで話しかけてきた。


「ガイドが必要なんですね。気をつけます」




 ◇◇アルスター王国◇◇




 ──そして俺たちは、アルスター王国にたどり着いた。街並みはスルーして城に直行だったので、ほとんど見れなかった。後でゆっくり周りたいところだ。


 城はアラジンとかに出てきそうな中東風の作りだ。

とてつもなく広く、真っ白で、まさに王宮って感じの出立ちでどういうわけか城内はまるでエアコンが効いているかのように涼しい──、たぶん魔法なのだろう。

 通された王の間は真っ赤なレッドカーペットが広がり、その先には階段があり、壇上には何故かハート形の王座があった。ハート形? いや、まさかな……この国では違う意味合いがあるのだろう。

 階段の下の両サイドに右側にサイモン、左側にはジュリアス、そして王座右側にはローブを羽織った少年が片膝をついて待機していた。サイモンの後ろには楽器隊が控えている。


「──あの、俺たちはどうすれば? 作法とかがわからないのですが──」


「お気になさらず、どうか楽にしていて下さい。エレイン殿達はお客人ですので──」


「ソワソワしちゃうね」シャルロットはバツが悪そうにキョロキョロしている。


「気にすんなシャルちゃん、私達は客ネ! 飲み物の一つも出ないとかどうなってるアルカ!」メイメイは鼻をほじっていた。


(本当にすげー図太いなこの子……本当に十歳か?)

 

「ねぇ様が来ますわよ……」ジュリアス将軍が言った。


「──ソロモン王のおなーり──!!」楽器隊がシンバルと太鼓を鳴らし、演奏が開始された。ソロモンが現れ、俺たちの前を横切る──。


「──ッ──な!?」

「──え!?」


 ──ガラスのハイヒール、全身真っピンクに包まれ、膝丈の長いピンク色のフリフリのスカート──、その可愛らしいスカートから覗かせた脛には、ごっそりとすね毛が生えている──、髪は青く、剛毛のアフロ──、その頭にはマリーアントワネットもビックリするであろう二メートルは超える髪飾りが天井高く伸びていて──、真っ黒のアイラインから顔一面に広がる厚化粧──、アゴはケツアゴで青髭が生えた──、おかまであった──。


「ば──ばけものアル!?」思わずメイメイから本音が飛び出す。俺は焦ってメイメイの口を両手で塞いだ。


「──女子たち──、みな楽にしちゃって──!」ソロモン王が号令を発すると皆、兜を外し始めた。


「うっふ〜ん」

「あっはーん」

「う〜ん」


 官能的な声を荒げ次々とおかま達が兜を外す。ジュリアス将軍は金髪のオカッパ頭のショートボブ──眉毛は芋虫の様に太く、びっくりするくらい目が大きく──、ビックリするくらいアゴが長くて青髭も凄かった。俺たちにウィンクをしてから──。


「──おねぇ様、髭が濃くってよ!」とソロモンに一言放った。


「──!? あらやだ!? 二時間前に剃ったのにもうジョリジョリのジョリーよぉん!!」と言いながら手にもっていたセンスで顎を隠した。


 サイモンが兜を外した──、唯一まともな男だった!! 狼を思わらせる白髪の短髪、垂れ目でのらりくらりした表情だが、どことなくやる時はやる漢の雰囲気を漂わせている。


「俺はサイモン、改めてよろしく──、ここまで来たら堅苦しいのはもういいだろう兄弟? もともとは罪人で死刑囚だったが剣の腕を買われて──」


『あら嫌だ! サイモンちゃんったら見栄っ張りねぇ〜もう〜、あなたの剣の腕なんか大した事ないでしょ! ──顔がいいから将軍にしたのよ!』とソロモン王が横槍を入れた──


「──、だ、そうだ。よろしくな兄弟!」とサイモンは俺に近づいてきて耳打ちをしてきた。


「(七十二人の悪魔ってよく言われてるだろ? あれは七十二人のおかまを率いているって事なんだ──、ある意味悪魔だよなぁ──クックック)」


「──もうサイモンちゃんったら、聞こえているわよ! 後でディープキスの刑よっ! チュ」


「し、失礼しました──」


 メイメイには刺激が強すぎたのか──、魂が抜けたような表情をしていて、その目はまるで、ゴミを見る様な冷たい視線だった──


 

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