第37話 下っ端スヴェン聖騎士任務





 ──ミッドガル王国、聖騎士団。それはオディナ大陸のほとんどを統治している三英傑が1人アーサー王が結成した凄腕の騎士団。エレインとシャルロットが、シエーナを旅立って2週間後、俺は聖騎士団に入団するためにシエーナ街を出た。


「──まったく、スヴェンは寝起きが悪すぎるのにゃ──これだから──」リリィは巧みに乗馬をしながら嫌味ったらしく文句を言っている。


 この小言をブツブツ言っているのはリリィ・ハルバート、ミッドガル王国に向かう途中にポツンとあったレストラン【ポワール】で働いていた獣人。B級の冒険者でもあった。ミッドガルに向かうまで傭兵として200ギルで雇っていたのだが──。


「──にゃにゃにゃ!? 聖騎士団の給料60万ギル!? ボーナスあり!? ポワールなんてチリみたいな給料だにゃ! にゃーも聖騎士団試験受けるにゃ!!」


 と、成り行き行きずりでそのまま聖騎士団試験を受けてしまい一緒に合格してしまった。今、俺たちの鎧の胸元には誇り高きワシのマークが刻まれているのだ。

 リリィは獣人特有の聴覚、知覚を活かして点数が俺より良かった……。おまけにこのリリィ、ポワールの時から思っていたけど、意外と勤勉であり仕事に対してはとても熱心であり評価も高い。お金にガメツイだけかと思っていたが、その分しっかり働く。俺より2つ上の17歳、赤毛の猫耳の獣人であり容姿端麗で人気も高い……、誤解して欲しくはないが、さっきから何故、俺がリリィ・ハルバートは持ち上げるような事を並べているのかと言うと、決して俺の言い訳ではない。繰り返すが俺は言い訳をしている訳ではない──そう、リリィは俺の上官になっていたのである……。

 神童と言われていた事を決して過信していたわけではないよ? しかし当たり前だが、剣術の腕だけでは軍の指揮は務まらない。いや、正直に言います死ぬほど悔しいです。


「──はぁ〜」俺は馬をゆっくり走らせながらリリィのやや後ろを走る。


「何ため息ついてるにゃ、つきたいのはこっちの方にゃ! 速攻で終わる様な任務だっていうのにミッドガル出てから3日間スヴェンの道草のせいでなんの成果もあげられてないのにゃ!!」


「そうは言ってもねぇリリィ、このオディナ大陸でそんなゴブリンキングだのオークディザイアーだの限りなくSに近い上級モンスターが徒党を組んでるなんて信じられないよ。しかもポワールの近くだよ? シエーナ街にも噂が流れていてもおかしくないような話だぞ?」


「──まぁ、確かにそうにゃ、あの辺りはキングトロルが支配していたのをスヴェンが倒してからはそんな上級のモンスターがいた気配はなかったにゃね。そもそも、そんな危険な魔物がいたらシエーナもポワールもとっくに終わっているにゃ」


 今回の任務は、ミッドガル王国を行き来している貿易商の商人がミッドガルに向かう途中の森で武装を施したオークディザイアーとゴブリンナイト、ゴブリンキングが徒党を組んで歩いていたのを見たと言う知らせを受けて、森とその付近の調査の命令が俺とリリィに降った。

 もしもそんな上級モンスターが本当に徒党を組んでいたとしたら村や街の被害は相当なはずなのにシエーナ街を含め、そんな報告は一切なかった。俺はイタズラだろうと踏んでいるのだが──このリリィ2等兵は無駄に勤勉なのだ、しっかり調査しないと気が済まないらしい。


「──はぁ──」


「また、ため息かにゃ! やめるにゃ」


「着いたよ──今日で2回目の調査になるね。どうせ何もないだろうけど……」俺たちは再びその噂の森の入り口にたどり着いた。昨日も同じ森を探索したがそんな気配はなかった。

 

 その時、ガサガサッと茂みから何かが茂みをかき分ける音がした。

 

「──!?」俺とリリィは警戒した。


 ──バサッと飛び出してきたのはクナイジカだった。クナイジカは振り向き俺たちをじっと凝視し、また走り去っていった。


「な?」


「うるさいにゃ、任務は任務にゃ。今日は徒歩で細かく探すにゃ、馬をここに繋げて探索するにゃ」


「──はい、はい、了解しまた上官殿──」俺は手綱を手頃そうな木に繋ぎ止めた。


「──なぁリリィ、ちょっと寄り道していってもいいかい?」


「?」リリィは首を傾げた。


 そうして俺は半年振りにナガレさんとアリスさんの墓に立ち寄った。あのブラックタイトの指輪は今もしっかりと墓に供えられていた。もしかしたら盗賊などに盗まれているのではないかと心配だったが大丈夫だった。


「誰のお墓にゃ?」


「あぁ、前に話たろ? キングトロルを倒した後のゴーストの話──ここはその2人のお墓さ」


「──ドルイドの──、にゃるほど……」そう言ってリリィは兜を脱ぎ片膝をついて両手を合わせた。俺もそれに続いて2人の冥福を祈った。


 数十秒、静まり返った静寂が俺たちを包んだ。(久しぶりですね、ナガレさん、アリスさん、俺は今聖騎士になりました)そう心の中で2人に話しかけた。お墓というのは一体なんのためにあるのだろう? 死者の魂が生まれ変わるのならお墓には魂もいない

はず──小さい時からずっとそう思っていたのだが、今ならわかる──、お墓は死者のためと言うよりも残された者の拠り所として存在しているのだろうと俺は思う。


「さて、時間をとらせてしまったね上官殿」俺はそう言って先に歩き出した。


「──こっちの方はまだ調査もしてないから丁度いいにゃね」


 と、その時──「ガハハハッ!」と大きな笑い声が聞こえた。俺とリリィは即座にその場に気配を悟られぬようにしゃがみ込んで笑い声の正体を探した。


(──どこだ?)あたりを慎重に見渡した。


 リリィは猫耳をピクピクさせて気配を探している。


「あっちにゃ──」リリィが指差した方向を見ると──


「──な、なんだと!?」


 そこにはいるはずのなかったオークディザイアーとゴブリンナイトとゴブリンキング、そして数匹のハイオーク、ゴブリンウォーリアが並んで森を歩いていた。どれもハイクラスな上に並の魔物と比じゃないくらい身体が、大きく発達している。


「本当にいたにゃ……」


「こいつは厄介だぞ……、ハイクラスな上にその中でもかなり身体が発達している。並の魔物じゃないぞ」


 しかも徒党を組んでいる。あり得ない……他種族、他クラスの魔物同士で組んでいる。どうなっているんだ? どの魔物も武装している上に素材らしき物を大量に担いでいる。中でも驚いたのが荷車を運んでいる──魔物が人間のように知恵を持ち、道具を使い、コミニュケーションをとっている。これは計り知れない程、危険だ。


「一旦引くにゃ、聖騎士長に報告して応援を要請するにゃ……」


「あぁ──、悟られぬように下がろう──」


『シリウスの矢!』


「──!?」

「リリィ!!」とっさに俺はリリィを突き飛ばした。その後、炎の魔法シリウスの矢が、リリィが元いた場所の地面に突き刺さった。


「魔法!?」


『バーストマイン!』


 今度は足元から地面が盛り上がり、数本の槍のように俺を目掛けた魔法が放たれた。


「──ぶねぇ!」辛うじて避ける。


「そこにゃ──!」リリィが指を差した。


「──二刀流──斬響一閃!!」俺は腰につけた2本の剣を鞘から居合いの如く魔力を込めて抜き宙きった。斬響一閃──居合いの抜いた音に魔力を込める事によって斬撃波を生む。──斬撃がリリィの指し示したところ目掛けて飛んで行く──。


『──ウィンドプロテクト』敵は風のバリアで攻撃を防いだ。どれもこれも高位魔法だ──おまけに短い詠唱で即座に魔法を放つ──。Aランク以上、いやSランクの魔法使い!?


『ブリザード!』


「サイクロンソード」ブリザード魔法を竜巻をおこしてかき消した。俺はそのまま即座に切り込むために敵の位置目掛け高速で駆け寄った。──人影が、見えた──。


「喰らえッ!」ジャンプをし、上空から斬りかかった──が──、剣の持ち手を物凄い力で抑えつけられた。


(なんだこいつ!? 物凄い腕の力だぞ!?)俺は即座に蹴りを腹に入れそのままバク転をして距離をとった。腹に蹴りを入れたが腹筋が強固すぎて効いていなかった。


「──ほぅ、いい反応ですね……、さすがは聖騎士といったところでしょうか」


 そう余裕の表情で男は俺に悠然と話す。魔法はSランク、力もとてつもない──何者だこいつ!?

 白髪にちょび髭をはやしモノクルをつけた知的な紳士──なのだが──何故か、上半身裸の半裸──。しかもかなり鍛え込まれている。本当に魔法使いか?


「こいつは……かなりやばいぞ……」


「ちょっと待つにゃ、今考えるにゃ──」



 

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