第45話 嵐の前の静かさ、サンドストームが来る!?
「これでヨシっと!!」両手についた土を叩きながら落とした。
「本当にそれでいいのん? 最強装備も億万長者も夢じゃないわよん?」ソロモン王は不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「──本当アル、エレちゃんまじアホある。こいつ(神獣)の体売り飛ばせば大金、手に入るのに埋葬するとかまじアホある」メイメイは腕を組んでほっぺを膨らませて不機嫌そうにしていた。
「うーん、僕も反対だなー。神獣の肉体はその隅々まで強靭な装備にもなるし、もしお金にするなら君達人間の孫の代まで一生安泰な富も夢じゃないんだぞ? シャルくん止めた方がいいんじゃないかい?」シャルロットの周りをフワフワと漂いながらジンが助言をする。
「私はエレインが決めた事ならそれでいいと思うよ。私達の旅の目的は富でも名声でもないもの」シャルロットは漂っていたジンを捕まえ抱き抱えてそう言った。
「──これでいい!」
俺は刹那の獅子を埋葬した。刹那の獅子の肉体と言えばどんな刃も通さない強靭な皮膚。どんな魔法も跳ね返してしまう神聖、この2つを兼ね備えた最強の肉体。
数々の冒険者は、その体を手に入れて最強の装備を夢見てその命を落としていった。魔王も歴代勇者も刹那の獅子を避けて通った。
誇らしかったはずだ。刹那の獅子はこの世の頂点に1200年も君臨し、誰にも干渉されず、狙ってきた敵をことごとく返り討ちにし、自由にこの世界を謳歌した。最強であり、崇高に群れず、騒がず孤高に生きた。俺はそんな刹那の獅子と対峙し倒した事を心から誇りに思う。その肉体を売ったり、装備にしたりする事は侮辱に値すると思った。だから俺は手厚くソロモン神殿の敷地内に埋葬する事にした。
「──ふぅ」ソロモン王が、耳元に息をやさしくかけてきた。
「な、なにするんですか!?」
「──ウフフ──まぁそう言う所が、エレインちゃんの魅力の1つよねぇん。このお墓を荒らされないようにしっかり監視させてもらうわん」ソロモン王はハートマークが施されたピンクのマントをなびかせて城に戻っていた。
そう言うソロモン王も立派な人だと思った。本来なら王国のためにもソロモン王自身も喉から手が欲しいはずなのだ。それでも俺の気持ちを汲んでくれている。伊達に王様ではない。
「さて、次から次へと2人とも悪いけど次のミッションに行こうか!」
「──めんどくさいアル……」
「メイちゃん頑張ろう!」
「シャルくんには僕がいるんだし、リヴァイアサンの出る幕もないだろうし、そんな事を言うなよ」
「そういえば、メイメイの探し人はいなかったのかい?」
「いなかったアルネ。まぁそのうちに見つかるアルよ」
「それじゃ、次は迷宮城攻略! 魔王軍四天王のミノタウロス討伐に出発だ!」
(そう言えば……なんか夢を見た気がする。なんだっけ?)
◇◇◇◇◇◇
──そうして俺たちは、サイモン将軍とゲイ将軍に同行してもらい、この広大なアルスター砂漠をトリタウロスの馬車に乗り出発した。
「ハァハァハァ、熱いある……あのカマキングのそよ風魔法がないとしんどいアルな……」ぐったりしたメイメイが天を仰ぐ。
「カマキ……いや、ソロモン王のそよ風魔法は24時間国民のために寝てる時も常時、発動してからな。街の外と中では別世界だ。まったく──どんだけの魔力なんだかね〜、あの無尽蔵の魔力量は本物の化け物だよ」馬車を操作しながらサイモン将軍が言った。
「お前絶対、見た目の事を言ったアルな」
俺の脳裏にふと「うっふん」とウィンクをするソロモン王がよぎった。
「おいおい、誤解すんなよメイちゃん。俺はこう見えても姉さんを尊敬はしているんだぜ? 拾われた恩義もあるしな」
「サイモンちゃんは、ねぇ様のオキニよねー」ゲイ将軍が長いツインテールを風になびかせて言った。
「それはそれでキツイけどな……」
「ここら辺の魔物は襲ってこないんですね?」
「えぇ、危険な魔物は砂漠の中にいるサンドワームくらいなもので、だいたいはアタシ達アルスター十字軍の旗を見た魔物は近づいてこないわよ」
「へぇ〜、ところでサイモンさんトリタウロスの操縦めっちゃ上手いですね」
「サイモンちゃんは、もともと砂漠の盗賊でね。あれでも白狼なんて呼ばれてるくらい有名だったのよ」
「そう言えば罪人って言ってましたね。有名ってことは、強かったんですか?」
「いえ、雑ッ魚でしわよ」
(雑魚だったんかい!?)思わずメイメイもシャルロットもジンも俺も同時にズッコケた。
「──と、言ってもアルスターの兵卒くらいじゃ話にならなかったわね。あたし達に瞬殺されましたけど──」
「勘弁してくれよ、いくらなんでも72の悪魔将軍のトップオブトップの〝ゲイ卓の騎士〟に出てこられたんじゃ俺もお手上げだよ。あん時はまじで死んだと思ったよ」操縦しながらサイモンが苦笑いをする。
「まぁ、たかたが30人くらいの盗賊にしてはよくやったと思うわよ」
「へいへい」
「ん────、サンドストームが来そうだね」ジンが遠くの空を指先した。
「なにアルか? 空が紫色アル!」
「ジンちゃん、サンドストームってなぁに?」シャルロットがジンに訪ねた。
「大規模な砂嵐が、大量に発生する現象さ。この土地では別に珍しい事ではないのだけど、1度発生すると3日はサンドストームは収まらない。こんな馬車なんて5秒と持たないだろうね。どこかで凌いだ方が賢明だね」
「あの空は、まずそうだな──近くに村があったような?」
サイモンは、馬車を止め地図を広げながら、しばらく眺めていた。
「おっ、ラミノがあったな。最近できた村だ。サンドストームが収まるまでここで凌ごうか」
「は!」と掛け声と共にまた馬車を走らせた。しばらくすると村が見えてきた。小さい村だが、建物はしっかりと荒らしにも耐えられそうな程、頑丈な家が並んでいた。俺たちは、宿を探した。
「あ! 十字軍様だ!」
「うわーかっこいいなぁ」
「本物の十字軍だー!」
「十字軍の中に変わった人がいるぞ?」
村人は俺たちを見て騒いでいた。どうやら十字軍は憧れの的らしい。俺たちは宿屋を探してキョロキョロとしていた。
「──ぃ──。あ──」どこからともなく声が聞こえる。
「かしら──!!」
「お頭ぁー!」2人の男が馬車に向かって走ってくる。
「ん? おぉ──モブエーとモブビーじゃないか!!」
サイモンがトリタウロスから降りた。どうやらサイモン将軍の知り合いらしい。
(え? 嘘でしょ!? 顔の目と鼻と口がなくて文字通りモブAとモブBって書いてある……ここ最近で1番おどろいたかもしれない……)
「ハハハッ──まさかここで会えるなんてな、久しぶりじゃないかお前ら! この村にいたのか? 他のCからZはどうしてんだ?」
(CからZまで仲間がいるんだなんて……)
「この村にいんのは俺たち2人と副統領だったダッチのアニキだけでやんす」
「おぉ!? ダッチもいんのか!! 紹介するぜ皆、元盗賊〝死ね死ね団天誅ズ〟の仲間達だ」
「「どうもでやんす」」
(死ね死ね団天誅ズ……)
「そんなとてつもなくダサい名前が広がる前にぶっ潰されてよかったネ! 恥知らずにも程があるアルよアハハ」メイメイはバシバシとサイモンの足を笑いながら叩いた。
「──はぁ〜、そしてこっちは……まぁゲイ将軍はコテンパンにやられてるから知ってるよな? オディナ大陸から来たエレインとシャルロちゃんとメイちゃん、そして──」
「大精霊ジンだよ! てへ」可愛らしくジンがクルリと回って挨拶をした。
「ひぇ──ジン様だって!? そ、それにオディナのエレインって言ったらあの神獣を討伐したエレイン様かい!?」
「あはは、よろしくお願いします」俺は会釈して挨拶をした。
「積もる話もあるし、ちょっと宿屋に行きたいんだが──」
「ダッチのアニキがこの街の宿屋をやってるでやんす!」
「そいつぁーちょうどいいや。今、ちょうど宿屋を探してたんだ」
「案内するでやんすよ!」
そうして俺たちは、モブエーとモブビーについて行った。
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