第44話 魔力目覚めちゃうのかい? 目覚めないのかい? どっちなんだい!?




「えへへへッ……、フェイクが解けちった」


 幼女化した大精霊ジンが、頭を掻きながら照れている。しかし、俺を含めシャルロットもメイメイもこの場にいる誰1人として微動だにしない。


「──あ、あれ? 驚かないの? 僕の姿を見ても……」


 ジンは不思議そうに俺達の顔を覗きこんでいる。「驚かないのか?」と言われても驚くはずがないのだ。今まで俺達がこのアルスター大陸に来て何を見てきたと思っているのだろうか?


「──全然」

「インパクトが弱すぎるアル。オカマどもを見習えヨ」

「──わー、びっくりしたなー」あの優しいシャルロットですら横目に棒読みである。


 ムスッとちょっと納得行かない表情になったジンが腕組みをした。ソロモン王といい、72の悪魔将軍を見たあとでは世界が滅びるとしても驚かないかもしれない──なんて思った。


「それで、シャルロットの魔力はどうなんですか?」


 俺の問いにビクンッと肩を震わせた。あの大精霊ジンがである。──悪い予感しかしない。


「あ、あははは──えーと、そのぉ〜」


「おい、こいつあからさまに誤魔化してるアル」


「まさか! メイメイやめたまえよ。仮にも彼女は天下のあの大精霊ジン様だぞ? 誤魔化してるなんて失礼じゃないか、まさかね? まさかだよ。誤魔化してるなんてありえないよ、この僕が腹筋1回もあげられないくらいありえないぞ」


「それもそうあるネ、エレちゃん! エレちゃんの腹筋が1回も上がらないなんて事があったらアルスターの全オカマ共が正真正銘の美少女になるくらいありえない話アルね。仮にもあの大精霊様アルね、アイヤ──メイメイとっても失礼な失言をしたアルネ、今すぐこの舌を切り落としたいレベルアルネ」


 メイメイも勘づいたのか、すごいプレッシャーをかもし出す。


「え、え〜とぉ、ふゅーふゅーヒュ──」ジンは後を向き鳴らない口笛を吹いた虚しい空気だけが漏れた音がする。


「それにね、あんな凄まじい試練を用意しておいてあんな凄まじい敵を倒させておいてだよ? まさか無理でした〜なんてある訳ないじゃないかメイメイ。知ってるかい? 僕が何と闘ったのか? 神の獣と書いて神獣だよメイメイ」


「そうアルヨネー、神って字がついた神の獣アルヨネ。そんなの倒させておいてやっぱり無理なんて口が裂けても言えないアルヨネー。それ魔王よりタチ悪いアルヨネー。まぁーありえない話アルヨ」メイメイは鼻くそをほじくりながらじっとジンを見ている。


「わ、わかったよ〜!! 正直に言うよ〜!!」手をバタバタさせて全身青色の幼女は喚いた。


「ご、ごめんよーシャルロットくん。僕の力じゃ無理だった。とても言い難いんだけど君ね、引き出す魔力すら無かったのだよ」


「──ひ、ひん」シャルロットが下唇を突き出しながら目を潤ませた。


「アイヤー!! おいおいおいおい、聞きましたかエレインさん? あの大精霊様が、あの大精霊様が約束を違えましたアルヨ!?」


「オーマイフィットネス!? メイメイさん、それは確かですか? あの大精霊様が願いを叶えられない? え? それってただの詐欺でございません?」


「ご、ごめんてば──、ぼ、僕だってこんな事になると思ってなかったんだよぉ〜リヴァイアサンもそんな事言わないでよー」


「うう……ぐすん……」シャルロットはうずくまって泣いていた。


「ハァーン!? 嘘つきアル、何が大精霊アル、ただの大嘘つきアル、お前は今日から大精霊なんて名乗るなアル。メイメイが命名してやるアル、大鼻くそと名乗れある」


「ううー、そんな失礼な事言うなし! ぼ、僕だって大精霊だぞー!」


「聞こえないアル」


「僕だって大精霊だぞ──!!」


「聞こえないアル」


「だ、大鼻くそでいいよ。わかったよ!」


「わかればいいアル、ダイハナクソージン様」


「うぅぅ……、ひどい言われようだなぁ〜」目の前の青い幼女は縮こまってしゅんとしていた。


「はぁー、悪い予感が当たってしまったか……、大丈夫だよシャルロット。きっとまだ他にも方法はあるよ。諦めないで頑張ろう」俺は優しくシャルロットの頭を撫でた。


「ぐすん……うん……」シャルロットもゆっくりと頷いた。


 いつだって1番欲しいものを人生は、簡単にくれないものなのだ。1番というものは、そういうものなのだろう。ボクシングのチャンピオンが、たくさんのライバルと闘い勝ちぬいて1番を手に入れるように──、たくさんある自分の側面や毎日の自分を勝ち抜いて1番を手にしなきゃならないのだろう。いつも1番が、今かどうかなんて自分にもなかなかわからないものだ。いつがベスト? もしかしたら1番のベストは今じゃない!と思い続けられる事自体がベストなのかもしれない。


 ただ1つ言える事は『自分を超えられるのは自分だけと言う事だけなのだろう』


「──で? どう落とし前つけるつもりアルか? ダイハナクソーのジン様」脅迫めいた表情でメイメイが消しかけた。


「僕も死にはぐったんだし、このまま何もなしでは帰れないなー」


「ぐぬぬぬぬ」ジンが腕を組み首をグルグルありえない方向に回転しまくっている。はたから見たら幼女の首が扇風機のようにグルグル回っているのだ、恐怖映像でしかない。


「わかったよ! 僕も大精霊のはしくれさ。このまま手ぶらで返すわけにはいかない!!」


「──それで?」


「僕が、シャルロットくんにくっついて行くさ! 最強魔法が使える上、万物の理は、ほとんど知っているこの僕が君達について行くんだ。文句ないだろ? 僕がシャルくんの手となり足となるよ!」


「え?」


「ええええええええぇぇぇ!?」


 こうして大精霊ジンが、仲間に加わりシャルロットの手となり足となり魔法になったのだ。思わぬ魔力を手に入れたのだ。


 【大精霊ジンが仲間になった!】




 ◇◇◇◇◇◇




 ──アルスター王国──


「まさかジンちゃんがついて行く事になるなんてねぇい、びっくりよーん。あたしの予言にない事ばかりね。あなた達、すごいわねぇん」


「僕もびっくりですよ。あとはミノタウロスを倒すだけですね!」


「お願いするわよん。でも、その前にみんな待ってたのよん? エレインジムの直接コーチお願いするわぁん。はい! これエレインちゃんのレオタード!」


「えぇ──!? 僕も着なきゃダメですか?」


「ジムの創始者が、そんな格好じゃ締まらないでしょ!? サイモンちゃんを見なさい!!」


 サイモンを見ると、青ざめた顔をして肌色のレオタードになっていた。肌色になったレオタードがより一層変態感を倍増させた。あのレオタードになるくらいならこのレオタードのが、絶対にいい。俺は急いでこのレオタードを着用する事にした。


「──みなさん! ジムに入会ありがとうございます!! エレインです!!」


「「「わぁぁぁ────!!」」」


 エレインフィットネスジム2号店アルスター城支店内のオカマ達の声援が響いた。その大歓声が気持ちよく俺は、次から次へとポージングを決めていった。


「「「わぉぁぁぁぁぁ──!!」」」


「さて、今日の筋トレは、三角筋を鍛えるアップライトロウをやろうと思いまーす!!」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」」」


 ──アップライトロウ──

 バーベルやダンベルを鎖骨付近まで引き上げる「アップライトロウ」は、シンプルな動作でありながら、三角筋と僧帽筋を効率よく鍛えることができる。

 直立した状態でバーベルやダンベルを鎖骨付近まで引き上げるウエイトトレーニングでスミスマシンやトレーニングチューブを使ってトレーニングすることもできる。


 アップライトロウを行うと、肩関節を覆う「三角筋」と肩・首・背中にかけて続く「僧帽筋」を鍛えることができる。


 肩幅を目安に手幅を決め、バーベルまたはスミスマシンを握って立つ。

 1.肘でリードするように、バーを真上に上げる。

 2.バーを鎖骨付近まで上げたら、元の位置までゆっくりと下ろす。


 注意点としては、肩をすくめない事、肩甲骨をロックしないように肩甲骨も意識して上げる事。


 8回〜12回を目安に3セットで組もう。




 そうして俺たちは、存分に久しぶりの筋トレを楽しんだ。明日は、魔王軍四天王のミノタウロスの迷宮城に向かう。どんな奴が待っているのだろうか──

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