第43話 大精霊との約束、シャルロットの目覚め!?





 ここはどこだ? 一面、真っ白だ。そういえば、いつだっけか? これと同じ夢を見た覚えがある。あれは──えっと、確か電車に乗って眠った時だ。


「んー。何も見えない……」


 改めてこの状態になって、ふと思った。真っ暗で何も見えない事は、よくあるけども真っ白で何も見えない事もあるのだな、と考えていた。


「【久しいのぉ──中村よ】」


 いつだか見た真っ白な夢と同じ声が頭に響いた。あの時の声──って事はここは同じ場所なのだな?


「15年前、転生した時の人かい? あの時、俺をこの世界に転生させたのは、あなただったのだね」


「【そうでもあるが、そうでもない。転生は星の巡り合わせ、私の力でどうこうするものではないよ。私はただの観測者に過ぎぬ】」


「ふむ。ここに来たという事は、俺はまた死んだのか?」


「【──否、死んではいない。お前の精神が彷徨っていたところを私が誘導してきた。迷っていたみたいだからな──】」


「彷徨っていた? ──俺は確か、何かと闘っていたような──」


「【それにしてもここまでの活躍、非常に面白かったぞ。私は産まれてからずっとお前を観測してきたが実に興味深い。しかも、まさか刹那の獅子を倒してしまうなんて驚いたものだ。あれは私の創造物の最高傑作。それをパワーのみで倒してしまうとは笑いが出てしまったよ──はて、この後は、確かジンのところに向かうのだったな?】」


「あぁ、そういえば俺は獅子を倒せたのか? 意識がなかったのでわからなかったが──」


「【あぁ、そうか、あまりの壮絶な死闘だったものだから記憶がないか──。そう、中村よ。お前はあの神獣を討ち取ったのだ】」


「倒しせたのか……、よかった。これで大精霊のところに行ってシャルロットの魔力を──」


「【コホンッ……まぁ、その件に関してはよいじゃろ。ジンのところに行くがよい。その後、獅子の遺体を埋葬せよ。願わくばお前がこの世で1番欲しいとするものがきっと現れてくるだろう】」


「俺がこの世で1番ほしいもの?」


「【そうだ。獅子の体を使い無敵の装備を作るもよし、獅子の体を埋葬し欲しい物を実らせてもよし、お前の選択の自由じゃ──、しかしどうせお前さんの事だ、装備なんかに興味もなかろう。私から褒美と受け取ってよいぞ。今後も活躍を見ておるよ──目覚めよ──】」


(────あぁ、また意識が────)




 ◇◇◇◇◇◇




「──エレイン!?」


(エレイン? あぁ俺の事か──そうか俺は今、エレインだったのだな)

 

 記憶が少し曖昧になっている。脳にきっと深刻なダメージがあったに違いない。パズルを繋げるように頭の中で記憶を辿っている。目の前の視界はぼやけている、金髪の女性のシルエットが薄らと目に映る。体も意識の感覚もなんだかフワフワしている。俺はずいぶん長い事、眠っていたのか?


「──あ……ぁ」声が出てこない。久しぶりに声帯を動かしたようだ。


「エレイン!!」金髪の女性は、シャルロットだった。なんだかとても久しぶりに感じた。とても懐かしく感じる。シャルロットの腕が俺を優しく包む。


「エレちゃん! 起きたネ!」大きな声、あのワンパクな声量は一瞬でメイメイだと思い出すまでもなく感じとれる。メイメイが駆け寄ってきた。


「あははは、なんだか久しぶりだね。2人共、僕はどれくらい寝ていたんだい?」


「──5日よ。ずいぶん弱っていたわ」窓際にゲイ将軍が腕を組んで立っていた。「──それから神獣討伐、おめでとう! あなたは歴史に名を刻む偉業を成したのよ。あたしも鼻が高いわ」


「──5日か──、なんだか筋肉が萎んでしまった。筋肉が疼いている──動かさなきゃ」


「ううん、エレイン。違うの、ちゃんと聞いて? 萎んでないよ。気のせいだからね」シャルロット は俺の両肩に手を当てて静かにそう言った。


「──筋トレもいいけど、その前に行くところがあるでしょ?」


「大精霊ジンのところですね」


「そうよ。──サイモンちゃん!」ゲイ将軍が大声でサイモンさんを呼ぶと部屋のドアが開いた。


「はいはい──、よう兄弟! いや、偉業成したエレイン殿、お目覚めだな。外に刹那の獅子の遺体はいつでも運べるように準備万端さ」


「──嫌だな、いつも通りにして下さいよ。ありがとうございます。それよりなんですか? その格好は?」

 

 サイモンの姿を見ると何故かレオタード姿だ。世が世なら変質者でしかない。サイモンは男前な顔立ちではあるが、その男前の顔立ちが、レオタードを装備する事により一層残念なおっさんに仕立て上げた。


「これはな兄弟。いいか? これは決して俺の趣味や趣向なんて浅はかな物じゃないんだ。アルスター王国の由緒ある伝統の稽古着だ。いいな? 誤解だけはするなよ?」ハードボイルドな面構えでサイモンは察せと言わんばかりにそう言った。


「──エレちゃん、起きたから飯アルな!」メイメイは、いつ見てもメイメイらしい。フタコト目には決まって食べる事だ。




 そして俺たちは、ソロモン王達と昼食をする事にした。俺が寝ている間のシャルロットの活躍、それとエレインフィットネス2号店アルスター城支店と3号店の城下町支店が出来たことを聞かされ驚いた。


「──だったのよぉん? すっごいでしょうエレインちゃん! もうシャルちゃんの愛のパワァァァんよぉん!?」ソロモン王は、凄い唾を飛ばしながらシャルロットの活躍を熱く語っていた。


「──ほらぁん、見てぇん、このプリティーなおしり。ほらぁ、ほらぁ」ジュリアス将軍が、お尻フリフリしている。


「──おぉ!! 確かに、大臀筋が凄い張ってますね! 大臀筋は倒されたり不利な状態からの立ち直りが早くなるし、何よりぷっくらとしたお尻を強調できますよ!」


「エレちゃん、よくオカマのケツなんか見ながら飯食えるアルネ」


「見て見て、シャルロットちゃん! あたしのこの脚どう? シャープになったと思わない?」ランスボーボー将軍が、足を組みシャルロットに自慢気に見せつける。


「──確かにふくらはぎが、キュッと引きしまりましたね!」シャルロットはランスボーボー将軍をマジマジと誉めていた。


「シャルちゃん、ちゃんと言ってやるネ。優しさは時に残酷アルヨ、短足はふくらはぎをガリガリにしたって長くならねーヨ。その前にそのジャングルオブザ、スネ毛を剃れってハッキリ言うネ」横から血も涙もない事をメイメイは言いながら飯をがっついている。


(──うん、なんかいつも通りだな)


 そんな感じに楽しい昼食の時間は過ぎ去った。そして俺達はいよいよ、大精霊ジンのいるソロモン神殿へ向かう。約束通り、神獣討伐の試練を終えてその遺体をジンの元へ持って行く。目的は、1つ。念願のシャルロットの魔力を引き出す願いのために!


「久しぶりだね──クスクス──」

 

 天井スレスレまで伸びた大きな巨大の肩を揺らして大精霊ジンは出迎えてくれた。


「約束通りに試練は乗り越えてきました。これで願いは叶えてもらえるのですよね?」

 

「ちゃんと神獣を倒したね。活躍は見てたよ。僕の目は風があればどこでも見えるからね。神獣の遺体は好きするといい、武器にするも、素材を売るも君達の自由さ」


 大精霊ジン。精霊の中でも大が付く上位精霊の一角。風を司り、万物の知恵を司ると言われている。精霊の中でも叡智の守護者であり、数々の賢者を輩出してきたアルスター王国にそびえ立つソロモン神殿に住んでいる。誰と契約したわけでもなく勝手にソロモン神殿に住みついたらしい。

 見た目は8メートルは有に超える大きな体で全身は真っ青、髪の色も真っ青でありその顔は、肩まである深い青い髪で覆われていて、こちらからは片目しか見えていない。精霊たる神聖が、全身から溢れ出している。


「さぁ──、願いを叶えよう。君達の願いは何かな?」


「僕の願いはただ1つ。最強魔力なんて大それた事は言わないから、このシャルロットの魔力を引き出して欲しいのです」


「お、お願いし、します!」シャルロットは緊張している。


「ふむ──よいだろ。それではシャルロットくん、ここまでおいでー」ジンはシャルロットを手招きする。


「は、はい!」カクカクとブリキのオモチャのような動きでシャルロットがジンの前に歩み出る。


「さぁーて、どれどれ」ジンはシャルロットの頭に大きな手をかざし目を閉じた。


「……………」


「むむむ」ジンが唸る。


「…………」


「あれれ?」ジンがまたもや唸る。


「…………」


「あ、あ、あれぇー?」


「…………」


「う、嘘でしょぉ────!?」


 ジンが目を開けたと同時にバフンと青い煙りが吹き出し、辺りを覆う。ゴホンゴホンと咳き込む音が聞こえる。


「な、なに事アル!? ゴホンゴホンッ」


「ケホケホケホッ! み、みんな大丈夫?」


「え、えへへへへ、びっくりしすぎて解けちった」


「はぁ!?」


「え、ええぇぇぇぇぇ!?」


「えっ!?」

 

 煙りが晴れるとそこには巨大な大精霊の姿はなく、とても小さな青い幼児の女の子の姿がそこにはあった。


「ゴメンちゃい、見栄張って大きな逞しい姿に化てたのだけど、これが本当の僕の姿さ。えへへへ」


 小さな女の子が、頭を掻きながらそう言った。

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