第42話 永劫回帰〜無限なる1レップ〜





 ニヤリと笑うヨーゼフを前に赤鬼も青鬼も地面にめり込みそうなほどのプレシャーが敵味方関係なくのしかかる。


「くそがあああああ──!!」青鬼抵抗する様に叫ぶ。


「──私はですね。魔法が、魔力こそが全てだと思っていました。来る日も来る日も魔法の修行に勤しみ、死ぬ淵を彷徨うような御法度とされる様な修行もしてきました………………、おや? 立てませんか?」ヨーゼフはそう言って息を吸うのですらやっとな青鬼を持ち上げた。


「お、おい」赤鬼が不安そうに言う。


「──私は確かにこの世界の指折りの大魔法使いの1人となりました──ですがね──。大魔法使い止まり、賢者にはなれなかったのですよ。わかりますか? 賢者を夢を見て生涯ずっと捧げてきたのです。きっといつか魔力が、魔法が、いつか努力している私に答えてくれると──そう信じていました。私にとっては魔法が崇拝の対照であり〝神〟でした」


 ヨーゼフは持ち上げた青鬼をそのまま地面に叩きつけた。「ゴフッ」と青鬼は悶えた。そしてもう一度ヨーゼフは青鬼を持ち上げた。


「──そんなある日、私はエレインという1人の男に出会った。彼は魔法も剣も使わない。そこのね──デュラハンさんにお会いしたのですよ。【不死身の騎士デュラハン】笑えました。全身全霊すべてをかけた私の魔法がゴミのようでしたよ──その時、エレインくんはね──ただ怪力で潰したのですよそのデュラハンさんを──」


 ヨーゼフは再び青鬼を地面に叩きつけた。1度目より強く、地面に顔がのめり込み青鬼が大地に突き刺さる。


「青鬼ぃぃぃ!?」赤鬼が大声で呼びかける。


「そして私は思ったのです──【神は(魔法)は死んだと──】あなた達は殺しませんよ。あなた達の神には死んでもらいますがね」


「くそがぁぁぁぁー!!」赤鬼が、全身全霊の力でプレッシャーを跳ね除け立ち上がる。


「殺してやるゥゥゥゥ!!」赤鬼の全身は怒りの如く真っ赤に燃え上がる。炎と共にヨーゼフに襲いかかった。

 

 戦慄、圧巻、怒涛の──どう表現すればいいのだろうか、周囲には熱風が吹き荒れるほどの凄まじい攻撃の猛攻。

 ヨーゼフは、全ての攻撃を避ける事も防御する事もなく涼しい紳士の顔で全てその肉体で受けた。


「はぁはぁはぁ……」赤鬼のスタミナが切れたようだ。


「まずはラクダになるのです──ラクダのようにこの人生という砂漠にバーベルやダンベルをみずから背負い込みその己が肉体と精神を鍛えあげるのです」そう言って赤鬼の腹にボディーブローを下から突き上げた。


「ぐはぁ!」赤鬼が悶絶する。


「──ある程度のラクダになれたら人生という広大な砂漠を信じる力が身につくでしょう──何かを信じるにも力が必要なのですよ。力なき信念は、ただの弱点です」そう言ったあとヨーゼフは綺麗な後ろ回し蹴りで赤鬼の顔面を蹴り抜いた。赤鬼の体は宙に舞いながら回転する。──すごいのだが、ヨーゼフが何を言っているのかさっぱりわからない。


「──そして、次は獅子になるのです」ヨーゼフはそう言いながら吹っ飛んだ赤鬼の元へ歩む。


(もっとわからない!?)


「──力を、信じる力を手に入れた後は、その砂漠を自分の砂漠にするのです。人生という砂漠を歩むラクダではなく、人生という砂漠を自分の領土にするのです。力あるものがここは私の領土だと示す様に……」赤鬼をヨーゼフは持ち上げた。


「私が獅子だと示すのです!」そう言って赤鬼を青鬼のように地面に叩きつけた。


「ぐあっ!」叩きつけられた赤鬼が地面にめり込む。


「──そして、最後は赤ん坊になるのです。何が正義で何が悪かなんて浅い倫理を広げるつもりはありませんよ。ただ赤ん坊のように無邪気に強さを誇示するでもなく、自分のために、自分のやりたいと思う事のために使うのです! ラクダ、獅子を乗り越えた赤ん坊は悪にも正義にもならない。己が倫理に生きるのです!」赤鬼を青鬼のそばに投げた。


  言っている事がまったく意味不明だが、強い。このヨーゼフ、賢者どころの強さじゃない。紳士な見た目とは真逆な強さだ。もしかしたら聖騎士長でも勝てないかもしれない。


「──ふぅ──」再び深い呼吸を吐くとまたあの重圧が辺り一面に降り注ぐ。


「──行きますよ」両手に赤鬼と青鬼を持ち上げてぐるぐる回る。


「ふん!」と唸り2匹の魔王軍幹部をぶん投げた。


「グァァッ!」2匹のオーガの真の姿はもうそこにはなく人型の赤鬼と青鬼もどっていた。ボロボロになり立つのがやっとの状態だった。


 ヨーゼフは、ゆっくり前に歩み出す。どんどん緊迫した空気が重くなる。誰もが圧倒的な完封に見えた──その時──。


「ぐぅ……、困りましたね」そう言ってヨーゼフが、座り込んだ。「時間切れですか──」ヨーゼフの姿も先程のパンプアップした大きな姿から元の体に戻っていた。MPを使い切りもはや、立つ事もできないのかヨーゼフは膝と手を付きその場から動けなくなった。


「は──、は、はははははははははは!」状況を察した赤鬼が笑う。


「あは、あはあはあはあはあはあはははは!」青鬼も高々と笑い声を上げた。


「ははは──はぁー、人間にしてはよくやったぜぇ〜。どんな気分だ? 今から殺される気分は?」赤鬼が勝ち誇り身体を引きずりながら前にくる。勝ち誇っているが2匹とはボロボロだ。


(今なら俺とリリィでなんとかできそうだ──)そう思い、リリィとアイコンタクトをして頷きあった。俺達がヨーゼフの元に駆けつけようとしたその時。


「待つゴブ!」ゴブタの引き止める声が聞こえた。


「まだヨーゼフ殿は終わってないゴブよ」


「どう見てもまずい状況だ! 聖騎士として見過ごせない!」


「良く見るゴブ」俺達はヨーゼフの方に目を向けた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!」


 赤鬼と青鬼が喚き散らす。ヨーゼフは深くため息をついた。まるで諦めたかの様に一瞬見える程に力がない様に見える。


「ラスト1回、ラスト1回、ラスト1回、そうやってデュラハンさんが私たちを追い込む意味がわかりますか?」ヨーゼフは優しく呟いた。


「はぁ? しらねーよ、死ねーよ!」


「──人生とは、生きるとは、常にラスト1回の連続なんです。前を歩む者はたえず、踏ん張り続けなければならない。最後の1回を超えた先にはまた次のステージが待っています。歩む限りゴールなんてないのです。その歩みこそが、ゴールそのもの。答えその物なのです」


「はぁー? 何いってやがんだ?」


「ゆえにそのラスト1回の1レップを超えた先には、12回目が、その先にはさらに重い重量が私達トレーニーを待っています──それは永遠と死ぬまで続けるのです。それが歩む者なのです」


「はぁん? だったら、今すぐ終わらせてやるよ──死ねぇぇ──」最後の力を振り絞った赤鬼は棍棒を高々と振り上げた──。


「──これが私のラスト・レップ! 〝永劫回帰〟(終わりなき最後の1回)」


 ヨーゼフは、座り込んだ姿勢から凄まじい瞬発力を発揮し、そのまま鳥の様に両腕を広げてダブルラリアットを2匹のオーガにぶちかました。MPはとうに枯れ果てていた──、ただ純粋に積み上げてきた、信じ続けた己の肉体のみの純粋なる攻撃、まるで不死鳥のようにその背中は神々しかった──。

 

 そのラリアットはオーガをぶっ飛ばすのではなく角度がやや下を向いていた──2匹はそのまま地面に泡を吹きながらめり込んだ。誰が見ても、もう立ち上がれない──。ヨーゼフの勝利が一目瞭然だった。


「〝ツァラストラ〟は何度でも歩み続ける──」ヨーゼフは右手の拳を高々と天にかかげた。


「「「うああぁぁぁぁ──!!」」」


 ゴブリン、オーク、冒険者達の拍手喝采が、鳴り響く。オーガ達は負けを確信し、座り込んだ。


「──君達(オーガ)の敗北の要因は、単純明快です──。相手が筋トレをしていた……、ただそれだけに尽きる」

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