第41話 とある魔法使いの〝超人説〟





「──赤鬼ぃぃ──!? 油断しちゃったなぁ〜ん? クハハハハッ」青鬼が今度は、ヨーゼフに襲いかかる。棍棒を高々と上げて、ぐるぐると振り回す。


「ほ〜ら、ほ〜ら、ほ〜らッ、ほ〜らッ!」そう狂ったように叫びながらヨーゼフに棍棒による猛攻が襲いかかっていた。──、ヨーゼフはどの攻撃もギリギリでかわしていた。


「──ヨーゼフさん、魔法は!?」


「えぇ、使いますよ。──【エンチャントマッスルポイント 上腕二頭筋】パワァァァー!!」

 

 まるでエレインの様に叫びあげる姿は少し懐かしく思った。──しかし──それだけではなかった──ヨーゼフさんの上腕二頭筋がパンプアップしている──バキバキになっていて血管が浮き出て、2倍くらい太さになっていた。


「【エンチャントマッスルポイント ヒラメ筋】パワァァァ──!!」今度はズボンがはちきれんばかりにふくらはぎがパンプアップした。


「それじゃぁ、行きますよ。──パワァァァ──!!」ヨーゼフは高々と拳を天に掲げた。


 大地に大きな足跡を残す程の踏み込みで青鬼の首元をめがけてラリアットを炸裂させた。


「──ガッ──!?」青鬼は白目と泡を吹き赤鬼の元まで吹っ飛んだ。


(つ、強ぇ──)そして俺は十兵衛の方を見た。


 黒鬼と十兵衛は、無言で激しい打撃の攻防を繰り返す。戦闘力は互角? いや、黒鬼には武器である棍棒がある──。らちが開かないと見たか黒鬼は十兵衛くんに蹴りを入れるフリをして砂をかけた──「クッ!」十兵衛の目に砂が入りわずかに動きが止る。黒鬼は距離をとった。その下がった先には──十兵衛くんに不意打ちで吹っ飛ばされた棍棒があった。


 黒鬼はその棍棒を手に持ち「黒雷……」と呟くと棍棒に黒いイナズマが出現した。見るだけでわかる尋常ならざる力。──バチバチッビリビリッと音をたて棍棒が唸る。

 黒鬼が棍棒を一振りすると禍々しい魔力が黒いイナズマとなり十兵衛くんにふりかかった。バチバチッと閃光を浴びる十兵衛くん。両腕を十字に組みガードをする。


「ぬ、ぬおおおおおッ!」十兵衛オークの毛がちりぢりと焦げる匂いがあたりを立ち込める。


「十兵衛くん!!」すかさず俺が間に入ろうと駆けた。──が、俺の前に止まれと言わんばかりに静止する腕が前を塞ぐ。──ゴブザエモンだった。


「──俺がやるゴブ、デュラハン殿行くゴブよ」手には真っ黒のデュラハンバーベルを持っていた。


「チッ──バーベル使いが荒れぇんだよてめぇーら、あのクソガキに道具の丁寧に言われてたんだろぉがよ!」デュラハンバーベルが、嫌味っぽく言う。


「終わったら丁寧にメンテナンスするゴブからそんなに怒らないで欲しいゴブ」そう言ってゴブザエモンがデュラハンを棒術の用に華麗に振り回し、駆け出す──。


「す、ずっげぇ」俺はあまりに可憐な棒術裁きに見惚れていた。


 そしてゴブザエモンがそのデュラハンバーベルを────黒鬼目掛け────投げたのだ────。


「な、投げた!?」


 バーベルは、見事に棍棒に直撃し黒鬼の手元から棍棒を弾いた。────ゴブザエモンが走りながら手を高々と掲げる。黒鬼はゴブザエモンを見て防御の態勢をとった。そして──。


「パワァァァ──!!」ゴブザエモンはそのまま黒鬼のガードの上からラリアットをする。


「な、なんでにゃ!? バーベルで戦わないで、ここの里のみんなラリアットばかりするにゃ!!」


 俺はリリィの顔を見て、にっこりと笑い無言で頷いた。黒鬼はそのまま失神した。恐るべしゴブリンマッスラー。ここのみんな聖騎士長クラスの強さだ。


「あちらは、済んだようですね……、それではこちらも終わらせましょう」ヨーゼフが肩をぐるぐる回しながら言った。


「調子こいてんじゃねーぞ、人間!」赤鬼と青鬼が文字通り鬼の形相で怒りをあらわにしている。その背後で大勢のゴブリンやオークや冒険者達とオーガ達が激しく乱戦となり戦争の激しさが増していく。


「オラッーゴブ!!」ゴブリンがパンチでオーガを地面にめり込ませる。


「おりゃー!」ガタイのいい冒険者が自分の腰にあるブロンズソードを自らの手で叩き折り、そのまま駆け出しオーガにドロップキックをする。


「オラオラッ! 魔剣使いのエドワード様をなめてんじゃねー!!」魔剣使いと名乗る冒険者は、オーガの腰回りに抱きつき締め上げている。オーガは腰が折れて苦しそうに悶絶していた。


「わたくし達を舐めてますわね、桁があと一桁は、たりませんわよ」ガタイのいい女魔法使いが、ボロボロになったオーガの足首を掴みグルグル振り回していた──────あ、あの技は見たことがある──昔、エレインに異国の文化と言われてやっていたプロレスごっこの技……、ジャイアントスィング!!


「にゃ!? あのオーガ振り回してる女! よく見たにゃ数ヶ月前から行方不明で捜索願いを出されていたマルタ城のティオナ姫じゃにゃいか!?」


「あ、あの精神を病み行方不明になっていたティオナ姫だって!? ほ、本当だ! こんなところで筋トレしていたのか!?」


 誰がどう見ても戦況はディズルの里の圧勝である。強すぎる……、ゴブリンもオークも冒険者も……みな武器はぶら下げているだけなのだが……。


「荒ぶってきたにゃー!! ラリアットッニャァー!」荒ぶったリリィが武器も持たずにラリアットをしに駆け出した。


「ば、馬鹿やろぉぉー!?」俺はリリィを怒鳴った。


 リリィの弱々しいラリアットは、オーガに弾き飛ばされその場で「にゃん!」とひっくり返った。


「──二刀流、十字斬!!」すかさずリリィを襲おうとするオーガを俺は斬り倒した。


「馬鹿やろう! 昨日今日の筋トレでどうにかなるもんじゃないんだ!! みんな死ぬほど努力したからできる芸当だ!!」俺はリリィ諭した。


「ご、ごめにゃさい……」耳を垂らしてシュンとするリリィ。そしてヨーゼフの方に目を向けた──。


「さて、私も本気で行かせてもらいますよ」そう言ってヨーゼフは両手の平を合わせて合唱のポーズを取りながらスクワットを始めた。もはや意味がわからない──ヨーゼフがエレインに一瞬、見えた。


「エンチャントマッスルポイント【僧帽筋】」そう言うと僧帽筋が山の様にパンプアップした。そのままスクワットを続け──「エンチャントマッスルポイント【大胸筋】」と呟くと今度は山脈の様に大胸筋が盛り上がった。


「な、なんだ? なんだ? なんだ? なんだ? 青鬼青鬼青鬼青鬼青鬼青鬼!? あいつは何してんだ?」


「赤鬼赤鬼赤鬼赤鬼赤鬼赤鬼赤鬼!? わからないわからないわからないわからないけど! なんかやばそうだぁぁぁぁなぁぁぁ」赤鬼と青鬼は混乱している。


「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇぇ!」何かを察知し焦り出した赤鬼と青鬼がスクワットしているヨーゼフに向かって棍棒を振りかざした。

 殴った──殴った、殴った、殴った、しかしヨーゼフはまるで何事もなかったかのようにブツブツ呟きながらスクワットを続けている。その間にもヨーゼフの身体は次々とパンプアップしてきていた。


「うああああああ!!」

「がぁぁぁぁぁぁ!!」2匹のオーガは、殴る蹴るの連撃を繰り出す──、ヨーゼフはそんな攻撃を受け続けてスクワットを続けている。悟りの境地なのか!? そこに何事もないかの様な有り様でブツブツと念仏のようにエンチャントマッスルポイントと言ってパンプアップをし続けている。


「このままではやばい気がするぞぉぉぉ青鬼ぃぃ」


「そうだなぁぁぁぁぁ赤鬼ぃぃぃぃ、真の姿になるしかねぇぇぇなぁぁぁぁ」


「「うおおおおおおおぎょぉおぉぉぁぉ!!」」2人のオーガは雄叫びをあげるとみるみるうち身体が大きくなっていく、角が更に大きく鋭くなり、爪が凶器のように1枚1枚がナイフの様剥き出しになり、身体が人間サイズだったのがトロルの様に大きく、眼光は真っ白になった。まさにオーガの中のオーガ、そこにいたのは紛れもない魔王軍幹部のオーガであった。赤鬼には地獄の様な業火が体の節々に発生し、青鬼には凍える冷気が立ち込めた。


「こ、これは、やばいぞリリィ!! ヨーゼフさんのサポートに回ろう!」


「にゃーもそう思ってたのにゃ! 行くにゃ!」ヨーゼフの元に駆け寄ろうとしたが、空気が変わっていた。凄いプレシャーが辺りを多い前に出れない。


「な、なんだ!?」鬼のプレシャー!? オーガの方に目を向けるとオーガも今にもプレッシャーに潰されそうになっていて片膝をついていた。


「ヨーゼフにゃ!」


「──ふしゅー」ヨーゼフが深い息を吐いた。


「──全てのMPを使いマッスルに強化を普及しました。これが私の奥の手──、今現在の最強形態です──。そうですね────〝超人説〟(ツァラストラモード)とでも名付けましょうか……」


 ──【〝超人説〟ツァラストラモード】──


 ヨーゼフの全身の筋肉は5倍ほどの大きさ膨れ上がり、その体から発生するオーラが息を吐くだけでとてつもないプレシャーとなり、周囲の人間や魔物が立ち上がれない程の空間に変わった。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいゾォぉぉぉぉー青鬼にぃぃぃぃぃ!!」


「なんだこいつ、なんだこいつ、なんだこいつ!? こいつは本当にぃ──、人間なのかぁぁぁぁ!?」オーガが絶叫をする。


「──この状態は5分しか持ちませんが──、十分でしょう。覚悟はよろしいですか?」

 

 ヨーゼフがビルダーポージングのモストマスキュラーを決めながら紳士的にニコリと言った。

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