第23話ーデュラハンの憂鬱①ー



 俺様はデュラハン。魔王軍幹部が一人、不死身の騎士デュラハンだ。

 三万年生き続けて、前任幹部が、勇者共に倒された後、三年前に魔王軍幹部に昇格した。

 した……、のだが……、ついこないだ勇者でもなんでねぇ──、ただの怪力小僧にペシャンコに潰されて土に埋められた訳だ。


 俺様は、不死身だ。

 ゆえにここで永遠に過ごさなきゃならねぇ……、こんな失態を犯し魔王軍にも戻れるわけがねぇし……、こんな情けねぇ姿を他の魔物に見られてみろ! 昔年の恨みを晴らされる事、間違いないねぇーだろう……。助けなんざこねぇし、求めねぇー。

 はぁ〜つまらない……、はぁ〜退屈だ、あんのっクソガキッッ!!


「おのれ〜、おのれ〜、おのれぇぇ──ッ!」


 あれから何日が過ぎたんだ? もともと不死の俺様には、時間の概念なんぞどうでもいい事だけどなぁ……。いや、むしろ死にてぇ……。

 ──あん? 人の声が聞こえてくるな。珍しいじゃねーか、こんな山頂にくるとはな……。


「──たしか、この変よね?」


「──う〜ん、どこだったっけなぁ〜、適当に埋めちゃったから──」


「可哀想だよ……」

「そうかな〜、僕はそうは思わないけど……」


 何か探してんのか? この俺様のテリトリーに? 女と男の声がする。

 ──ん? あれ? 光がチラつく……。なんか掘ってんのか? 丁度、俺んとこを掘ってやがるみてぇだ。


「──うぉッ!? まぶッ!?」

「──あった! あったよ、シャルロット!」

「あっ! 本当だ! 良かった〜」

「て、てめぇーーは!? 怪力小僧ッッ!!」


「デュラハンだっけ? シャルロットが可哀想だっていうから君にチャンスを上げようと思ってね」


「はぁ? 俺様に? てめぇが? なめんなっ! オラッぶっ殺しやるぜ!」


「はぁ〜、だめだシャルロット帰ろう。こんなんじゃ任せられないよ」


 怪力小僧は、俺様に砂をかけ始めた。

 仮にも俺様は、三年とは言え魔王軍幹部だった漢だ。こんなクソガキにやられて情けをかけられくらいなら死を選ぶぜッ! 俺様は、誇り高き不死身の騎士デュラハン様だ。


(俺様……、死ねないんだよなぁ……、ずっと土の中なんだよなぁ……、発掘されても笑いモノなんだよな……、そ、それがどうした、俺は誇り高き……)


「まっ、待て! 待ってくれ! は、話だけなら聞いてやろうじゃねーか!」


「ん? 信用ならないね。君は、これから心を入れ替えて尽くせるかい?」


(はぁ? んな訳ねーだろ? 俺様を誰だと思ってんだ。が、しかし……、今はこいつの言う事を聞いておいてやるよ! 後でチャンス見つけて殺すッ!)


「わ、わかった。心を入れ替えるから! 埋めるのは、やめてくれ!」


「ねっ? エレイン、デュラハンさん心入れ替えてくれるって言ってるよ〜!」


「本当かな〜。まぁチャンスを与える約束だし、君には覚えて貰わないといけない事がある。いいね?」


(──覚える事だと?)


 俺様は、この怪力小僧に担がれて下山した。そして馬車に乗せられて運ばれている。

 どこへ向かってるかは知らねぇーが、一週間もの間──、「覚えて!」と言われた筋トレ? 方法とかいうやつを耳にタコができるくらい永遠と馬車の中で聞かされた。

 しるかタコッ! あーうるせーうるせー!

 (何のために?)知るかぁ! 俺様が聞きてぇわ!


(小僧の怪力の理由が、わかった……筋トレだぁ? なんの意味があんだよッ! この体で……)


 そして【ディズルの森】と書かれた看板が入り口にある謎の集落に到着した。

 勇者ギリアスの石像……、こいつは見たことあるぜ!  くそ勇者だよな! 魔物まで懐いてるやつがいたのをよく覚えてるぜ。となりの石像……、なんだぁこいつ?

 ジェイソン◯ティサム? 知らねぇーな。おかしな石像だぜ……。


「エレイン様! エレイン様が、来たゴブよ──!」

「あっ! エレイン様っ! お久しぶりゴブ」

「おぉ──! 久しぶりにエレイン様が見えたぞ!」


(あぁん? ゴブリンにオーク? この小僧、魔物を手名付けていやがんのか? 

(──にしてもこいつら──、

(ただのゴブリンやオークならともかく、オークディザイヤーやゴブリンウォーリア、ゴブリンナイトまでいやがんのか!?)


「見ないうちにゴブタくんとゴブザエモンくんも、また進化した? すごくパワーアップしてる!」


「筋トレ毎日、やってるゴブからねッ! サボってないゴブッ! ゴブリンナイトに進化したんだゴブ!」


「エレイン様! 俺もオークディザイヤーに進化したぜ!」


「おぉーッ! 十兵衛くんもナイスバルグッ!!」


「里の皆んなもチラホラ進化してるね!? すごいやみんな!」


「てめぇーーら! 魔物のくせになんで人間に懐いてやがんだ? このガキ殺せッ!」


「エレイン様、このしゃべる板っパチはなんですか? 見た事ない素材ゴブよ」


「あぁ……、紹介するよ! 魔王軍幹部らしい……、デュラハンって言うらしいよ。知ってるかい?」


「「「デュ、デュラハンだって──!?」」」


「魔物なら俺様を知らねぇわけがねぇーよな?」


「まずいゴブよ! デュラハンってあのデュラハンゴブよね?」


「エレイン様、こいつはやべーぞ。それにしてもなんでこんなに潰れいるんだ?」


「──あぁ……、ちょっと前に戦闘になってね。潰したんだ」


「「「潰したッッ!?」」」


「さ、さすがはエレイン様……、底がしれないゴブね」


「本当は土の中に封印していたんだけどね。シャルロットが可哀想だっていうから、心を入れ替えてもらって役に立ってもらおうかなってね」


「相変わらず、シャルロット様は……優しいゴブね……」


「えへへ……、だってあのまま、ずぅーーと埋められてるのなんて可哀想かなって?……ごめんね、ワガママ言っちゃって……」


(復活したらこの女だけは、殺さねぇーでいてやるぜ)


「それでね。ゴブタくん、ちょっと耳を貸してもらえる?」


「…………………」

(なんだこいつら、内緒話なんか始めやがって……)


「な、なんですってぇ──ッッ!?」

「ええええええ──ッ!? まじかゴブ!?」


「──エレイン様──ほ、本気ですか? とても、できるとは思えないぜ……」


 小僧が三匹に耳打ちすると、どいつもこいつも飛び跳ねて驚きやがる。いったい何を話してやがんだ?


「うん! ダメならまた埋めてくるからさ」


「わ、わかりましたゴブ。とりあえずデュラハン様を鍛冶屋のとこまで連れていきますゴブね」


「任せたよ! 僕とシャルロットは、久しぶりにウェイトを楽しんでくるよ。できたら呼んでね」


「待ったね〜!」エルフの女がこっちに手を振っている。


(──あん?)そうして俺様をオークディザイヤーが担ぎだした。


「おい! オークッ!」


「デュラハン様……、俺は十兵衛っていいます。今後ともよろしく」


「てめぇーら、俺様をどこに連れていくんだ?」

「鍛冶屋です」


「鍛冶屋だとぉ!? あん? てめーら、さては俺様を治して復活させるつもりだな? でかしたぜ。あの小僧をぶっ殺した暁には、てめぇーを俺の補佐に向かえ入れてやるぜ! デュラッラッラッラ!」


「いや、その……、言いにくいんで、そう言う事にしておきます……」


「──あ?」


「ところでよ! てめぇーら、なんで人間なんかに味方してやがんだ? 魔物なんだから人間、殺せよ! 食っちまえよ!」


「俺たちディズルの森は、エレイン様の配下だ。エレイン様のいう事が絶対なんですよ。いくらデュラハン様の言葉でも聞けませんね」


「てめぇ……」


 俺様は、非常に頭にキタゼ……、オークの分際で俺様に意見しやがって……。

 体が戻ったらみ・な・ご・ろ・しだ!

 オークは、鍛冶屋らしきゴブリンの前に俺様を担ぎこんだ。


「十兵衛さん! 話は、ゴブタから聞いてますぜ。本当にやっちまっていいんですかい?」


「あぁ……。エレイン様の頼みだ、よろしく頼む」


「了解ゴブ! そんじゃぁ、責任持って預からせてもらうゴブ!」


「おぉうゴブリン! しっかりやれよ。復活した暁には、てめぇは悪いようにはしね〜からよ! デュラッラッラッラ」


「……」


「そんじゃぁ、デュラハン様、まず鎧を溶かすんで熱いですぜ。我慢して下さいゴブね」


「おぉー、いいぜ! 景気良くいけ! デュラッラッラッラ!」


 そしてゴブリンの鍛冶屋は、俺様の体を一度溶かしてもう一度、作り直し始めた。

 カンカンと打ち込みをし、冷やし、熱してを繰り返す。デュラッラッラッラ、楽しみだぜぇ〜! 復活して皆殺しにできる事が……デュラッラッラッラ!


「──出来ました!」


 オークディザイヤーも見に近づいてきた。──よし、殺してやる! ──あ? 動かねぇーぞ?


「──おい! 足と手がついてねーぞ! 何してやがんだてめェー!」


「いえ……、手と足はいりません。デュラハン様には知識さえあれば十分なのです」


「は……? 何言ってやがんだ、てめぇーら! いらねーわけがねぇーだろうがよッ! 今すぐ作り直せコラァ!」


「いや……、ですから……その……、非常に言いにくいのですが……」


「あぁん!? んだよぉ!? ハッキリ言えよ! 殺すぞ、てめぇーら! 早く手と足を作れコラッ!」


「いえ……、ですから手と足は不必要なのです。デュラハン様は、バーベルなので……」


「──は?」


「……」


「──お、俺様が────ッ、ば、バーベル?」


「……はい」


 目の前のオークとゴブリンは、ニッコリと笑いながら頷いた……。





 

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