第24話ーデュラハンの憂鬱②ー
魔王軍幹部になれた理由だ? んなもん決まってんだろ。実力だよ、実力!
俺様は何せ不死身だ。実態がそもそも鎧にこびりついた呪いだ。【呪いそのもの】なんだぜ?
物理はそもそも効かねぇーのさ。例え鎧がズタボロになってもダメージなんかねぇんだよ。
(鎧をぶっ潰されてぺしゃんこになんのは、話がちげー訳だが……そりゃぁ、さすがの俺様もお手上げだぜ……、あの怪力小僧……)
おまけにこの鎧……、魔力反射の鎧だ。リフレクが、施されている。そんじょそこらの魔法は、通じない。
わかるか? 魔法が通じない、物理も通じない、魔力はないが、戦闘力、素早さ、格闘もイケイケだぜ。
剣術、斧術も一級品の実力だ。──んで、不死身なわけだ? 隙がねぇーだろ? 幹部に真っ先に名前が上がるのも当たり前だろ?
そして、そんな完璧な俺様の今の姿は──、筋トレ器具の【バーベル】な訳だ──。
「──ざけんなよッ! あんのクソガキッ! コロス、コロス、コロス、コロス!」
「──落ちいて下さいデュラハン様、そんなに騒がれたらトレーニングに集中できません……」
「十兵衛ッ!! てめぇも俺様を当たり前のように使って筋トレなんかしてんじゃねぇーぞ、コラァッ!」
「すいません……、ほかのパワーラックが空いてないので……、あと二セットだけなので……、ふん、ん!!」
「くッ! 殺せぇぇぇッ──! 殺してくれぇぇぇ──!!」
し、死にたい……、こんな生き恥晒すくらいなら土に埋まっていた方が、マシだった……。
「ありがとうございました。また明日、今度はハーフ・リフトで来ますのでよろしくお願いします!」
「来るんじゃねーよッ!」
気持ち良さそうな面して十兵衛は、去って行った。
どいつもこいつも舐めやがって……、あのクソガキが去ってから三日が経って、ゴブリンもオーク共も当たり前の様に俺様を使いやがる。
長い年月を生きてきたが、こんな屈辱を味わったのは産まれてはじめてだ……。
「クソがぁッ!」
「し、失礼します……、ここいいですか?」見窄らしいゴブリンが、俺様の前に申し訳なさそうに立っている。
「──あん? いい訳ねぇーだろ。他でやれ」
「す、すいません。他のところは満員でして……」
「──チッ」
この見窄らしいゴブリンは、この三日間、隅っこで指咥えて見てやがったやつだ。いつも誰もいなくなってから人知れず端っこでやっている。
他のやつに比べて全然、重量が上がらないやつ。
だいたい殆どのゴブリンとオークは、二百五十キロ〜三百キロの重量で胸の種目と背筋の種目をこなす。
しかし、この見窄らしいゴブリンは八十キロが、関の山だ。落ちこぼれめ!
「はぁ……、はぁ……、ヴゥゥゥゥーーンッ!」
「あぁッッ!!」
ベンチプレスの最中に俺様の体(バーベル)が、右側に傾きそのままゴブリンは、ひっくり返り潰れた。
同時に俺様の体は、地面に叩きつけられた。
「──チッ!」
「す、すいません!」
「ガキッ! ぶっ殺すぞッ!」
「ご、ごめんなさぁ──い!」
見窄らしいゴブリンは、恐怖のあまり泣きながら逃げ去っていった。
俺様を地面に放置したままで……。
「チッ……、くそがぁ! ちゃんと戻せよコラァッ!」
「──まったく、しょうがないゴブね……」騒ぎを聞きつけゴブタが、駆けつけ俺様の体をバーベル置き場に戻した。
「申し訳ないです、デュラハン様」
「あの見窄らしいゴブリンをちゃんと躾とけよ、コラァ!」
「はい、明日からデュラハン様を使用禁止と伝えておきます」
「おう! わかりゃいいんだよ、わかりゃーな。しかし──、あのゴブリンだけやたら非力だな?」
「ゴブ太郎は、他の里でいじめられ、逃げてこの里に流れ着いたゴブリンゴブ。だから、まだまだここに馴染めない上に筋トレのフォームも無茶苦茶ゴブ。少しセンスが悪いゴブ……」
「へぇー。そうかい……(確かに無茶苦茶なフォームだったな)」
次の日も当たり前の様に十兵衛は、俺様を使ってハーフ・デットリフトをしていた。
◇◇ハーフ・デットリフト ◇◇
──通常のデッドリフトでは床に置いたバーベルを持ち上げるが、ハーフデッドリフトでは台に乗せた膝くらいの高さでバーベルを持ち上げる。デッドリフトよりも動作が小さいため、より重いバーベルを使ったトレーニングが可能。しかし、鍛えられるのは広背筋や僧帽筋などの背筋群に限定される。ピンポイントで重い重量をこの三点に集中できるのでこちらをやる人も多い種目だ。
やり方は、デットリフトと基本的に同じだ。デットリフトが床からのスタートでハーフリフトは、膝の高さのスタートだ。(※十二話参照)
もちろんバーベルがない場合は、ダンベルでも可能だぞ!
「いい汗かいたぜ……、デュラハン様、今日もありがとうございました!」
「チッ……」
相変わらず、ムカつくほど清々しい顔して十兵衛は去って行きやがった。
それにしても……、筋トレってそんなにいいものなんか? こいつらの進化は、筋トレのおかげなのか? 腹が立つぜ……。
──ん? あそこで縮こまってんのは……、昨日の見窄らしいゴブリン……たしか、名前はゴブ太郎だったな。
他のパワーラックに並んでいるが、次から次へと横入りされてタジタジしてやがる……、なんともひ弱なやろうだぜ。
「チッ……」
(あれからまだ、一時間くらいあそこでボーとしてやがるな………)
「──チッ! おい! そこの見窄らしゴブリン!……お前だよッ! お前ッ!」
俺様の軍団にも、あんなクソみてぇな部下はいた。
部下のモチベの管理は、全体の戦闘に影響してくる。一人でもやられれば誰かが、不安になり共倒れする。
そしてその悪循環は、連鎖して戦況に大きく響く……、俺様は強い。邪竜のように頼りになるペットもいた。
が……、ワンマンはダメだ。
仮に信頼してる部下に全て託してみろ、そこを潰されたら終わりだ。
俺様が、いくら強くてもたどり着いてくる冒険者を片っ端から相手にすんのは、面倒だ。回数が、多いって事は、イージーミスの確率も高くなるってもんだ。
過信はするが、慢心はしねぇ……。余裕は見せるが、油断は見せねぇ。
そこを間違えたら最後には壊滅なんて事は多いにある。一人の兵隊と侮ってる奴ほど、滅亡してきた。
集団ってのは、個の集まりだ。ゆえに個が個のままだと組織にならねぇ……。しかし個は、個でしかない。
ここの個を団にできるかどうかが、強い軍団を作るのには、重要なポイントだ。【それを個に任せるのは、ナンセンスだ】
雑魚い組織ほど、ここを個に任せて、結局どうにもならねーもんだ。
幹部の性か……、気になって仕方ねぇーぜ、クソが!
「は、はい!」ビクビクしながらゴブ太郎は、返事をした。ったく、情けねぇ……。
「てめぇーみたいな奴を見てるとイライラすんだよッ! 俺様が、てめぇのスライム根性を叩き直してやる。俺様を使えッ!」
「え……、い、いいんですか? し、失礼します」ゴブ太郎をビビリながらもベンチ台に座り、俺様を握った。
ベンチプレスを始めたが、やっぱり七十キロ辺りでもうグラグラしてやがる……。
「チッ……、おい! やめだ、やめだ! 一旦、俺様をおけ」
「──は、はい」
「チッ……、いいか? ベンチプレスの重量を上げられるようになりてぇーなら、ベンチプレスだけしてちゃダメなんだよ!」
「えっ!? そ、そうなんですか!?」
「ベンチプレスは、主に大胸筋を鍛える種目だが他にどこに効いてるよ? あん?」
「え〜と、肩と腕ですかね?」
「正確には、三角筋と上腕三頭筋だ。つまりここのサブ筋も鍛えねーとベンチプレスの重量は、伸びねぇーんだよ!(怪力小僧に覚えさせられた話だけどな……)」
「そ、そうだったんですね!」
「今から、俺様の言う通りにやれッ! バーベルフロントプレスを教えてやるッ!」
◇◇バーベル・ショルダープレス◇◇
──シートに座り、バーベルを肩幅より若干広く握る。胸筋上部あたりにバーベルをセットする。
肘を伸ばしながらバーベルを真上に持ち上げ、ゆっくりともとの位置に戻す。
一セット八〜十二回を三セットを繰り返す。
「そうだ……、腰を丸めると腰を痛めるからしっかり胸を突き出すイメージでやれッ! 肘は、まっすぐ下せよ。手首を痛めるからな!(全部、受け売りだけどな)」
「……は、はい!……うっ……はっ!」
「ベンチプレスをやったら腕と肩もしっかり鍛えろよッ! あともう一つ重要な事がある、てめぇーが伸びねーのは、それが一番問題だッ!」
「は、はい! それは何でしょうか?」
「それはな……、殆どのやつが、明確にできていねぇー【目標設定だ】」
「も……、目標設定ですか?」
俺様の目の前で、アホヅラ下げた雑魚ゴブリンは頭を傾げた。
(チッ……、くそ引っ叩いてやりてぇ……)
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