第25話ーデュラハンの憂鬱③ー





  ──俺様が、まだ呪いになる前──、俺様は、良き王だったと自負している。俺様が、王だった頃によく言っていた言葉がある。


「あたかも不老不死のように生きるな、やりたい事があるなら今やれ! 明日、やれると思っている事が明日やれる保証はどこにもないのだぞ!」


 そんな事、言っていた俺様が今じゃ不老不死だ。

 しかもやりたい放題、暴れまわっていたのが、今じゃバーベルという役割しかできねぇ体になった。

 お笑いじゃねーか……。

 不老不死だろうが、寿命が短命あろうが、どちらも経験した俺様が一つだけ、わかった事がある。


 ──それは【死を意識する環境でしか、命を大切にできねぇ】って事だ。

 ようは、命のやり取りの場、または病気で今にもくたばりそうな時、こんな時しか命を大切にできねぇーって事だ。

 時間=寿命、それを意識できねぇから無駄にボケっとただ過ごして後悔をしちまう。

 命のやり取りの状況下以外で、その余命を意識する方法が一つだけある。それが……【目標設定】だ。

 しっかりとした道筋を敷いた目標なら、忙しすぎて時間を無駄にしている暇もねぇんだよ。

 暇があるってやつは、目標設定が甘ぇだけな訳だ。


「──わかってねぇ〜やつが多すぎるんだ。目標設定ってのは、無謀な夢物語を設定する事とは訳が違ぇーーんだよッ!!」


「は、はい……」

「てめぇの目標は、なんだ?」


「えっと……、みんなと同じくらいの重量が持ち上がるようになりたいですッ!」


「コラァッ! それがダメだっつってんだよッ!」

「ヒッ!? ……ご、ごめんなさい……」

「具体的に言え、具体的に! 何キロなんだよ?」

「二百五十から三百くらいです……」

「あぁん!?」

「に、二百五十です! 二百五十にします!」

「それで、てめぇ〜の最大重量は?」

「は……八十キロです……」

「そのギャップは百七十な訳だな?」

「ひ、百七十!?」


「てめぇーは、そのギャップを知らなくてどうやって埋める気だったんだよ?」


「いいか? 目標ってのは【目標と現状とその差をいつまでに】埋めるかを決めねぇーと【どうやって埋める】かが、見つけられねぇーんだよッ!」


「え……」

「んで、てめぇは、一週間でどれだけ成長したんだ?」


「え、えっと多分、十キロくらいですかね? いや、十五ですかね?」


「知るかッ! 敵を知るには、まず己を知るが基本だ。てめぇが、どこのどいつで何ができるか、わからねぇのに

「敵が、どこのどいつで何が、できるって事を知っていようが、自分自身が何ができるかもわからねぇのに倒しようがねぇーんだよッ!

「敵の弱点が、どこか知っていてもだな……、そこを突ける術を持っているのかを知らねーと、そもそもそこを突けねぇーっわけだッ!!」


「な、なるほど……」


「今のお前は、敵が二百五十キロで、自分にできる事が八十キロな訳だ。つまり今のままだと倒しようがねぇーんだよッ! そこで次は、【いつまでに、その術を身につけるか】を決めんだよ」


「期日ですか……」


「あぁ……、期日とノルマを吐き違えんじゃねぇーぞ。他人に決められた期日なんざノルマでしかねぇ。自分で考え、自分で決めて、自分で分析してこそ目標であって、てめぇがレベルアップする」


「デュラハン様……、なんかめちゃくちゃかっこいいっす!」


「──ん? 当たりメェよ、もう一つ教えておいてやるぜッ! 他人の精神論に振り回されんなよ。他人の精神なんざ、他人にしかわからねぇ……【精神論は、自分の精神論以外は雑音でしかねぇ】」


「雑音……」


「例えばだ……俺様が、どんな苦労や努力をしてこんだけの実力を手に入れたんだ!

「と……、精神論をてめぇに押し付けたところで、その苦労も努力も経験した事のないやつに理解される訳がねぇーーんだよ。

「精神論ってのは、苦労や努力の積み重ねた自信で論するもんだ。【つまり精神論は、てめぇーで積み上げた自信でしか語れない】」


 雑魚ゴブリンは、黙々と俺様の言葉をメモし真剣に聞いている。やる気は、あるみてぇだな……。


「経験や感なんてもんに頼るんじゃねーぞ?

「そんな曖昧なもんを信じているようじゃ、一生てめぇは目標を達成できねぇ。

「重要なのは、現実と現状だッ! 

「いつだって目標と比較できんのは、今現在の現実の現状のみだ」


「現実の現状ですか……」


「だから、てめぇの成長記録を毎日記録しろ。どれくらい伸びたか、どこが弱いか、それを毎日記録をとって目標までに何が、足りてねぇのかを記録で明確にしろ。「頭ん中にあるだけじゃダメだぜ? 

「勘違いってのをなくすための記録だ。それがあってはじめて道筋が見えるわけよ! 

「これが【ステップ思考】だ。世の中チート思考が多すぎんだよ」


「はいッ!」


「とりあえずてめぇは、まず三頭筋、三角筋の筋力の底上げが、最初の課題だ。課題が見えたら次は、道筋だ。これがわかれば暇してる暇なんかねぇーぞ。道筋をひたすらやるのがてめぇの命の使い方だッ!」


「はいッ!」


「次に導入すんのは、トライセプス・エクステンションをやれ、教えてやるよ……」


 ◇◇トライセプス・エクステンション◇◇

 ──フラットベンチの上に仰向けになり、バーベルを持ち上げ肘を身体の上で固定して構える。

肘を動かさないように固定し、そこから肘を曲げてバーベルを額の付近に下ろしていきます。そして、シャフトが額に触れる位置で折り返し、肘を伸ばしつつ、ややバーベルを押し上げる意識で元の場所までもどす。

 バーベルがなくてもダンベルでも可能な上腕三頭筋を鍛えるトレーニングだ。

 強く、逞しい、太い腕を作るには欠かせない種目だぞ。


「は……ッ、ん……、ふん……」


「いいか? 調子こいてフラフラの重い重量で持つじゃねーぞ? 一番の近道は、正しいフォームでやる事だ。

「戦場にも、筋トレに見栄はいらねぇッ! 【凄いやつの振りをするな! 凄い奴になれッ!】わかったか?」


「──はいッ!」

「──おいッ! 肘を開くなッ!」

「──はいッ!」


「──おいッ! 肘のみの伸縮でやるんだよッ! 前腕を使うなッ!」


「──はいッ!」


「よぉーしッ!! 今日は、ここまでだ。あとは、ダンベルカールして終わりだ。行ってこいッ!」


「はいッッ! ありがとうございましたッッ!」そう言ってゴブ太郎は、ダンベルの元へ向かって行った。


 遠くからその一部始終を見ていたゴブタが、俺様の元へニヤニヤしながらやってきた。体があればこんな舐めた面してるやつを引き摺り回してやりたいところだ……。


「デュラハン様……、なんだかんだ優しいゴブね」


「はっ! ち、ちげーし……、俺様は、ただ気に食わなかったから虐めてやったんだよッ!」


「素直じゃないゴブね……」

「うるせぇぞ、コラァ。早く消えろッ!」

「失礼しますゴブ」


(さて……、明日はどうやって、あのゴブ太郎を虐めてやるかな……)







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