第22話ーヨーゼフの憂鬱②ー





 ──それで?──、紳士で名高いヨーゼフ・アルベルトその私が、何故? モノクルを着けて半裸なのか疑問だと言うのかね?

 ふむ……。あの邪龍討伐物語には、まだ続きがあるのだよ。

 会員の君達には、その話をしよう……。




 コカトリスを完食し、食後に筋トレ? とやらをしていたエレインくんと、シャルロットくんは熟睡をしていた。ずいぶん旅慣れをしているものだ……。いくら結界の中であっても私ならこんな地べたで熟睡など到底叶わない。

 そして我々は、早朝山頂に向かい動きだした。


「エレインくん……、君はいつも半裸なのかね?」


「いや〜、その邪龍ってやつに荷物を奪われてしまったのですよ、──ははは!」


「ふむ……」


 茂みから突然、オーガが飛び出してきた。

 今度のオーガは、更に高レベルだ。

 棍棒をもっている、武器が扱えるレベル帯か……。


「──下がりなさい。ここも私が引き受けよう」


『我が指先はシリウスの弓、全ての指先に炎の叡智よ! シリウスの矢 連射!』


 指先から五本の炎の矢が、オーガを貫く。オーガは構わず突進してくる。


「なるほど……。それでは、出し惜しむのはよろしくないようだ」


『集え万物のカケラよ、今その槍となりて貫け! グングニル・ランス!!』


──光の高等魔法【グングニル・ランス】、光を集結した十本の槍となりオーガを貫く。矢との違いは、相手が倒れるまで攻撃し続ける超強力な魔法だ。


『ウォッッッ、グォォォ──!』光槍は貫き、切り刻み、オーガを悶絶させている。


「それでは、トドメといこう──」


『万物の叡智よ、我が力になりて光と共にあらん! ホーリー!!』


 オーガの足元から光の魔法陣が、浮かび上がり眩い光がオーガをかき消した。


「こんな凄い魔法はじめて見ましたよ〜、ねーシャルロット!」


「本当に凄かったね〜!」


「またまた、ご冗談を……。シャルロットくんも相当なものだろうに」


「「?」」


 そうして山頂にたどり着いた。

 今回のターゲット邪龍は、確かに山頂の上をぐるぐる空を飛んで回っている……。


(おかしい……、邪龍は敵を見るとすぐさま喰らいにくる超獰猛なモンスター、我々を確認できているはずなのに襲ってはこない──)


『コラァァァァーッ!! 邪龍ゥゥ──!! 僕のバーベルとダンベルを返せぇぇぇ──!!』


 エレインくんが、あんなにも大声を出して威嚇しているのだから気づかないはずはない……。

 ──ん? 心なしか怯えている? 誰に? 私にか?

 よく見ると片方の翼が、三分の一程もぎとられている。そんな事あるのか? あの邪龍が?


「さすがにあの距離では、私の魔法は届かない。困ったね……。どうにか降りてこないものだろうか……」


「──なら僕が、やりましょう」


「──はははっ! 君にいったいどうできるというのだね?」


 おもむろに手頃そうな少し硬そうで形が整った石を見つけて握っている。


「何をする気なのだ?……、まさかに投げるとか言わないだろうね。君は冗談が上手な子だ」


「──えいッ!!」少年は、その石を邪龍目掛け投げた。


(──ッ! 投げたよッ、おいッ!!)


 石は、見事にありえない飛距離を飛び、邪龍の頭部をまるで逆隕石のように撃ち抜いた。

 まさか邪龍も下から超高速で隕石のような勢いで石が飛んでくるとは、夢にも思っておらんのだろう、完全に気を抜いてるところにあれだ……。邪龍は、真っ逆さまに落ちてきた。


 石の当たった衝撃なのか、地面に叩きつけられた衝撃なのか、真相はわからないが、邪龍は失神している。


(う、嘘だろ……)私は、驚きすぎて固まった。


「ヤァァァァ──ッ!」彼も変なポーズを取って叫んでいる。


「き、君のパワーには正直に驚いたよ……、ははは……」苦笑い? いや私は、何故か武者振るいをしている。


 このままトドメを刺す! ここで目覚められると大変、面倒である……。私のもてる最大火力で消し去る。


『全能なる叡智よ、万物の賜物よ、生と死を司る森羅万象よ、我が呼びかけに応えその力を締めさん『アルテマッッ!』


 邪龍の体、上下を挟む形で魔法陣が、出現し凄まじいマナが流れ込み大きな光の波動となって邪龍をあとかたもなく消し去った。


(ふむ……、今回は楽に攻略できた、帰ろうか)


 ──その瞬間、空には真っ黒に曇が現れ、稲妻が走り、風が荒々しく吹いた。嵐のように不穏な空気に一変した。


「外が、騒がしいと思えば……、おいおい、俺様のペットを殺したのは、お前らか?」


 ──鎧が揺れる音が、近づいてくる。

 この禍々しい魔力と気配……、ただの魔物じゃない。私の本能が察した、これは私の手に負えるレベルではない。

 音のする方向へ顔を向けた瞬間……、私は【死】を意識した。いや……、【生を諦めざる得なかった】


 首がない……、鎧が……、鎧が歩いているのだ……。しかもただの鎧ではない。いにしえに伝わる太古の裏切られし王の亡霊が宿ると言われている魔力反射の鎧である。──間違いない──奴は!!


「魔王軍……幹部……、【デュラハン】」


 魔力の効かない、魔法使い狩り。なんたる失態、なんたる不覚、よく下調べをしなかった私の失態……、私一人でどうこうなる相手ではない。


「え、エレインくん! シャルロットくん! 今すぐ逃げるんだ! 早く! 早くしたまえッッ!」


(せめてこの子達だけでも……)


「デュラッラッラッラッッ!! 俺様から一人でも逃げられると思うか? み・な・ご・ろ・し・だッ!」


「逃げませんよ。きっとこいつが、僕のバーベルとダンベルを持っています」


「は? 何言っちゃってんのこのガキ? 俺様に向かってそんな口聞いてんの?」


(──まずい!!)


 あまりの速さに反応ができなかった。デュラハンは、私の思考と同じ速度でエレインくんを蹴り飛ばしていた。

 飛ばされ、岩山に激突し、その衝撃で瓦礫に埋もれた。死んだか!?


(いつの間に!?)

「──エレイン!?」


「まて! シャルロットくん、こうなればもう逃げ場はない。力を貸してくれ! 今は自分の生命を最優先にしないと君までやられるぞ!」


「──でも、エレインが!!」

「振り向くな! 今、私にも余裕はないッ!」

「は、はい! でも、どうすれば!?」


「君も魔法で思ったように闘って隙をつくってくれればいい、あとは私が……」


「む……、無理です!」


「恐ろしいのわかる……、けど今は、闘わねば全滅だッ! 勇気を出すんだッ!」


「──いや──、そうじゃなくて──、わたしッ! 魔力ないんです!」


「──は?」


(えぇぇぇ──!? その腕輪なぁに? それ伝説の腕輪だよね? 君、エルフだよね? 終わった)


「デュラッラッラッラッッラ!! アホかテメェら、死ねや!!」


 デュラハンが、一瞬で私に詰め寄り目の前まで来た。

 詠唱の隙もない……、格が違いすぎる……。脳裏によぎる──【死】の一文字。

 その右手にもった斧を高々と振り上げているのが見えた。

 私は、死を覚悟して目を閉じたのである……。この先にどんな希望があるものか、あるはずがない……、やつは、魔王軍幹部の一人だ。次元が違いすぎる……。

 なにかが、弾け飛ぶ音が聞こえた。瓦礫が吹っ飛ぶ音? いや私が埋もれたのか? いや──?


(────ッ!?)


 恐る恐る目を開くとデュラハンは、まだ斧を振り下ろしていなかった。(……なぜ?)よく見るとエレインくんが、デュラハンの横に立ち、その腕を片手で押さえていた。


「テメェ……、なにもんだ?」


「いきなり蹴りをくれるなんて、ビックリするじゃないか、僕じゃなかったら死んでるよッ!!」


 エレインくんは、そう言ってフルスィングでただ純粋にデュラハンを殴ったのだ。私は信じられなかった……、こんな事があるのかと──。

 あの魔王軍幹部のデュラハンが、ただ純粋にぶん殴られて吹っ飛ばされて、瓦礫に埋もれたのである。


「これでおアイコだよ」


「んだとぉ!? クソガキ、ぶっ殺すッ!?」


 すぐさまデュラハンが、立ち上がるがそれよりも早くエレインくんは、間を詰めていた。


「エレインくん!! やつは不死身だ!! 闇雲に攻撃してはラチが開かない!!」


「なるほど……、ならこの鎧をぶっ潰して無力にすればいいんですね?」


「──そんな事できるのか!?」


「ウダウダウダ抜かしてんじゃねぇぇぇぇーーッ! 死ねやガキィーーッッ!」


 縦に振り下ろした斧を、上半身を横に振って避けたのである。しかも最小限の動きで……。

 さらに小刻みにエレインくんは振り子のように左右に揺れる。両手の拳を顎の前に構えて……。

 デュラハンは、その動きに釣られてしまい後追いする形で斧を振り回す。エレインくんが、すでに先に避けているのだ……、もはや意味がわからない……。


「僕は、格闘技の経験はない……。だが、しかし……、むかし読んだ、【はじめの○歩】で、すでに会得した技がある」


 そうブツブツ言っている。なにか詠唱なのか?

 体の振り幅が、どんどん大きくなる。


『デンプシ──ロォ──ルッッ!!』


 そう叫びながら彼は、左右の揺れた反動を使い純粋に拳で殴りまくったのだ!


『うぉぉぉぉぉぉ──ッ!!』


 ただひたすらに殴って殴って殴って殴って殴って殴って、殴りまくっているのだ!! 純粋な力のみで!!


 私は震えた。恐怖ではない……、これは憧れにも似た感動だ。なんだこのうちから溢れ出す想いわ!?


『グォォォーオオオ……、ば、ばかなぁ──、この俺様がぁぁぁぁ──!?』


 デュラハンの鎧は、見る見るうちに殴られ形を変えていく。ボコボコと拳がめり込み小さくなっていく、気づけば二回り程、小さくなっていた。


「はぁ……、はぁ……」


「デュラッラッラッラッッ……、はぁ……はぁ……、少し驚いたが、てめぇも終わりのようだなぁッッ!」


 デュラハンは、再び息を吹き返しエレインくんに猛攻を仕掛ける。

 エレインくんは、デュラハンの拳や蹴りなんどは受けているが、致命的な斧だけは避けていた。

 おそらくあの一点のみに集中しているようだ。

 斧を勢いよくフリ外した地面に突き刺ささった瞬間、デュラハンの背後に周りこみ後ろから抱きついた。


「──なにをするつもりだ!? てめぇ?」


「殴ってダメなら、ハサミ潰すまでさ! ふんっ!」


『ぬぁぁぁぁぁ──ッ!! 放せぇ──、小僧ぉぉぉ──ッ!!』


 ベキベキッと音をたてて鎧が、潰れていく。

 信じられるだろうか? あの不死身の鎧騎士デュラハンが、ただただ怪力で押し潰されていくのだ──、メキメキと音を食い込ませて──。


「ふーんッ! 腹式呼吸ッ! ふーんッ!」


 途中から足を絡みつかせ体全身で押し潰す。メキメキと音をたててデュラハンは、どんどん薄くなっていく。


「や、やめろぉォォォ──! くそガキぃぃ──! なんて怪力してやがんだ! クソガァァァ──!?」


 魔王軍幹部は、本よりも薄く、長細いプレート状に変貌を遂げていた。


『ゆ、ゆるさねぇ──、許さんぞぉぉぉ!!』


「君は、死ぬ事がないのだろ? ──なら封印だ、君を土の中に埋める」


「てめぇ──、こんな事してただ済むと思うなよぉ!?」


「これでもう悪さできないでしょ?」


 ──そう言って完全にデュラハンを土の中に埋めた。


「エレイン……。ちょ、ちょっと可哀想じゃない?」


「いや、奴は大悪党なのだよ、お嬢さん。甘く見ていると命取りになるのでね。ダメ押しで私が、土魔法でさらに埋めさせてもうよ」


『──グランド』


 土魔法を使いさらにその上に土を分厚くひいた。いくら魔王軍幹部の幹部であろうと、あの姿で、魔力のないデュラハンが出てくる事は不可能だろう。


「──あった、あった!! バーベルとダンベルあったよ、シャルロット」


「よかったね、見つかって」


 目的の物を見つけたらしい。

「ありがとうございました」──そう私にお辞儀して彼らは下山していった。

 私は、おどろきのあまり数時間は立ち尽くしたのである。未だに信じられなかった……。

 あの魔王軍幹部の不死身のデュラハンが……、純粋に力だけで、しかもたった一人の少年に圧倒的な差で敗れたのである。

 こんな事があっていいのか!?

 でも、一つだけ確信があった。私は彼に憧れを抱いていたのである。

 勇者より、賢者より、剣聖より、拳帝よりもエレインくんがヒーローになっていた……。


 そして私は、私のトレードマークであるマントと帽子、更には上着をもその場に脱ぎ捨てて歩き出した。


「──筋トレをしよう──」そう呟いて──







 

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