第33話ーイッツマイライフー





 ──減量、それはどんなイメージをお持ちだろうか? それは勝つための手段の1つであり、過酷な物である。だいたいの人が3週間くらいの短期間で10キロくらいの減量を果たすだろう。格闘家なら階級を落として自分のリーチを有利にし、少しでも勝てるチャンスを増やす。ビルダーならば余分な肉を落として美しい筋肉だけを浮かび上がらせ魅せる。


 なぜ、短期なのか? それは長期にかけてやってしまえばただのダイエットであり、ただの痩せてる人だからだ。減量とダイエットの違いは、筋肉を残して肉を断つのだ──。

 余分な物をすり減らすと同時に試合や大会に向けて自分を研ぎ澄ましていく。

 調整をミスればホルモンバランスが崩れて心身共に衰弱する。問題なのがいつも同じ手段が通じない事もただある。多くのアスリートは毎回毎回、新しい減量方を試行錯誤しているはずだ──。

 精神的にも追い込まれる、食べたい物を我慢し、我慢しても我慢しても次から次へと誘惑が迫る──、唯一、悪魔が囁かないのはトレーニングをしてる時のみ、その時のみ誘惑を忘れられる。究極のハングリー状態。「やってやる!」「ぶっ倒してやる!」と、興奮しては「本当に大丈夫か?」「勝てるのか?」と繰り返す情緒不安定──、なんのためにこんなに苦しい思いをするのか……自問自答を繰り返す。

 ──何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。

 お腹かが空き過ぎて──またはホルモンバランスが崩れていて不安で──眠れない夜を何度も超えていく。決められた分量の食事は決して満足できる物ではなく、食べる事の喜びを忘れていく。今まで当たり前に食べていた物がとても贅沢だったとその度に知る。この試合が終わったら──好きなものを食べるんだ……、好きなことをするんだ……そう心に重い描いてただ勝つためだけに研ぎ澄ましていくのだ。

 精神論は好きではない。よくある根性論も好きではない。ただ──やはり成長には試練が必要なのだ。

 肉体が精神を超えるとか、精神が肉体を超えるとか、そんなわけのわからない理論はどうだっていいのだ──。

 結局のところ唯一無二の真実は【自分が自分を超えて行く】なのだから──。




「はぁはぁはぁ──うあああああああああッ!」


 ガシャン! ガシャン! 部屋に金属音を響かせて、背中の筋肉が限界を向かえバーベルを地面に落とす──。俺はソロモン王に作ってもらった筋トレ器具を駆使して絶賛、筋トレ真っ最中だ。ただのトレーニングではない……、大会前の勝つためのトレーニングだ。トレーニングのためのトレーニングではなく、勝つためのトレーニングだ。

 今回全身はもちろんの事、特に上腕二頭筋を重点的に鍛えている──。


「──体もってくれよ! バーベル4べぇーだぁ──!! うあああああああ──!!」

  

  俺の限界突破の絶叫が部屋に響く、ゲイ将軍にプレゼントされた際どいブーメランパンツ一丁で追い込む──、滴り落ちる汗、足元は水溜り、この部屋のエアコンのような心地よい冷風魔法を遮断してもらいサウナ状態。

 どうやら街全体にこのエアコンのような魔法が適応されているらしく、ソロモン王1人の魔力でまかなっているらしい──とんでもない魔力量だ。通りでソロモン王が出かけてしまうと大変な事になる訳だ。おそらくこのエアコン魔法以外にもあちらこちらでその魔量を使っているのだろう……。偉大な人である事は間違いない──。


「──うあああッ! はぁ……はぁ……」


 上腕二頭筋は長頭と短頭の2つの筋肉で成り立っている。ボディービルダーの選手やマッチョな人の上腕は見事に割れている。

 長頭は自分の上腕二頭筋をみた時に外側に付いている筋肉、短頭は内側についている筋肉、力コブの部分だ。バーベルカール、アームカール、ハンマーカールで追い込み、インターバル中にパームカールを行いさらに強度を上げる。




 ◇◇パームカール◇◇

 自宅でも、どこでも場所を選ばず更に筋トレ器具も不要なカールトレーニング。なんと腕のみで行える上腕二頭筋のトレーニング。

 鍛える方の手を握り込んで拳を作り、逆側の手で手首のあたりを握って押さえつける。逆側の手でしっかり抵抗をかけた上で、息を吐きながら拳を握った手を上げていく。

 このとき、力こぶを作るようなイメージでグッと力を込めたままにしておくのがポイント。そのあと、力を抜かないようにゆっくりと腕を下ろしていく。目標は両腕3セットずつで、力の入れ方としては10〜15回で限界を迎える程度がベスト。


「暑苦しいアルな……ほらエレちゃん、水持ってきたあるよ! 言われた通り塩とレモン汁とちょっと砂糖ぶっ込んできたネ」


 筋トレに夢中でメイメイとシャルロットが部屋に入ってきていたのがわからなかった。気が付いたら特製スポーツドリンクを持って立っていた。


「──ありがとう」俺はドリンクを受け取り一気飲みした。


 俺の頭の中では転生前によく聴いてたボン・ジョビの「イッツマイライフ」が脳内で再生されている。気分は最高潮でトレーニングしている自分に酔いしれられる。

 

 今回の勝利の鍵は怪力とスタミナ。ゆえに今までの肥大化させるトレーニング方法とは別のアプローチで行く。

 持久力には「全身持久力」と「筋持久力」がある。 全身持久力は心肺機能など主に内臓の力を必要とする──、全身持久力を高めるためにはジョギングやランニング、水泳などの有酸素運動が必須。

 筋持久力の場合は、特定の筋肉の持久力を必要とするので筋肉を動かし続ける反復運動で鍛えていく──つまりゆっくり負荷をかけるではなく、ひたすら回数をこなして行く。


  筋肉には瞬発的な動きが得意な「速筋(白筋)」と持久力に優れた「遅筋(赤筋)」がある。

 筋持久力を高めるためには、遅筋の性質をもつ大胸筋・広背筋・大腿四頭筋といった大きな筋肉の大筋群を重点的に鍛えることがまず一点。

 大筋群は筋肉量の多さに比例して体内エネルギーを生み出す役割があるため、鍛えることで、持続的な力が手に入る。




 ──筋持久力を高める3つのポイント──

 連続して20〜30回できるトレーニングを低負荷で行う。

セット間のインターバルは短くとる。トレーニングで筋肉を動かせる限界近くまで追い込む──。

 



 そして2つ目の作戦は、あえて炎天下の砂漠の上で闘う。

 理由としては1つ、神獣の寝床は地面の下の涼しい場所であった事、──2つ、飛び出してすぐに岩下の木陰でやすんでいた事……、あくまで予想だが、神獣も炎天下を嫌うと思われる。お互いに苦手のフィールド炎天下を勝負場所としようと思う。つまり俺は今からそれに備えなきゃならない。


 ──砂漠ダッシュだ!!


「あああああッ──!!」カンカンデリの灼熱の炎天下、クソ暑い砂漠を俺は全力でダッシュする。止まらない汗──滝のように吹き出す。太陽に肌は焼けていく、熱を帯びた砂に埋もれる足からも砂漠の厳しさを感じる。

 

 俺は砂漠の上の100メートルダッシュを30本、その後10キロマラソン毎日筋トレ後に行った。

 何回も嘔吐し、フラフラになり、時には意識を失う事もあったり、熱中症で倒れた事もあった、とても厳しいトレーニングだった。

 ダッシュの脂肪燃焼効果の高さもあってみるみる余分な肉を削ぎ落として──精神を研ぎ澄ませた──。




 ──そして3週間──




「これがスーパーエレイン3だ!」俺は見事に減量、そして筋持久レベルアップを果たして、肺活量も今までにない程パワーアップした人生史上最強の肉体にまで昇華させた。ボサボサだった髪の毛を油で七三に整えて、炎天下の砂漠ダッシュで見事に黒く焼けた超合金ボディーを王の間で披露した。


「す、凄いアル──エレチャン別人ある!? 本当に人間あるか?」


「──エレイン──、体が凄いムキムキというかビキビキというかモリモリのいうか、バシバシというか、もう何て言っていいかわらない!!」シャルロットは言った。


「ありがとうシャルロット! そんな素晴らしい言葉は大会でも貰った事がなかったよ」


「──え? あ、うん──、でも凄い強そうだよ! きっと凄い事になるね!」


「──いやん、あ〜ん、びっくりし過ぎて胸のパット代わりに詰めていたスライムちゃんが飛び出しちゃぅたわぁ〜ん──、もう! 次飛び出した殺すわよ?」

 

 ソロモン王は、そう言いながら飛び出した胸パット(スライム)をまた胸にしまいながら「素晴らしい生命力を感じるわ……、信じられない波動を感じる──あなた、とてつもないくらい強くなっているわ……肉体だけじゃない──精神も──いったいどうやったの?」


「特別な事はしていませんよ。──ただ誰でも出来ることを誰よりもしただけです(ていうか、胸パットスライムだったんだ……)」


 ──そう俺は、誰でも出来ることを誰よりもした──あとは誰よりも自分のしてきた事を信じるだけだ! 待ってろよ──刹那の獅子!!

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