第60話 この世で1番ヤベェ奴



 私の名前はシャルロット・ハーティー。

 エルフなのに魔法が一切できません。

 生まれつき魔力が0なのです。

 エルフなのに……。

 そんな私が、今エレインとメイちゃんと一緒に大冒険をしています。

 ひょんな事から風の大精霊ジンちゃんが、私達と同行する事になりました。

 そして、アルスター大陸に突然現れた迷宮城。

 ソロモン様からの依頼により、私達はお城の調査に来たのです。

 

 ところが、ゲイさんとサイモンさんは床下の罠に落ちてしまいました。

 私はというと後ろから口と手を塞がれ誘拐されてしまいました。

 そして気付いたら、こうして別室で囚われの身となっています。

 そして今、私は凄く困っています……。

 私は現在、椅子に縛り付けられています。

 そして、私を誘拐した犯人は私の目の前に座り込み……、ずっと私の目をじっと見ているのです。

 そう……、かれこれ数十分。

 ただただ何も言わず、何もせず、目だけをじっと見てくるのです。


 顔がとても怖いんです。

 体半分が悪魔? の様な姿で体半分が機械なのです。そして何やら魔法学者のような白衣を着ています。

 テーブルの上には実験道具のような試験官などがモクモクと煙を立てて広がっています。

 そして、時たまニヤリとするだけでその場を一切動く事なく、ただ私の目をじっと見ています。

 怖いです……。

 色んな意味で……。


「……92」

 誘拐犯は突然ニタリと笑いました。

(え? な、なに?)

 

 そうかと思うとまた、無言で私の目を凝視し始めます。

 怖いです……。怖すぎます……。

 エレイン早く来て……。

 泣きそうです。

 な、何が、92なのでしょうか?


「176本」

 誘拐犯は、また突然数を言いました。

「ひぃッ」

 私はあまりの怖さに体をビクンとさせてしまいました。

「何の数かわかるかね?」

 彼は後ろ姿で意味深に私に語りかけます。

「い、いえ……」

「君の右目のまつげの数だ」

 まつ毛……。

 な、なんて事でしょう。

 私を誘拐したこの方はとんでもない変態なのでしょうか?

 まつ毛の数をずっと数えていたなんて……。

「次は君の左目だ」

「ぃ、ぃゃ……こ、こなぃで下さぃ……」

 こ、怖いです。次は左目を数えるみたいです。

 ひぃッ、近づいてきます!

 

「そこまでだ!」

 突然、聞き覚えのある声が響き渡りました。

「誰かね?」

「じ、ジンちゃん!」

 ジンちゃんが助けに来てくれました。

「どこから入ったのだ?」

「シャルロットくん大丈夫だったかい?」

「じ、ジンちゃ〜ん、うぅ……」

「よし、よし怖かったね」

 ジンちゃんは、風の魔法で縄を切って解いてくれました。

「ふむ。青い幼女よ、お前のまつ毛も数えてやろうか?」

「な、なんだい、お前は?」

 軽くジンちゃん引いています。

 

「私の名前はドクターゲボ。見ての通りサイボーグの悪魔だ。そしてミノタウロス三銃士の1人だがね」

 彼は無表情で淡々と名乗りました。

 

「サイボーグだろうが、悪魔だろうが、僕の前では無力だよ。相手が悪かったね」

 ジンちゃんは、宙で腕を組んで威厳を見せます。

「なんだね、この青い幼女は?」

 ドクターゲボさんは、私に聞いてきました。

 

「ジ、ジンちゃんは大精霊ジンちゃんですッ!」

「精霊? この幼女が?」

「そうだぞ〜。逃げるなら今のうちだぞ〜、変態サイボーグめ」

「ふむ」

 ドクターゲボさんは考える仕草をとりました。

「しかし、相手が私ってところが運の尽きだよ」

 精霊と聞いても全く同様していません。

「君達は私の恐ろしさを知らないようだがね。恐らく私がこの世で1番もっとも恐ろしいぞ」

 自信がみなぎっています。

 きっとすごい実力者なんだと思います。

 

「ただの悪魔如きが精霊を前に何ができるのさ?」

 ジンちゃんが巨大化して脅かします。

 初めて神殿で見た時のあの巨大な姿です。


「フフフフフ」

 ドクターゲボさんは、不気味な笑いを浮かべます。

「ブクマを剥がすのだがね」

 

 な、なんですって!?

 私は耳を疑いました。

 こんな恐ろしい敵が今までいたでしょうか?

 

「なんだってッ!?」

 ジンちゃんも驚きのあまり、元の姿に戻ってしまいました。

 

 ドクターゲボさんは勝ち誇った表情でニヤリとや笑います。

「そして1人、また1人、読者を減らしていきポイントを減らして行く……どうかね?」

 

「ば、馬鹿なッ! そ、そんな恐ろしいことを君はやる気なのか!」

「私の恐ろしさが、わかったかね? 精霊くん」

「や、やめるんだッ! そんな事したら君もただでは済まないぞ」

 ドクターゲボさんは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべます。

「徐々に評価ポイントをじわりじわりと下げられていく気分を味合わせてやろう」

「や、やめるんだ──!」


 そ、そんなのあんまりです。

 そんな恐ろしい事をしようとするドクターゲボさんは、今まで出会ってきた人の中でも、もっとも凶悪です。

「お、落ち着くんだサイボーグ」

 ジンちゃんが必死に説得する。

「やめて下さい! 私がそんな事を絶対にさせません!」

 私だって頑張って来たのです。

 こんなところで終わらせません!

 負けません!

 

「右目176本のエルフよ。君に何ができる?」

「え、えっと、まつ毛の数は、よくわかりませんが頑張ります!」


 ドクターゲボさんは突然、天を仰ぐ様に両手を広げました。

「来なさい、ラムウよ」

「今、なんと言った?」

 ラムウ?

 後ろのテーブルの試験官からモクモクと上がっていた煙が、人型に変わっていきます。

 バチバチとその煙の周りにイナズマが走ります。

「そんな馬鹿なッ!」

 ジンちゃんが叫びます。

「久しぶりじゃの、青いの」

「き、君は!?」

 人型の煙から真っ白なローブを着たお爺ちゃんが、現れました。

 でも、ただのお爺ちゃんじゃんありません!

 体からバチバチとイナズマを纏っています。

 

「な、なんで君が魔王軍になんか属しているんだ!」

 いつも冷静なジンちゃんは凄く慌てています。

 どうやらジンちゃんのお知り合いの様です。

 

「言ってもわかりゃせんわ」

 お爺ちゃんは長い髭を撫でてそう言います。

 

「驚いたかね? 私もね。大精霊が使えるのだよ。右目176本、精霊使いは君だけではないのだがね」


 私とジンちゃんは顔を見合わせました。

 とても状況が乏しくない表情をしています。


(まずいぞシャルロットくん)

 頭の中にジンちゃんの声が響きました。

 

(あの変態だけならともかく、いやブクマを剥がすなんてとんでもないのだけど……)

 そ、そうだね!

 

(しかし、ラムウも大精霊の1人だ。魔力だけで言ったら僕よりも上だ)

 そ、そんな……、どうしようジンちゃん。

 ブクマを剥がされちゃうッ!

 

(それはなんとしても塞がないと!)

 うん!

 

(あの術者のゲボの方も何やら兵器みたいなモノをもっている)

 う、うん!

 

(僕だけでは勝てない。このままでは……)

 ブクマを剥がされちゃうッ!

 

(君の力が必要だ!)

 私も頑張るね!

 

(魔力だけでは勝てない)

 なにをすればいいの?

 

(最強の……、彼らを倒せる凄い奴をイメージしてくれ! 君の想像力を僕の魔力を使って具現化する)

 そんな事ができるの?

 

(僕は大精霊だよ? まかせておくれ!)

 うん、わかった! やってみるね。

 

 私は目を閉じてこめかみに指を当てた。

「むむむむむ……」

 

 イメージ、イメージ……。

 それは3年前……。

 あるお店のお爺ちゃんが言っていました。


 この辺り、一帯大暴れしておった物淒いトロルがおってのぉ。

 ツジツジ様がトロルを退治するのをワシはこの目で見たんじゃッ!


「ツジツジ様ッ!」

 私が叫ぶと目の前にポワールの石像にそっくりなツジツジ様が現れました。

 

 顎に指を置きドクターゲボさんは不思議そうな顔をしています。

「何かね? このへんちくりんは?」

 

「ツジツジツジツジツジツジ!」

 ツジツジ様が肩をぐるぐる回しています。

 

(シャルロットくんこれは?)

 ポワールというお店を守った伝説の剣士なんだって!

(なるほどっ! 伝説ならイケるかもしれない!)


 ツジツジ様がグルグル周りながらドクターゲボさんに回転斬りをしていきます。


「てぃッ!」

 ラムウ様がパチんと指を鳴らしました。

「ツジーッ!」

 ツジツジ様に雷が落ちて、一瞬で消えてしまいました。

 

「弱ッ!」

 ジンちゃんがズッコケます。

 

「なんじゃ、青いの……これでしまいか?」

 ラムウさんは、呆れています。

 

(だ、ダメだ……シャルロットくん他にないのかい!?)

 え、えーと、えーと。今、考えるね……。

 どうしよう……。

 このままじゃブクマが剥がされてしまいます。

(時間を僕が稼ぐッ!)

 ありがとうジンちゃん。


「ところでラムウ。どうして君がそっち側にいるのか聞いてもいいかい?」

「フム……。まぁお前さんに言ってもわかるまい」

「おいおい、秩序の精霊である君が、知恵の精霊である僕にわからないと言うのかい?」

「魔王はお前さん達が思ってるもんでもないって事だよ」

「どういう意味だ?」

「世界に悪も善もないじゃろ? 片方の視点でだけで物事を見るのは好きではない。わしは秩序の精霊じゃしの……」

「君は人類の敵になるつもりなのか?」

「そう捉えてくれてもかまわんわい」

「何の冗談だ──それはッ──なッ──!?」

 ジンちゃんが突然、倒れてしまいました。

 

「どうした? 青いの? ワシはまだ何もしてんぞ?」

 ラムウさんが驚いています。

 

「じ、ジンちゃんどうしたの!?」

 私は慌ててジンちゃんの元に駆け寄りました。


(シャルロットくん。君は……一体何を想像したの?)

 えッ?

 

(とんでもない化け物を創造しようとしたようだ。僕のマナが根こそぎ持っていかれた……)

 そ、そんな、どうしよう!?

 

(いや、やめちゃダメだ。この規模なら確実に勝てる)

 でも、それじゃジンちゃんが!

 

(だ、大丈夫、エネルギーを産むんだ)

 エネルギー?


(力だ! 動かすなんらかのエネルギーが必要なんだ)

 でも、私は魔法が使えない……。


(筋トレだ! 筋トレでエネルギーを産むんだ!)

 え?

 

(筋トレには膨大なエネルギー消費が生まれる)

 わかったよ! 私、頑張るね!

 

「はい!」

 私は手を上げました。

「なんじゃ?」

「何かね? 右目176本」

「シャ、シャルロット・ハーティー、今からサイドレッグ・レイズをやりますッ!」




 ◇◇◇サイドレッグ・レイズ◇◇◇

 サイドレッグレイズは下半身の股関節外転筋やお腹の腹斜筋を鍛えらる筋トレだ。特に、股関節外転筋のなかでも中殿筋に高い負荷がかかる。

 これらの筋肉を鍛えることによって、綺麗なお尻や引き締まった脇腹を作ることが可能だ。

 道具を使用しないため自宅でも簡単にできる。

 エアロビなどでよく見かけるあのセクシーな筋トレ方だ。

 

 その1、まずは床に横向きで寝て、身体を一直線にする。

 床に着いた下側の脚は曲げていても問題はない。下側の腕は自分の置きやすい位置に置いてOK。

 上側の手は骨盤の位置に置き、骨盤が動かないように手で確認をしよう。


 その2、身体がまっすぐになった状態から上側の脚を上げる。このとき、脚が斜め前に行かないようにしよう。斜め前に上げると大腿筋膜張筋という他の部位に負荷が逃げてしまう。


 その3、上げた脚を元にもどします。この動作をゆっくり繰り返す。10回6セットを目指してやってみよう。

 ◇◇◇◇◇◇




「はぁ──んっ──はぁん、あっ──はぁはぁ」

 は、恥ずかしい……。凄く下半身に視線を感じます。

 筋トレの汗と恥ずかしすぎて違う汗をかいています。

 

(いいぞ、シャルロットくん! エネルギーが溜まってきた!)


「こりゃたまらん」

 ラムウ様が鼻血を垂らしています……。

 凄く恥ずかしい。

 そしてゲボさんもじっと見ています……。

 怖い。

 

(よし、イメージをしながら筋トレを続けて!)

 う、うん!


 これは、昔エレインから聞いた異国の物語で……。


 その惑星には闘う事を生業にする民族がいました。

 ある日、生まれた時から並外れた戦闘力を有した赤ん坊が生まれました。

 将来その惑星の王家を脅かす存在になると危惧され、王様からの命令によりその子の父と一緒に放逐されてしまいました。しかし、その惑星はとある宇宙海賊によって滅ぼされてしまいました。

 

 その宇宙海賊の人は、その惑星から言い伝えであった伝説の存在を危惧して滅ぼしてしまったそうです。

 放逐されたその赤ん坊は数少ない生き残りとなりました。

 そして彼はその宇宙海賊が恐れた伝説になってしまったのです。

 その名は……。


(召喚成功だッ!)

 私達の前に凄い光が溢れ出しました。

 

「な、なんだねこれは! あのエルフの股が光っている!?」

「違うわいッばかもん。あれは召喚じゃ! な、なんじゃ、この凄まじいパワーは!」


 皆の視線の先の光の中から、筋骨隆々で屈強な金髪の男性が現れました。

 エレインよりも体が大きいです。

 半裸姿で、目は白目を剥いています。

 体から金色のオーラを発しています。

 

『キャキャロットォォォ──ッ!』

 と発狂をしました。

 

 そう彼はエレインの憧れの1人……。

 伝説のスーパーヤサイ人。

 ブロッコリーさんですッ!

 

「な、何かね! こ、こいつは!?」

「ば、化け物じゃ!」

 お2人が怯えています。


 ブロッコリーさんはラムウ様の言葉に反応しめしました。

『オレが、化け物?……違う、オレは悪魔だッ!』


「こいつは私にもわかる……危険だかね!」

「な、なんて物凄いパワーじゃッ!」

『キャキャロットォォォ──ッ!』

「「ひぎぃぁぁぁぁぁ──!」」

 ブロッコリーさんは、一瞬で2人を連れて空へ飛んで行ってしまいました。

 

「シャルロットくん」

「う、うん……」

「あれ、もう禁止ね……」

「う、うん」

 こうして私達は苦難を無事に乗り越えました。

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