第13話 ツジツジ様
13/ツジツジ様
生まれ育ったシエーナ街を出てからどれくらい歩いただろう。
シャルロットは楽しそうに鼻歌を唄っている。
「ねぇ、その袋なにが入っているの?」
シャルロットが俺の袋を指差す。
「なんかカチャンカチャン音がするのだけど」
「あぁ、これね。50キロのダンベルが2つ入っているんだ」
「──は……あはは……」
シャルロットは苦笑いをしていた。
しばらく旅立つので道中の東の森を通った時、俺たちはステラ王子とアリスさんのお墓に手を合わせ別れの挨拶を済ませてきた。
「そろそろ、お腹すいてきたね」
タンパク質の補給がしたい。
「あッ! 私、お菓子作ってきたよ」
お菓子か……、タンパク質が欲しいところだが……。
「気が聞くね」
「えへへ、でしょー?」
シャルロットは自分で焼いて来たお菓子を取り出し俺に渡してくれた。
「いい香りだ〜」
パイ菓子だ。美味しそうだ。
「いただきます。うん! サクサクしてうまい!」
「えへへ、私も食べよう──」
少し進むと草原のど真ん中にポツンと民家が建っていた。
旗が立っていて【お食事処】と書いてあった。
その裏には、民間の庭くらいの小さな牧場があった。その小さな牧場にはクナイジカが放牧されていた。
「あッ! お店があるよ!」
「凄い場所にあるね」
「クナイジカがいるよ!」
生きているクナイジカは初めて見る。
【60,000/11,000】
中々低カロリーで高タンパクだ。
ここでならタンパク質の補給ができそうだ。
「きっとクナイジカ料理店だね」
入り口には【顔が青い色の、へのへのもへじで坊主頭、ミノムシみたいに全身藁みたいな服を着た】ブサイクな銅像が立っていた。
「なんだこれ……、魔物避けかな? とてつもなく歪だね」
「本当だぁ、変わった銅像だね?」
シャルロットは興味津々に銅像を見ている。
「入ってみよう」
「うん!」
お店のドアを開けた。
「──にゃ!? にゃ!? お客さんとは珍しいにゃん!」
獣人? 店員? やっぱり客が珍しいんだ……。
出迎えてくれた店員さんは、ショートカットの赤毛で猫耳と尻尾のついた可愛い獣人の女性だった。
「今、大丈夫ですか?」
「にゃん、もちろんですにゃん! どうぞどうぞ! 今メニューをお持ちしますにゃん」
そう言って獣人の店員さんは、メニューを見せてくれた。
『──マスター大変ですにゃ! お店にお客さんが来たにゃんッ!』
獣人の店員さん大慌てで、マスターを大きな声で呼んでいる。
余程人が入らないのだろう。俺たちは渡されたメニューを見る。
「シャルロットは、何にする?」
「うーん……、どれも美味しそうだよね。迷っちゃう」
クナイジカのステーキ。
クナイジカ煮込み鍋。
クナイジカのレバー。
クナイジカツノ付きステーキ。
ムール貝のスープ。
予想通りメインはクナイジカ料理のようだ。
「僕はクナイジカツノ付きステーキにしようかな」
「私はツノなしのステーキにするね」
「すいませーん──」
俺たちは注文を済ませた。
すると奥から店長らしきお爺さんが現れた。
「めずらしいお客さんじゃのおう……、冒険者かぇ? ワシも若い頃はお前さんみたいな冒険者だったんだが、膝に矢をうけてしまっての……」
どっかで聞いたことあるようなセリフだ……。
「入り口の銅像は魔物避けですか?」
「おぉ、ツジツジ様の事かね」
「ツジツジ様?」
聞いた事のない単語にシャルロットと目を合わせる。
「あれは3年前の事じゃ──」
店のじいさんは、語り始めた。
「この変一帯大暴れしておった物凄いトロルがおってのぉ」
キングトロルの事だ。
「この店も生贄としてクナイジカを貢献しておったのだ。だがある日の東の森でワシは見たのじゃ!」
あのトロル……、こんなところでもクナイジカを食べていたとは……。
「ツジツジ様がトロルを退治するのをワシはこの目で!」
ツジツジ様ってなんだ?
「一瞬のことじゃったがワシは恐ろしくて逃げてしまったがの……。そのあと確認しに行ったら、やはりあのトロルは死んでおった」
俺達が倒したけどツジツジ様って?
「あれはきっと天から使いじゃったのかもしれん。そうしてうちの店では、ツジツジ様を祀っておるのじゃ──」
「そのトロルってもしかして人間の装備を全身に施した大きなトロルでしたか?」
確認の為に聞いてみた。
「そうじゃ、それはそれは恐ろしい魔物じゃった。どれくらいの冒険者達がやつの餌食になったことか……おぉクワバラクワバラ……」
間違いない。
ツジツジ様はスヴェンだ。
こんなブサイクになってしまって……。
「にゃにゃ! じいさんこんなとこでサボるじゃにゃーよ!」
皿を運んできた先程の獣人の店員が怒る。
「うるさいのぉ〜、年寄りは労らんか!」
「あ、あれ? マスターさんじゃないんですか?」
「違うにゃ、このじいさんはただのバイトにゃ! 隙あらばすぐにサボりまくる、くそじじいにゃ! ほら、さっさと仕事するにゃ! ──シッシ」
ば……バイトかよ……。
シャルロットと目を合わせて苦笑いをした。
「いらっしゃい! クナイジカ専門料理店ポワールへようこそ!」
奥からガタイのいい男が現れた。
「お待ちどうさん。うちの自慢のクナイジカツノ付きステーキとクナイジカステーキだ」
「こっちがマスターにゃ!」
そう言って店員はテーブルに皿を並べてくれた。
【200/120】
200ぐらいしかないのに120もタンパク質がある。クナイジカ素晴らしい……。
エレイン・グランデ、これよりタンパク質を補給する。
「「──いただきます!」」
「こんなところに来るとわな。冒険者かい?」
「シエーナ街から来ました」
「シエーナからか、あそこの魚は上手いよな〜」
「僕達は冒険者ではないですよ。んー……、なんと言ってもいいかわかりません」
困って苦笑いで誤魔化した。
トレーナー? 筋トレ伝道師? 自分の自己紹介に困ってしまう。
俺ってなんなんだろうか? まだ何者にもなれていないな……。
「剣も持たないでよく魔物に襲われなかったな」
マスターは不思議そうに俺達を見る。
「この辺りはキングトロルがいなくなってからオークの連中が幅を利かせているんだ。悪いことは言わねぇから兄ちゃん引き返しな。冒険者でも雇って来たほうが身のためだぜ」
オーク。体の大きな魔物だが、物理が効くのなら問題はない。俺には北斗◯拳がある。
問題はスヴェンがパーティーからいなくなって魔法が使えない今、物理の効かない魔物だ。
いつか俺も魔力を身につけてカメ◯メハを身につけなくてはならない。
「なんなら〜」
マスターは獣人の店員を指差した。
「うちのリリィでも護衛につけてやろうか? 200ギルで次の街まで護衛させてもいいぜ。こう見えてただの猫娘じゃねぇ〜ぞ? これでもB級の冒険者なんだぜ?」
この獣人も冒険だったのか……。
「にゃにゃ、にゃん!」
リリィは少し偉そうに踏ん反り返った。
【220,000/18,500】
確かに戦士並のタンパク質量だ。
「それに近頃では、神獣も出没するっていう話だ。オラァ〜見た事はないが、とてつもない化け物らしいぞ。もっとも、そんなもんに出くわしたらリリィもどうにもならねぇがな」
神獣?
聞いたことはない……。
幻のポケ◯ンみたいなものだろうか?
いずれにしても化け物みたいなのが、外ではウヨウヨしているみたいだ,
「大丈夫です。このお店に迷惑はかけられませんから」
「そうかい? なんか心配だぜ。明日になったらその辺で死体になってるとか勘弁してくれよ? 夢見が悪りぃ〜からよ」
「もし大変だったら、遠慮にゃく戻ってくるにゃん。リリィが200ギルで護衛するにゃ!」
「その時は、よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
クナイジカのツノ付きステーキ。
とっても美味しかった。外はパリパリしていて歯応えが強めだが、芳醇な香りがしてクルの実のスパイスに凄く合う。噛めば噛むほど味が出て来てずっと噛んでいたくなる味だ。
「「ご馳走様でした」」
俺とシャルロットは手を合わせた。
「お会計お願いします」
「これはおまけだ。旅は長いからクナイジカジャーキーだ。日持ちするから持っていきな!」
おぉ……、タンパク質のおやつ!
ラッキーだ。
「ありがとうございます。また絶対きます!」
ポワールを後にした。
味もさる事ながら人柄がいい。
ぜひ宣伝したいものだ。
「おいしかったね〜!」
「ツノが意外と美味しかったよ」
「ツノって美味しいんだ?」
「旅からもどったらまた来よう」
「うん」
夕暮れ時になってきた。
日が暮れる前にこの先の森を抜けたい。
今日も野宿はしたくない。草原を抜けた先に森が潜んでいた。これはまた野宿コースか?
森の入り口に差し掛かった時──。
突如、大地が揺れた。
地震?
ドスンと大きい音がする。
この感じはトロルに似ている、魔物か?
ガサガサと森の木々が揺れる。
『んがぁぁぉぁぁぁぁ──ッ!』
──悲鳴? 雄叫び? 獣の様な、絶叫にも似た叫び声が聞こえた。叫び声の方を見ると木が大きく暴れているかのように揺れている。
「い──やぁぁぁぁぁー!!」
「!?」
「えっ、何?」
シャルロットが背中に隠れる。
茂みから凄く太ったゴブリンが飛び出してきた!
【320,060/7,850】
か、カロリー30万越え!?
あの足音はこのゴブリンなのか? 確かに太っているけども……。
ゴブリンに驚いたシャルロットは、俺の背中でフライパンを構えていた。
また大きな足音が鳴り響く。
このゴブリンじゃない?
こちらに音が近づいてくる。
まだ、なにかいる?
太ったゴブリンは俺達の前でクルクル回っている。
「た、たすけてぇぇ──ッ、旅のおかた──!」
太ったゴブリンが助けを求めて走ってくる。
ゴ……、ゴブリンが喋った!?
「しゃべってるよ!?」
シャルロットも凄く驚いている。
そのうしろから大きなオークが木を薙ぎ倒して現れた。3メートルはあるだろうか、トロル程ではないものの威圧感や迫力は負けていない。
この太ったゴブリンを追いかけているらしい。
「あ? 人間だ!」
オークも喋った!?
「ひぃぃぃ──!!」
どうしよう……。
魔物とは言え助けを求められている。
オークは、まるでダンプカーの様に突進してくる。
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