第70話 神獣ツリー



 ◇◇エレインフィットネスジム2号店 アルスター城おかま支部◇◇

 

「ワン、トゥー、スリー、フォー……」


 ソロモン王は、バタフライマシンに座り大胸筋を鍛えていた。


「そうです! ソロモンさん。もう少し戻す時にゆっくり効かせて!」

 

 俺はソロモン王のトレーニングをコーチングしていた。

 

「あっはん、うっふん、いいわぁん、ヒクヒクしちゃうん」

 

 ソロモン王は、喘ぎながらバタフライマシンを開いたり、閉じたりしている。

 

「うるせーぞ、カマキング。気持ち悪い喘ぎ声やめるアル」

 

 ピチピチのレオタード姿で鼻をほじるメイメイが野次る。


 ◇◇◇バタフライマシン◇◇◇

 バタフライマシンとは、座席に座り左右にあるハンドルを握って胸の前で閉じて開く動作を繰り返して大胸筋を鍛えるための筋トレマシン。 使い方はすごくシンプルで簡単。

 筋トレを始めたばかりの人でもトレーニングしやすい。

 

 また、高重量のダンベル、バーベルを扱うフリーウェイトと違って怪我の心配もなく、疲れてしまって今日は軽めに! と言う時にも最適なのがマシンを使ったトレーニングだ。


そんなバタフライマシンで鍛えられる筋肉は──

大胸筋上部、大胸筋下部、大胸筋外側、大胸筋内側

僧帽筋だ。椅子の高さを調整する事によってピンポイントで各部位にアタックできる。

 

 バタフライマシンなら、腕の筋肉を使わないのでダイレクトに大胸筋を鍛えることができ、かつ誰でも簡単に使えるので筋トレの第一歩としておすすめだ。

 ──使い方

 マシンに深く座る

 背中を背もたれにつける

 息を吐きながら、両腕をゆっくりと閉じていく

真ん中まで閉じたら、そのまま1、2秒キープ。

息を吸いながら、大胸筋が完全に開くまでゆっくりと元に戻す

 目安としては10回で限界がくる重さに設定し、それを3セットを目指そう。


 注意点は、肩が前に出てしまった状態だと、三角筋前部が刺激されてしまうのでトレーニング中はしっかり肩甲骨を寄せて、胸を張ることを意識する事だ。

 ただ胸を張ることを意識するだけで、肩が前に出にくくなり大胸筋のトレーニング効果向上になる。

 ◇◇◇◇◇◇

 

「以上を持ちまして、魔王四天王ミノタウロスの迷宮城攻略とご報告させていただきます」

 

 同じくレオタード姿のサイモンが、これまでのミノタウロスとの経緯を報告していた。

 

「なにそれぇい、面白いじゃない!? でも、あのミノタウロスちゃんが本当に条約なんて結んだのん?」


 HANZOでの激闘の結果は、俺とミノタウロスの同時ゴールに終わった。

 結果から言うと──、ミノタウロスはその後。


「好敵手よ……いや、アニキと呼ばしてくれ」


 と、なんだかよくわからないがミノタウロスと俺は兄弟分になり、アルスター王国との友好の条約を結んだ。

 そして城のマグマや攻撃的な設備や罠を撤去して、HANZOを改良し、原型を残した上でエレインフィットネスジム記念すべき4号店の迷宮城支部となった。

 

 ディズルの森に続く魔物が運営する2つ目のジムだ。

 独自に筋トレを開発していただけあって、ミノタウロスは物凄い速さで筋トレの基礎から応用まであっという間にマスターをした。

 魔物達の人数も技術も十分だったために、筋トレ器具なども簡単に揃ってしまった。


 HANZOと言うアトラクションは、このジム独自の名物になるだろう。

 そそり立つ巨人やタックルなどは、SASUKEのそそり立つ壁などに変えていって、人権ならぬ魔物権費のかからない物に作り替えた。

 設備面に置いては他店よりも圧倒的な質量だ。


「はッ! もともとミノタウロス様は魔王軍の中でもはぐれものの異端者だ。そもそも魔族ですらねぇし、魔王様の血の恩恵すら授かってねぇし、天性の肉体による強さだ。他の四天王にすら煙たがられている爪弾き者よ。そこがイカすんだけどな。だから魔物と同じと思わなくていい。ミノタウロス様は裏切りが大嫌いな信用におけるお方だ」

 

 声のする隣の台にはレオタード姿のゲシムが、座っていた。

 ゲシム曰く、魔王軍も一枚岩とはいかず、今の魔王四天王は仲が悪く小競り合いが絶えないそうだ。

 中でも、四天王新参で魔族ですらないミノタウロスは四天王の中でも際立って嫌われているらしい。

 しかしミノタウロスの実力は本物で他の四天王ですらちょっかいが出せないで爪を噛む日々らしい。


「ところでエレインさんよ。本当にこんなんでメイメイぶっ飛ばせるようになるのか!?」

 

「女の子に対してそんな事は言っちゃいけないよ。でも、それとは別で筋トレは今日の自分より強くなれるのは間違いない」


 メイメイの探し人だったゲシムは、秦国まで俺達との旅に同行する事になった。

 と言うより、メイメイが引きずり回して無理矢理連れて歩いている。


「はい! ジンちゃん30秒過ぎたよ、あと半分だよ」

「──むむむ」

 

 その後ろではシャルロットとジンが、バランスボールならぬ、スライムボールを使った体幹トレーニングをしている。もう2人はすっかり一心同体といった感じだ。


「ふぅ──いい汗かいたわ〜ん。ねぇ、おねぇ様」

 ジュリアス将軍が現れた。

 

「今回の活躍は迷宮城の攻略は本当に助かったわ〜ん。これでゆっくりカサノヴァと向き合えるわねん、ちゅーしてあげるわ」


「いや、大丈夫です……」


「カサノヴァだ〜? あそこはラプラスの管轄だったな……」

 ゲシムが言った。

「ラプラス……」

 珍しくソロモン王が怪訝な顔をした。

「あら、おねぇ様……どうかして?」

「いやん。ちょっとした腐れ縁よん。気にしないでぇん」


 いつも陽気なソロモン王が、珍しく厳しい顔をした……。

 腐れ縁か──、なんかただならない感じがする。


「あ、そういえばエレインちゃん」

「なんですか?」

「ソロモン神殿に埋めた神獣ちゃん、あるじゃない?」

「どうかしました?」

「何やらものの数日でねん……、ものすっごく硬くて、太くて、黒くて立派になって見たこともない実が生えたわよん。あとで見ていってちょうだい」

「えぇ、分かりました」


 実?

 なんだろう?


「とりあえずエレちゃん、街でも行ってなんか食うアル」

 メイメイがお腹を摩りながら言った。

「そろそろ、お腹すいたね」

「それじゃあ、お城でお食事を作らせるわねん」

「いえ、今回は街で食べたいと思うので僕達は街に行きますね」


 アルスター大陸についてからアクシデントとイベント続きで、この城下町を全然満喫していない。

 せっかくの旅だ。

 街を見て回ろう。




 そして俺達は、アルスター王国の城下町に繰り出した。


「いらっしゃい、砂漠のオアシス食堂はどうだい!」

「砂漠ナッツミルクおいしいよ〜」

「ほら、にいちゃん達、砂嵐を防ぐゴーグル付きフードいらんかい?」


 さすがソロモン王の政治の行き届いた街だ。

 城下町のみんなの顔はイキイキとしている。

 ひったくりや喧嘩なんかも見当たらない。

 犯罪なんかしようもんならソロモンオカマ警察達がすぐさま取り締まる。誰もが安心した生活を営んでいるように見える。

 何よりソロモン王の膨大な魔力によって街中が、涼しく快適だ。


「アルスター名物、砂漠料理の大サソリと羊のナッツミルク煮込みはいかが〜!!」


 ターバンを巻いた女性の客引きがそう叫んだ。

 アルスター名物か……。

 サソリなんて食べた事ないな。

 俺は店を覗いてみた。


 大サソリの切り身100グラム。

【521/72】

  


 おぉ! グラムの切り身でこのタンパク質とは!

 何よりこのナッツミルクっていう白い液体は、ココナッツみたいなものかな?

 匂いが甘くて美味しそうだ。


 ココナッツミルクは脂質が高いのが特徴だけど、実は脂肪と言ってもその正体は中鎖脂肪酸が主体。

 消化・吸収・分解が非常にスムーズなため、エネルギーになりやすいことが特徴。

しかも、脂肪燃焼効果もバツグン。さらに食欲抑制効果も期待できて食べ過ぎを抑制する。

エネルギーが必要な、スポーツをしている人や、疲れやすい人におすすめなフードだ。


「美味しそうだね。みんなこれにしない?」

「メイメイはなんでもいいアル。腹減った」

「いい匂いー!!」

 シャルロットとジンが匂い嗅ぐ。

「アルスターの名物だね。ぜひエレインくんもリヴァイアサンもシャルロットくんも食べていくといいよ。大サソリのナッツミルク煮込みは絶品だよ。僕も大好きさ」

 ジンが言った。

「俺は、なんでもいいぜ」

 ゲシムも文句ないようだ。


 俺達はテーブルにつき料理を注文した。

 街並みをゆっくり眺めるのはこれがはじめてだ。

 良く見るとこの街は行商人が多いな。

 ナッツミルクの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


「これからどうするんだい?」


 今後の行き先やプランについて口火を切ったのはジンだった。


「とくに決めていないけども、目的は筋トレ布教の旅だから、カサノヴァに行ってみるのもいいかもね」

 

「せっかくだし寄ってみるてもいいアルな。くそみたいな街だったら、とっとと秦国に行けばいいネ」


「私はエレインが行くところならどこでもいいよ」


「異論はねぇよ……、だけどラプラスの管轄だ。気を引き締めていかねーとな」

 とゲシムが言った。


 ラプラスって……なんだろ?


「はぁ? ラプラスも知らねーの?」


「ラプラスは何百年も生きる初代魔王四天王さ。もともと魔王の右腕ともされているダークエルフだ。残虐で冷徹で不死でもある、死んでも輪廻を繰り返す。事実上の不老不死だね」

 ジンが説明してくれた。


 へー、なんか揉めたら厄介そうな……。


「まぁ、でもあいつの管轄は各大陸にたくさんある。こんなくそ暑いアルスターになんかほとんど姿をあらわさねぇだろう。何せワガママな奴だ」


「お待ちどうさま。当店自慢の大サソリと羊のナッツミルク煮込みだよ〜」

 店員が皿を運んできた。


 うわぁー!

 美味そう!


「とりあえず飯アル!」

「うん!」

「「「いっただきます!」」」


 俺達は料理にかぶりついた。

 ナッツミルクの香りに甘過ぎないわずかな甘みがぷりぷりのサソリの肉に染み込んでいる。

 外側は歯応えを感じる硬さなのに、中はぷりっとしたフワフワな肉。


「う、ままま! まが3つです!」

 あまりの美味さに俺は叫んだ。


 何より、このタンパク質量。そしてナッツミルクの吸収力をフューチャーリングさせた砂漠史上の最高料理だ。

 うますぎる〜。


 プロテインのないこの世界にこんな最高の料理があるなんて!!

 是非とも筋トレ後に食べたい。

 みんなすっかりこのスーパーフードに夢中だ。


「「「ご馳走様でした!」」」


「美味かったアルな〜」

「美味しかったね〜」

「ふぅ〜食ったぜ」


 そう言えばソロモン神殿の実を見るんだったな。行ってみるか……。


「僕は、ちょっとソロモン王が言ってた実を見てくるから皆んな適当に街で遊んできなよ」


 そう言って俺は1人で神殿に向かった。


 神殿に着いて神獣を埋めた場所に行くと、確かに3メートルくらいの黒くて太い木になっていた。

 神獣ツリー……、何より驚いたのはその実だ。


「な、なんだこのタンパク質量は!?」


 その得体の知れない実は驚くほど大きなタンパク質量をしていた。

 しかもサイズは手のひらより、ずっと小さいみかんのようなサイズ感だ。


 謎の実

【10/200】


 なんだこの実!?

 たったの10カロリーでタンパク質が200?

 もしかしてこれは……、使えるかもしれない……。

 

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