第71話 不覚!?取り憑かれたエレイン
タンパク質量の高い木の実。
俺はそれを1つもぎ取ってみた。
観察をしてみると、手触りはタンパク質が多いだけあって、弾力のある硬さで水気がない。
外側の皮の色は白く、ピンボールほどの大きさだ。
見た事がない……。
これはなんだ?
毒は……ないのかな?
恐る恐る、人かじりをしてみる。
ガリっとした食感が歯応えとなり口の中でガリガリと鳴る。匂いがほのかにココナッツのような甘い香りがフワッとゆっくり広がっていく。
上手くはない……。
水分がほとんどないからパサパサするな〜。
毒があるかもしれない。15分ほど待ってみるか……。
15経過。
体に異常は特に見慣れない。
タンパク質が高いこの木の実を料理などに混ぜるのもいいか?
ん、待てよ……。
この実を粉々に砕いたら、もしかして〝あれ〟になるんじゃないか?
俺はかじったその実を天日干しにした。
水分はもともと薄いし、何よりここは砂漠だ。一日干しておけば、すっかり干物になるだろう。
さて、街に戻るか。
俺はソロモン神殿から街に降りた。
「うわッ、やべー!」
「おい、誰か動かしてんだろ!?」
「俺は動かしてないって!」
「俺も」
「お、俺も……」
「こ、これまじで動いてんじゃん!」
石壁で出来た中東風の街並みに、子供達が群れ成して地面に向かって騒いでいた。
なんだろうか?
子供達に近づいた。
「ねぇ、君達なにをしているのかな?」
「あっ! 筋肉王さん!」
「エレイン様だー!」
「エレイン様が俺たちに声をかけてくれたぞー!」
「わーい!」
子供が俺の周りに集まってきた。
神獣討伐後、新聞や雑誌などで、このアルスターでは、すっかり名前が知られている。子供達も俺を慕ってくれていてエレインフィットネスジム・アルスター城下町店ではキッズクラスも始まったらしい。
なんでもゲイ卓の騎士のアゴヒゲヴェインさんが、教えてるみたいだ。
少し困るのが、彼らの影響で子供達の気合いが「うっふ〜ん」とか「あっは〜ん」になっていくところが気になってしまう。
「これは、なんだい?」
地面の上の石板に4人の子供達が、アルスター銅貨を指先に置いていた。石板には言葉と数字がビッシリ彫られている。その4人の子供達の顔は青ざめていた。
「これはソウルボードと言います」
子供達の1人がそう教えてくれた。
「ソウルボード……?」
「降霊術です。こうやって(異界の魂さま魂さま、ここに舞い降り私達に道をお示し下さい)とお願いすると異界のソウル様が道を指し示してくれます!」
「へー、なるほどね」
つまり、この世界のコックリさんみたいな物だね。
凄いなー、ここが具体的にどの紀元なのか未だにわかっていないけど、少なくとも今よりずっとハイテクだった前世の文化も同じような事をしていた。
いつの時代も同じ様な遊びの形式は、重なっているものだね。感銘深い。
「だけど、稀に悪魔が舞い降りてくる事もあるらしいですよ?」
「それは物騒だね。悪魔が来たらどうなっちゃうんだい?」
「呪い殺されたり、取り込まれたりするみたいです」
「まぁ、迷信ですよ。悪魔が来たことは一度もないです」
「そうなんだ」
「エレイン様もやってみませんか?」
「わー、俺もエレインさんとやってみたい!」
「私も」
「あたしも」
「アハハハ、いいよ。やろうか、ここに指を乗せればいいのかな?」
俺はそう言って指先を銅貨の上に乗せた。
「じゃあ、始めますね」
「いいよ」
俺の返事と共に、子供達が深呼吸をした。
「「「異界の魂様、魂様、ここに舞い降り私達に道を指し示しください」」」
そう言うと、指先のコインがスーと「はい」のところに動く。
またまた〜、誰かが動かしているんでしょ?
だいたい同じパターンだな。
「動いた!」
「ねっ!」
「ソウル様が来た!」
子供達はおおはしゃぎだ。
「何聞く?」
「う〜ん」
「エレイン様は、何かないんですか?」
女の子の1人が俺に聞く。
う〜ん。ここは1つ……。
もし俺1人だけが知っているような事を聞いても子供達が答えられないだろうから……。
何を聞いてあげようかな?
この世で一番のタンパク質の食材は? と聞いたら絶対、この子達答えられないし……。
ここは下手に「いつ結婚しますか?」とかにしといてあげようか。
「じゃあ、僕はいつ結婚できるかな?」
「えー、絶対シャルロット様ですよね?」
「え? メイメイ様だと思ってました!」
おい、おい、メイメイとかないだろ……。
この子達からは、そう思われているのか。
思わず苦笑いをする。
「「「エレイン様はいつ結婚しますか」」」
みんなでソウル様とやらに聞いてくれた。
スーとコインが動き出す。
「お」
「し」
「え」
「て」
「あ」
「げ」
「な」
「い」
「ば」
「か」
ん? んん?
教えてあげない馬鹿?
ちょっと、ちょっと酷すぎませんかそれ……。
そう思った瞬間、指先のコインが凄まじい速さで不規則に激しく動き出した。
「うわッ」
「キャ──」
子供達が悲鳴をあげる。
「うわぁぁぁぁ──」
取り巻きだった子供達が一目散に逃げ出した。
「どうしたんだい?」
この慌てよう……。演技とは思えないぞ。
指先の銅貨はデタラメに解読不能な文字を指し示す。
「や、やだ。何これ……」
子供達の顔が真っ青だ。
やっぱり、演技じゃない?
この子達のドン引きしている表情を見れば演技ややらせといった類じゃないことがよくわかる。
「「「うわぁぁぁ──」」」
一緒にプレイしていた3人の子供達も、悲鳴をあげながら指を離して逃げ出してしまった。
俺の指しか乗っていないのに、コインが勝手に動き続けている。
こ、これは……。
まじもんだ!!
まじのコックリさんじゃないか!?
うっわ、どうしよう。どうやって終わればいいんだ?
予想だにしなかった展開に頭がパニックになる。
そして──
指が銅貨から離れない!?
指先の銅貨が再び規則的に文字列を指し始めた。
「は」
「じ」
「め」
「ま」
「し」
「て」
「ば」
「か」
「や」
「ろ」
「う」
はじめまして馬鹿やろうだと?
なんて失礼なコックリさんだ。
「そ」
「の」
「か」
「ら」
「だ」
「は」
「い」
「た」
「だ」
「く」
「ぞ」
その体は頂くぞ?
なんだって?
どういう意味だ?
そう思った瞬間、首筋からスーと冷たい冷気が体の中に入ってきた感覚を感じた。
しまった!?
取り憑かれた!?
あ……。
視界がボーとしてきて、意識が遠くなっていく……。
◇◇◇◇◇◇
「ふはっはっはっはっはっ! 素晴らしい! 素晴らしい体を手に入れてたぞ!」
俺は高々に大声で笑った。
「何せ、200年ぶりの肉体だ!」
俺が取り憑いたこの体には、驚いた。
隅々まで鍛えぬかれた鋼の肉体。
溢れ出てくる信じられないパワー。
こいつ……本当に人間か?
今日はなんて素晴らしい日だ。
この体があればこのアルスターを滅ぼすことだって夢じゃない!!
素晴らしい肉体だ!
「魔王軍幹部……伝説のゴースト、サタナキヤ・デビルここに推参ッ! フハッフハハハハハハハハ!」
この体があればソロモンどころか、ミノタウロス……貴様を殺して魔王四天王に上り詰められるぞ!!
待っていろよ、ソロモン……まずは貴様からだ。
ふはははははははは!!
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