第35話ーシャルロット奮闘記 私がんばるよ!編





「──骨はもうついていますね。あー歯茎と歯が食いしばりすぎてボロボロですねー。これは顎の骨も相当なダメージでしょう……、よくもまぁこんな人間離れした精神力をお持ちで──」


「──今日でまる3日目ネ、本当にエレちゃん死んでないアルな?」


「大丈夫ですよ保証いたします。僕も10賢者の端くれです。その中でも回復魔法と医術のみしかできないですが、その分特化しています。回復に関してだけは、ソロモン王と肩を並べられると自負しています」レザードは胸を張りそう言った。


「10賢者でもアンポンタンでもなんでいいネ。とにかく治ればいいアル」


「あははは──メイメイさんはいつも酷いですね……、あとついでに口周りも治してしまいましょう──ヒール」レザードさんは手のひらをエレインの顔に向けて魔法を唱えた。(私も魔法が使えたらな……)こんな時ほど少し惨めに思えてしまう。


「──あとは目を覚ますかどうかは疲労の問題なので心配しないで大丈夫です。あれだけ壮絶な戦いだったのです。きっと1週間は目を覚さないかもしれません。その場合は直接体に栄養を注入しますので心配なさらないでください。シャルロットさんも少しは休んで下さい。もう大丈夫ですから──」そう言ってレザードさんドア前でお辞儀をした。


「ありがとうございました」私は心から感謝をしてレザードさんにお辞儀をした。


「それじゃ──」レザードさんは子供の様な笑顔を見せて部屋を出ていった。


 壮絶だった刹那の獅子との激戦から3日──エレインの意識はまだ戻っていません。私はレザードさんを信用しています。なので、そこまで心配はしていません。──ただ少しだけ寂しいのです。わがままなのかな? エレインの笑顔が見たいです。エレインの筋トレをしている真剣な顔が見たいです。きっとエレインはまだあの刹那の獅子を倒した事を知らないかもしれません。早く教えて上げたいですね。


 【神獣討伐! オディナから現れた英雄 怪力で獅子の首を捩じ伏せる!】すぐにこの見出しでアルスター中に号外が配られました。

 瞬く間にエレインは時の人になりました。アルスター城の門前は一目だけでもエレインを見たいと毎日、人集りができています。きっとオディナ大陸にもあと2、3日もしたらこのニュースが届くでしょう。シエーナ街の大好きな皆さんやルイーダさんやスヴェン、私のパパ、ママ、同級生の皆にもこの大ニュースが届くと思うと胸が熱くなりますね、感銘深いです。──きっと、この世紀の大スクープはゴブタさん達、ディズルの森にも届くと思います。ジレンさん達、勇者様一行にも届くといいなぁ〜。


「──エレイン、かっこよかったぞッ」私は人差し指でエレインの鼻をちょっとだけツンと突きました。


「かっこよかったアルな」メイちゃんは私の真似をしたのかな? ピースの形にした人差し指と中指をエレインの鼻の穴に入れてました……。

 コンコンとドアをノックする音が聞こえてきました。誰かが訪ねてきたようです。


「──はい」私は返事をしました。


「あたしよん! 入っていいかしら?」


 このお城の方達は、ソロモン様然り、ジュリアンさん然り、ゲイ卓の騎士様達然り、みなさん甲高い作り声で正直顔を見ないと同じような声で誰だか判別が難しいのです、きっとクイズにしたら面白いかもしれまんせね。ゲイさんとアウラさんだけは地声でも可愛い声なのでわかりやすいのですが──。


「どうぞ!」そう言うとドアを開けてソロモン様が入ってきました。声の正体はソロモン様でした! 正解です! ぴんぽーん


「──まだ目覚めないのね、キズはもう大丈夫そうね。さすがはレザードちゃんパーフェクトな処置だわ」


「大変感謝しています。いつもありがとうございます」私はソロモン様に感謝の意を示してお辞儀をしました。


「──困ったワネァん、早く目覚めてくれないかしらー?」


「えぇーと、ミノタウロスの討伐の件でしょうか?」


「うふん──違うわよん。そっちは別に急いでないの、ほら、エレインちゃんの大活躍を聞いて城中のおかま達と街中の民のボーイズアンドガールズアンドおかま達が筋トレをしたいなんて言い出しちゃって皆いまかいまかとエレインちゃんの濃厚接触コーチングして欲しいって大騒ぎなのよん」


(の、濃厚接触コーチングですか……)


「ほら、エレインちゃん確かフィットネスジム? だったからしら? 世界中にそれを作るの夢だって言ってたじゃない?」


「はい! エレインの夢です。私の夢でもあります」


「だから試しに興味ある人を募ったらとんでもない人数が希望したのよ〜。もう〜エレインちゃんたら、すっごい人気なの! あたしより英雄よねーん」


「──そんなにやりたがる人がいたなんて……とても嬉しいですね! きっとエレイン喜びますね!」


「ウフフ、それでね。あんまり多いものだからお城の外と街の中にそのフィットネスジム作っちゃいましたー! 筋トレ器具? あれはこの部屋でエレインちゃんが使っていた物を大量の複製したわん」ソロモン様はウィンクしました。


「──あ、ありがとうございます! 嬉しいです。エレインもきっと大喜びですよ!」


「でも、その肝心なエレインちゃんが昏睡状態だから皆、待ちくたびれしまってるのだわん。ほら、ケツは熱いうちに叩けって言うじゃない?」


(鉄は熱いうちに打ての事でしょうか?)


「──ん? あらん、よく見るとシャルちゃん、あなたとてもエロいスタイルしてるわね」ソロモン様はマジマジと私の全身を下から上までじっくりと見てきます。なんだかとても恥ずかしいです……。


「──そ、そうでしょうか? きっとエレインに教えてもらった数々の筋トレのおかげですね……」


「──キュッと引き締まった二の腕、シュッとスリム綺麗な長い足……、ギューンとくびれたウエスト! ぷりんとハリのあるお尻!! いいわぁん、とても焼けちゃう、ちょー素敵!!」そう言ってソロモン様は私のシャツを少しめくり上げました。私は「きゃッ」と一声あげました。セクハラです……。


「うっすらと縦に筋が見えるお腹の筋肉!! エロいわん、あたしもこんなボディーになりたい! お顔もシャルちゃんみたいに小さくなるかしら?」


「か、顔はちょっと聞いた事がないですね……」


「そうだわん!」パンッと両手を叩いてソロモン様は何かを閃いた素振りを見せました。

「シャルちゃんがいるじゃない!!」顔を近づけてソロモン様は言いました。


「え?」私は疑問の声を漏らしました。そしてとてもソロモン様の顔が近いのです……。


「ふふん、シャルちゃん! あなたエレインちゃんの代わりにコーチングしてみない?」


「えぇぇぇ──!?」


「大丈夫よん、エレインちゃんの側にずっといた上、トレーニング方法も教えてもらってたんじゃない? それにフィアンセのシャルちゃんならみんな納得よん!」


「フィ!? フィアンセだなんて……ち、違いますよ。(そうだったらいいなぁ〜)」私は顔が凄く熱くなりました。自分でも、真っ赤になってるのがわかります。それを意識すると尚のこと凄く恥ずかしいです。


「そうアル、エレちゃんのフィアンセはメイメイね」


「それは違うわ」とっさにに否定の言葉が、出てしまいました。


「どうかしら? まずはお城のジムにてお試しでやってみない? うまく行ったら街のフィットネスジムでも教えてみるのはどう? いやになったらいつでもやめていいわ! それにエレインちゃんも喜ぶと思うわよん?」


 私は今とっても悩んでいます。正直これまで生きてきた中で人前で中かをすると言った事は皆無でしたのでこの申し出を引き受ける力量はないと思います。──ただ、これまでずっとエレインに守れてきたばかりでいつも力になれない自分が残念で仕方ありません。役に立つなら今まさにそうじゃないシャルロット!? と、心の中の私が叫んでいます。そうですね、いま役に立てなきゃいつ役に立つの!? そうですね──恥ずかしいけども、心もとないけども──私の私なりの恩返し──もちろんこんな事で返せるなんて思っていませんけども、それよりも私が私なりに出来る事をやるという事にきっと意味がある! エレインならきっとそう言ってくれますね。──エレイン、私がんばるね!


「──私、やってみます!」

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