第10話 超ド級キング・トロル
次の日も俺達は、東の森にゴーストを探しに出かけた。今度はもう少し奥深くに行く為に準備をしっかりして早朝に出かけた。
「トリタウロスがいるぞ!」
スヴェンがトリタウロスを指差した。
──トリタウロス。
顔が鳥で体が牛。その体は太く色は馬のような毛色をしている。この世界では食用でトリタウロスが飼育されたり、商業的にも高値で取引されている。
高級食材とされ、魔物というより牛みたいなものでとても美味しい。
【100,100/50,200】
油もタンパク質もいい感じじゃないか!
「これは上玉だぞ!」
俺もトリタウロスを指差して言った。
「やろう!」
「了解ッ」
俺とスヴェンは駆け出した。一斉に攻撃を仕掛けようとしたが意外と気性が荒い。
トリタウロスはこっちに向かって突進してくる。
「まかせてッ!」
俺はトリタウロスと真っ向から相撲を取るために突っ込んだ。
「んもォォォー」
トリタウロスは鳴き声をあげながら体をぶつけてきた。
「はぁー!」
トリタウロス嘴を抑え、体ごと力で押し返した。
このまま潰しても構わないが味の鮮度が落ちてしまう。それでは勿体ない。
「──スヴェン。今だッ!」
「おーけー!」
【ファイヤソード】
スヴェンの剣に火柱が立ち炎が宿る。炎が音を立てて唸る。
スヴェンは横からトリタウロスの胴を斬った。
焼け焦げる臭いが漂う。その刀傷は一瞬で焼き焦げて血を出さない。
トリタウロスはその場で真っ二つになり、悲鳴をあげて倒れた。
「「「イェーイ!」」」
俺達3人は手を合わせハイタッチをした。
「よっしッ!」
「キャンプだキャンプだ!」
「あそこに座れそうな切り株があるよー」
いつも通り調理をするために俺達はキャンプを始めた。
シャルロットが枝や木を集めて来た。
【ファイア】
スヴェンがその枝や木に魔法で火を付けて焚き火が始まった。
「今日はご馳走だ〜」
「美味しそうだね」
シャルロットが短剣でトリタウロスの肉を薄切りにする。
「いい油のノリ具合だねー」
シャルロットの装備は少し変わっている。
通りがる冒険者達が2度見をする。
だって彼女は盾でも杖でも剣でもなく、調理のための大きなフライパンを背中に装備している。短剣も包丁の代用だ。
時には、フライパンで身を守る。調理にも防具にも使用可能とは、フライパンの意外な一面を転生をして知った。
薄切りにしたトリタウロスの肉をフライパンの上に敷いた。肉汁が溢れ出してジューっと焼ける音と共に濃厚な肉の香りが漂う。
パチパチと肉汁が油の変わりになり、それがまた食欲を誘う。
ヨダレが……。
「くぅ〜たまらんッ!」
「わぁ──!」
「「「いっただきます!」」」
半生の肉にかぶりついた瞬間にジュワーと肉汁が口いっぱい噴水の如く溢れだす。
「うまッ!」
舌の上をトリタウロスの風味が転がる。噛んだら和らく、口の中で肉がとろけていく。
体にタンパク質が染み渡る。
あー、なんて幸せなんだ……。
「「「ごちそうさまでした」」」
「ありがとう」
シャルロットはトリタウロスのホネに手を合わせお辞儀をした。
全部は食べきれない。部位事に切り分けてそれぞれの家族に持ち帰ろう。
ルイーダもきっと喜ぶだろう。
「はぁ〜、うまかったね! 帰ろうか」
「ちょっとエレイン!」
スヴェンが呆れた顔をした。
「俺たちは何しにここに来たんだい?」
「あッ!」
そうだ。ゴーストを探していたのだった。
「さぁ、あっちを探そう」
トリタウロスのあまりの美味さに目的を忘れていた。
それからまだ探していなかった森の北西に足を向けた。この場所には道がない。商業的にも使い道がないので人がほとんど通る事がない。だから緑が生い茂り、獣道だ。
「あれ、ナガレさんじゃんないか?」
スヴェンが、前方の人影を指差した。
そこには黒いローブに身を包み、弓を持ったナガレがいた。
「何か探してる?」
「困っているのかな?」
終始、周りをキョロキョロと探している様子だった。
「こんにちわ〜、ナガレさん!」
俺達はナガレに近づいて挨拶をした。
「──ん?」
ナガレは振り向き、驚いた顔をした。
「君達は昨日の!? また来たのかい?」
「「「はいッ!」」」
「どうしてもゴーストが見たくて!」
スヴェンはイタズラっぽく言った。
「見てもいい事はないと思うけどね」
ナガレは苦笑いをし、その後にため息を吐いた。
「ん?」
地鳴りが聞こえる。
皆が辺りを見渡す。
「なんだ?」
大きな音ともに規則的な地響きがなる。その音共に木が倒れる。
「ンモォォォーッ!」
トリタウロスの群れが鳴き声をあげてこちらに駆けてくる。
「トリタウロスの群れ?」
俺達を避けて過ぎ去って行った。
いや………、うしろから何かくる!?
規則的な地響きが続いている。どんどんテンポ上げて早くなる。木がまた1つ1つ倒れて音が次第に大きくなり近づいてきた。
『────ットロルだッ!』
一同が警戒し、構えた。
地震のように大地を揺らしてこちらに向かってくる。
あの距離からこっちを狙ってきてるのか!?
あんな遠くからこちらを察知するだと!?
「トロルって感知能力みたいなものを持ってるのかい?」
俺はスヴェンに尋ねた。
「いや、そんな能力は聞いた事がないッ」
「何故、あそこから僕達の居場所がわかるんだ?」
「俺にもわからない!」
「怖いよぉー」
シャルロットが俺の袖にしがみつく。
昨日、遭遇したトロルは明らかに出会い頭で偶然だった。しかし、今日の個体は明らかに俺達を狙って来ている。
「く、来るよ!」
「で、でかい!」
「うぅ……」
目の前の木を薙ぎ倒し現れたトロルは一眼でわかるほどに普通のトロルではなかった。
【805,000/302,000】
タンパク質量30万超えだと!?
そのトロルは人間の装備を全身に施していた。今まで殺した冒険者から剥ぎ取ったものだろう。
ただの魔物ではない。知性を身につけている。
棍棒をもち鎧で体を固めて、左手には小さな盾をもっている。
そして大きい。10メートルは有に超える巨体。
「キ、キングトロルだとッ!?」
「きゃぁぁぁぁ──!」
A級以上に認定される魔物だ。
【トロルの王】桁外れなタンパク質量。冒険者から奪い取った装備の量。
どうする?
「君達は下がりなさい」
ナガレが俺達の前に出た。
「1人では危険です」
「一緒に戦いましょう」
俺達もナガレの両サイドに立つ。
「私はあれをずっと探していた!」
まさか……!? あれがアリス!?
俺は困惑した。
ナガレが弓を構えて走り出す。
早いッ、普通の速度じゃない。
止まる事なく弓を放つ。狩人ってレベルじゃないぞ。この男は何者なんだ?
しかし放った弓はことごとく盾や鎧で弾かれた。
「チッ!」
キングトロルは棍棒を振り回まし、周囲の木々を巻き込み薙ぎ倒していく。
「俺達も加勢するぞ」
「おーけー!」
ナガレが避けたタイミングで後ろから入れ替わる様にスヴェンが素早く斬りかかる。
「二刀流、地走りッ!」
下から剣を斜めに振り上げ斬りつける。
「──からの、雷風!」
更に剣撃の返し側に下へ振り斬る2連技に雷が走る。
「ガァァァ──ッ」
痺れて不快そうに暴れる。
「発ッ!」
すかさずナガレが弓を連射した。
鎧のつぎはぎめに刺さる。
「グォォォー!」
トロルに会心の一撃が刺さった。
「ナイス!」
スヴェンは素早い動きで裏手に回り込む。
「そいつは麻痺毒だ!」
ナガレがスヴェンに叫んだ。
「あの盾が、邪魔だッ」
スヴェンと目が合う。
「僕が盾をなんとかする!」
期待に応えよう。エレイン行きますッ!
俺は盾に向かって走った。
トロルが瞬時に反応をして盾で俺を殴り潰そうと向かえ打つ。
「「エレインッ!」」
「エレインくんッ!」
これくらい大丈夫さ。ミケランジェロもびっくりの俺の彫刻ボディを舐めるなよ!
「──ふん!」
俺は盾を真っ向から受ける。
俺にダメージを与えたと思い込んだキングトロルがニヤけた。
『パワーァァァ!』
中◯筋にくん風に叫び声をあげて盾をもぎ取ろうと引っ張る。
「ギャオオオオオオー」
負けじとトロルも引っ張り返す。
「キングトロルと力で張り合ってはダメだ!」
ナガレは俺に叫んだ。
しかし、俺は心配を他所に盾をもぎ取った。
「こんな事があって言い訳がないッ!」
さっきとは打って変わってナガレがドン引きしている。
キングトロルは盾を盗られて怯んだ。
一瞬の隙ができた。
俺はその瞬間を見逃さなかった。
チャンスだ。絶好のタイミング!
「ヤァァァァァァー!」
雄叫びを上げて俺は中◯筋にくん風にガッツポーズをとり、怯むキングトロルに上腕二頭筋を見せつけた。(意味はない)
3人がズッコけた。
「ったく──」
スヴェンは瞬時に立ち上がり攻撃に転じた。
「二刀流、風神烈華ァッ!」
スヴェンは、ぐるぐる回りながら足元から頭までタツマキのように登りながら斬撃を放った。
顔まで駆け上がると同時にキングトロルの首が切り飛ばされた。
「お見事!」
ナガレが、ひと言添えたと同時に首が地面に落ちた。
「「「いぇーい!」」」
いつものハイタッチ。
「さすがは、スヴェン」
「たまには俺も見せ場を作らないとね」
照れ臭そうに鼻を擦るスヴェン。
「し、信じられない」
ナガレは驚きながらトロルの遺体に駆けよった。
「君達のような子供がこれを倒すなんて……」
「このキングトロルを探していたんでしょ?」
「あぁ、私はずっとこいつの……」
そう言ってキングトロルの腹を裂いた。
血が吹き出しナガレが真っ赤に染まる。
「うぇ」
ナガレは裂いた腹に手を突っ込み臓器を漁り出した。
「イヤ……」
シャルロットがフライパンで顔を隠した。
「ん?」
その臓器の中からナガレは黒い宝石らしきものを取り出した。
「あった!」
取り出した物を確認し、安堵の表情を見せた。
「これをずっと探していたんだ」
2センチほどの小さな黒い宝石がついた金の指輪を俺達に見せた。
「これは、もらっていってもいいかい?」
「はい」
「僕達は別に何もいりません」
「俺達はゴーストが見たいだけですから」
スヴェンは剣の汚れを拭きながら言った。
「やめておいた方がいい。あれはこの世の物とは思えぬ程に危険だ」
この口ぶりは、やはりナガレは何かを知っている。
「いくら君達といえども危険すぎる。あれはゴーストではない」
「ゴーストではない?」
「それよりも恐ろしいものだよ」
「ところでその指輪には何か凄い価値でもあるんですか?」
「ただのブラックタイトの指輪だ。昔、大切な人に送ったものだ」
指輪の内側に名前が刻まれていてそれを俺たちに見せた。指輪には【Alice】と刻まれていた。
アリスってやっぱり、あのトロルではなかったか……、色んな意味でよかった。
「大切な宝石だ」
「(アリスさんって恋人かな?)」
シャルロット耳元で囁いた。
「恋人ではない。大切な人だった」
ナガレはシャルロットの声が聞こえたらしい。
シャルロットは少し顔赤てもじもじしていた。
「私は彼女の気持ちに気づいてやれなかった愚か者だ……」
何やら深い事情がありそうだ。
「このトロルを仕留めたのは君達のおかげだ。何かお礼がしたい。ここから少し先の家に寄っていかないか?」
「どうする?」
スヴェンが俺達に返事を促す。
「んー」
ゴーストの手がかりもないし、このまま帰るのもなんか後味が悪い。
「お言葉に甘えさせてもらおう」
俺達はナガレの家に行くことにした。
ナガレの家は人、細々と獣道をずっと進み深い森の中にあった。
「あれが私の家だ」
小さい家だが、とても綺麗に整地もされていて清潔感のある家だ。
「──お邪魔します」
「どうぞ、今お茶を出すよ」
ナガレはお茶の準備を始めた。
俺達はキョロキョロとナガレの家を見物していた。
なんだあの絵? 不気味だな。
壁には大きな絵が、かけてあった。
顔のない女性が燃えている。
いや、どちかと言うと辺り一面を女性が燃やしている絵なのか?
真っ黒の炎。燃えるというより浸食に近い。いずれにしても穏やかじゃない絵だ。
「お待たせ」
お茶と茶菓子がテーブルに並ぶ。
「これは?」
「これは謝礼だよ」
3つの腕輪のアクセサリーを渡されたに。
「「「え!?」」」
「そんな謝礼なんて結構ですよ」
「そうそう。俺達だって自分を守るために戦っただけです」
「謙遜しないでくれ」
返そうとする押し返してナガレは言った。
「私の気がすまない。これは魔法のダメージが上がる魔力の腕輪だ。王家に伝わるレア物だぞ」
「「「なんですって!?」」」
魔力があがるって!?
「え、え、え、わ!?」
慌てふためくシャルロットの腕に俺とスヴェンが3つの腕輪をつけた。
「え、え、え?」
「「よしッ」」
「はっはっはっはっ!」
ナガレがその様子を見て笑っていた。
左腕についた妖精の腕輪と今もらった右腕についた魔力の腕輪が3連。なんかちょっとしたら魔法使いに見える。
「エルフの君、モテモテだね」
「あ、ありがとうございます」
シャルロットの顔が真っ赤に染まる。
「ところでこれは、ドルイド伝説の【不滅の怪物】の絵ですか?」
スヴェンが壁にかけられて不気味な絵を指差した。
「あぁ不滅の怪物か……、可哀想な呼び名だね。私は愛の怪物と呼んでいる」
「愛の怪物?」
「あの伝承には誰も知らない続きがある──」
ナガレは俺達にその続きのも語りを語り聞かせてくれた。
不滅となった奴隷の女は王国を滅ぼし、次々とドルイドの民を皆殺しにした。愛したステラ王子だけを残し、他の全てを燃やし尽くしたのだ。
ドルイドは滅びた。
不滅の邪竜の血を飲んだ者はもう元には戻れない。 この世すべてを破壊するまでその身を喰らい体が滅びても、魂をも飲み込み殺戮と破壊を繰り返し彷徨い続けるのだ。
不浄の魂となった女を止めるすべはない。
その魂は邪竜にむさぼられ苦しみ続けなければならなかった。
ステラ王子は苦しみから彼女を救うために浄化の炎を纏う精霊にその身を捧げた。
精霊と契約する事により、体に精霊を宿し、半精霊の化身となり不死となった。
しかしその代償は重い。
その目的を果たした後、肉体と精神が滅びて精霊の者となる契約だ。
その代償はそれだけにはとどまらず、未来永劫、輪廻はない。
死の後に無となる契約だ。
不滅の怪物となった女を解放する為に王子は、今も女を探し2万年もの時を彷徨っていると言う。
2つの魂はずっとすれ違い続けて漂う。
そんな続きであった……。
俺達は話を聞いた後、帰宅する事にした。
「お邪魔しました」
「ありがとうございました」
「気を付けて帰るんだよ」
ドアノブを回し玄関を開けた。
生温い風が家の中に吹く。
外はまだ明るい筈なのに空気が暗く重い。
なんだ?
とても嫌な感じがする。
それはまるで嵐の前の静かな空。
心を掻き乱す不穏な影。
何かいるッ!?
「「「なんだ!?」」」
スヴェンは何かを感じ取り後退りをした。
前方に目を向けるとそこには真っ白な人型が立っていた。
一目でわかった。これは人間ではない。
目と口と鼻は真っ黒で形が歪。
ゆっくりと足音もなくスーと近いてくるたびに、人型は捻れたり、歪んだり、バラバラになったり、再生したりを繰り返して近づいてくる。
「あ…………」
恐怖で声が出ない。
ブツブツと何かを呟いている。
何を呟いているかわからない。
そう思った次の瞬間。
『ギョオェェェェ──!!』
ゾッとするような断末魔の叫び声を上げた。
まるで終末だ……。
その異様な光景は背筋が凍りついた。
人間の理解を超えている物体。生命の果て。
この世界に転生して初めて恐怖を感じた。
【0/0】はじめて見る数値。
「こ、こいつはゴーストだ」
「こ、こ、怖い……」
シャルロットは恐怖のあまりその場に座り込んだ。
人型は真っ黒な目から血の涙す。
『ヒュエェェゲアァァァァッアッアッアッァァァ!』
終始上げる断末魔からは狂気と憎悪が入り乱れている。そうしたかと思うと一変今度は小言をブツブツ話す。
「…………っ……ぃ? ……ぁ……ゃ……!◇☆」
ブツブツと小言からは絶望と悲しみのような感情を感じる。
「うーうーうーうー」
苦しみ出すとゴーストの周囲には真っ黒い炎が灯る。
炎? いや、深淵……、あの絵で見た物と同じ。
禍々しい魔力を感じる。
この空間だけ切り取られて世界と孤立したかのような錯覚に陥いる。
「あ……アリス……!?」
ナガレが気が触れたように俺達をかき分けゴーストに向かって駆け出す。
「や、やばいって」
金縛り? 止めにようにも体が動かない。
『イヤァァァァァァ──ッ』
女が断末魔と金切り声を上げた瞬間、真っ黒い炎がナガレを襲った。
「うあぁぁぁぁぁぁ!」
ナガレが黒炎に包まれのたうち回る。
「ナガレさんッ!」
状況が飲み込めない。
【癒しよ来れ、ヒール】
スヴェンがすかさず回復魔法を唱えた。
「大丈夫ですか!?」
「はぁ……はぁ……」
俺は今一度ゴーストを直視して観察した。
こいつの額……、角が生えている?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます