第39話 ディズルの森名物!? 鬼の追い込みコーチ!!





「──なんと!? スヴェンくんはエレインくんとシャルロットくんのご学友だったのですね!?」ヨーゼフさんが、とても嬉しそうに話す。


「えぇ、俺たちは仲良し3人組でいつも一緒にいましたよ。もちろん筋トレもエレイン達と毎日してました」


「それは──なんと羨ましい──、私はエレインくんに筋トレを教わる事なく別れてしまったのでね。噂を聞きつけこの聖地であるディズルの森に筋トレを学びにきたんですよ──あははは」


「──噂? この森がですか?」


「えぇ、筋トレの聖地ディズルの森!」


「筋トレの聖地? ちょっと待って下さい。何故エレインがそんなに有名なんです?」


「おや?」

 

「ゴブ?」


 ゴブタくんとヨーゼフさんは顔を見合わせて首を傾げた。そしてヨーゼフさんはポケットから紙を取り出し俺に手渡した。その紙を広げて見ると号外の文字が──、続く見出しに【神獣討伐! オディナから現れた英雄 怪力で獅子の首を捩じ伏せる!】の大きな文字。それに続いて「オディナ大陸、シエーナ街から遥々アルスター大陸に訪れた15歳の青年エレインと15歳の少女シャルロット 、彼らは20日神獣の中でも最も最強と謳われている刹那の獅子を討伐した。驚くべきは凄腕の剣士でも魔法使いでも武術家でもないエレイン・グランデさんは、剣でも魔法でもなく、その鍛えあげられた肉体のみで締め殺したのである」──と、続けられていた。


「──はぁッ!?」エレインが神獣を倒したって!? そんな馬鹿なぁ!? 驚きすぎて言葉が出ない。しかも締め殺したと? 恐るべき怪力漢……、もはや一周回って笑ってしまう。


「とんでもない化け物にゃ……、エレインが勇者でよかったんじゃにゃいか?」横から号外をマジマジと除き見たリリィは、ごもっともな事を呟いた。


「実はこのディズル森は──いや、見てもらった方が早いですね。行きましょう2人とも──」ヨーゼフさんは何やら意味深な事を言う。


「ん?」


「それじゃあ、里に案内するゴブよ、お2人ともついてきて下さいゴブ」俺たちはゴブタくんとヨーゼフさんについて行く事にした。


(それにしてもヨーゼフさん……、なぜ半裸なのだろう?)


 しばらく森の中を歩くとアーチ状の看板が見えた。まるで村や街の入り口のように装飾されていて【ディズルの森連盟】と書いてあるのが見える。


「──にゃ、まるで人間の里のようだにゃ!」


「石像?」看板の下には2人の人間を模様した石像が立っていた。片方は、学校の教科書なんかで見た事がある──勇ましい青年が剣を突き立てた石像──足元には【3代目勇者ギリアス】と書かれていた。そしてもう片方は──────、ん? んんん? 誰だ? モストマスキュラーのポージングをしている。足元には【ジェイソン◯ティサム】と書かれている。どう見てもエレインの作品だろう……。ゴブタくんとヨーゼフさんは2つの石像にお辞儀をしてから看板をくぐり抜けた。


(郷に入れば郷に従えだ)俺もリリィも同じようにお辞儀をして里に入った。


「──なッ!?」

「──にゃッ!?」


 凄い! 本当の人間の街の様にしっかりとした作りの家、石畳が広がっていて噴水まであり、ゴブリンとオーク達が賑わってお店を開いたりしていて1つの大きな街になっていた。商店街もあり、ゴブリンやオークもしっかりお店を出して働いていた。


「──アルミラージの骨つき肉はいかがっすかー」


「──クナイジカのだしの効いた鍋はどうだい?」


「──トリタウロスのステーキうまいゴブよー!!」


 里の中は、すごい賑わいだ。城下町さながらの活気に満ち溢れていた。そして──なにより──どまんなかに──【エレインフィットネスジム1号店】の看板をかかげたドーム状の施設があった。


「これが、聖地の由縁ですよ。王国に知れ渡ると面倒になるので知る人ぞ知る聖地としてこのディズルの森に筋トレファンがお忍びで募っています」ヨーゼフさんは腕を組み自慢げに話した。


「──おおおおおおおおお!? お、おおおお」言葉にならない。計り知れない感動が胸に溢れ出す。


「す、すごいにゃ、筋トレってあのスヴェンがたまーにやってる運動にゃね? こんな施設があるにゃんて!!」


 魔物達が、言葉をしゃべり、コミニュケーションをとり、商売をして、人間さながらの街を発展させているのも大変、驚きであったが、それ以上にエレインの夢であったジムがここにある事に俺は猛烈に感動をしてる。もはや、いてもたってもいられず、俺はジムに向かって走りだした──。


「スヴェンさんゴブ!?」


「はははは──興奮しているようですね」


「待つにゃスヴェン!」リリィも後を追いかけてきた。


 ジムの正面に立つと、ガラス張りになっていて中の様子が外からでも伺えるようになっている。中を見るとゴブリンナイトなのどハイクラスゴブリンから普通のゴブリン、ハイオーク、オークディザイアー、オークドラグーン、などSクラスの魔物から人間の冒険者まで仲良く筋トレをしていた。


「す、すごい──ベンチプレス、パワーラック、大量のダンベル、見たことのないのマシンまで施設内にぎっしり入っている!! し、しかも、人間と魔物が仲良く共存していてお互いの筋肉を褒め称えあっているだと!? 平和すぎる!!」


「驚きましたかね……スヴェンくん」追いついたヨーゼフさん嬉しそうに訪ねてきた。


「し、信じられない光景です」


「にゃんと!? にゃんと平和な世界にゃ!」


「あそこのベンチプレス台の黒いバーベルが見えますか?」


「はい! たしかに1つだけ黒いですね」

 

「ふふふ──あれ──魔王軍の元幹部、不死身のデュラハンさんなんですよ」


「「ハァッー!?」」リリィも俺も驚きすぎてすっこけた。


「エレインくんが、怪力でぶっ潰しました。それ以来からここでバーベルとしてよきアドバイザーとしてジムの一員になり、みなさんのコーチングをしています」


 もうむちゃくちゃで意味わからんです。あの不死身の騎士デュラハンがバーベル?


「とんでもにゃい奴にゃ……」


「お2人とも、せっかくなのでディズルの森名物フィットネス体験していったらどうですかゴブ?」


「そうだね、やらせてもらおうよ、ね? リリィいいでしょ?」


「にゃーもやるにゃ」


 俺達は、鎧を脱ぎ軽装になった。中に入ると皆の熱気でジムの中がムンムンとしていて鏡が少し曇っている。追い込んでいる大きな気合い声を出しながらベンチプレスをする冒険者、ランニングマシンでダッシュするオーク、凄く活気に満ちていて、そのやる気に当てられた俺たちも早くやりたくてウズウズしていた。


「よっしゃ! さっそくベンチプレスからだ!」俺は久しぶりのベンチプレスに心を躍らせベンチ台に向かった。


「──おう! ちょっと待てコラックソガキ!!」どこからともなく口の悪い怒鳴り声が聞こえる。


「んん?」俺とリリィはキョロキョロと声主を探す。


「こっちだコラ! おうっ! てめぇーら、まず筋トレする前にやる事あんだろ? あぁん!」真っ黒のバーベルが怒鳴っていた。


「──デュ、デュラハンバーベル!? (しゃ、しゃべるのか!?)」


 ヨーゼフさんが言っていた「ジムの一員」とは本当に言葉のままジムの一員だった──。


「てめぇーら、筋トレ前にまずアップしろ! ケガしてもしらねぇーぞコラッ!」


「──は、はい」なんか凄く変な感じだ。聖騎士である俺が元魔王軍幹部に怒られている……。


「んじゃ、とりあえずストレッチからにゃ!」リリィは座り込み大きく股を開いてストレッチを始めようとした。


「──馬鹿野郎コラッ!」


「にゃん!?」突然の怒鳴り声にリリィは頭を抱え込み小さくなった。


「いいかコラ? 筋トレ前にストレッチをすると関節が緩み、体の力が入らなくなんだよ。だからパーフェクトの時より筋トレの効果を下げちまう。──いいか? 静的ストレッチはとくに副交感神経のはたらきを優位にしちまって、筋肉が緩む。だからアップの時は動的ストレッチだコラッ! 静的ストレッチはトレーニング終了時にやるもんだ」


「は、はい!」そういえば昔、エレインがそんな事言っていたかもしれない。



 ──動的ストレッチとは?──

  動的ストレッチとは、関節を伸ばすような静的ストレッチではなくラジオ体操のような動きながら全身を温めていく連動した動きを言う。ラジオ体操そのままやってしまえばベストだが、なかなかそうはいかない。──体の手と足、右左を別々にあげるだけでも動的ストレッチになる。



「──はぁ、はぁ、にゃぁん、ぁん、──はぁはぁ、もうダメぇぇ」リリィは40キロのバーベルでベンチプレスをしていた。


「おう──ほら、次でラストだ、最後に気合い入れてけ! 甘えんじゃねぇ! 聖騎士なら力を絞りだせぇ!」


(お、恐るべしデュラハン──、めちゃめちゃ的確な上に厳しい)


「──はぁん、あぁぁぁぁん」物凄いエロい声でリリィはラストと言われた1回をあげた。


「──おっし! よくやったぜ! 今、お前は聖騎士としてのラスト1回を上げた。──んじゃ、次はリリィとしてのもうラスト1回だ! オラぁ! 上げろぉ!」


「──そんにゃ〜、もう無理にゃん」


「泣き言いってんじゃねぇー! さっさと上げろぉ!」


(お、鬼だ……、そして恐ろしく追い込むのが上手い……)俺は、そーとその場から離れて違う場所に逃げようとした。


「──おい! 青髪のクソガキ! 次はてめぇーだぞコラッ!」


「──は、はい!」


 そうして俺たちは、ディズルの森名物、鬼デュラハンメニューでこの後こってりしごかれたのであった──。

 




 

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