『7』
【魔王の城 城門前】
遂に外へ繋がる巨大な金属扉が開く。鈍い金属音に耳を塞ぎながらも外の景色に期待の表情を露わにする魔王になりたい
麗音は『大きく息を吸い込んだ!』
シルクは咄嗟に耳を塞ぎ、華奢な身体をキュッと縮める。流石に麗音の行動パターンが分かってきたようだ。
「外の世界、キターー!!」
声が止んだのを横目で確認したシルクは塞いでいた手をはなし、外の空気を小さな胸いっぱいに吸い込んだ。
「あぁ、これが外の世界……」
「キターーーー!!!!」
「きゃぁっ!? だ、だから叫ばないでくださいよっ! はぅ、ビックリしました。ドキドキ」
外の世界、それは麗音のいた日本とは似ても似つかぬファンタジーな世界だ。それもゲームやアニメで良く見る、所謂魔界。
赤い空に石造りの建物が目立つ少し冷たい印象は麗音のハートを鷲掴みにした。
「わぁ〜! 本当に来たんだ! 魔界〜……」
「ちょ、ちょっとストップストップ〜!」
「う……もう、今いいところだったのに〜……」
「何かある毎に叫ばれたら反応に困ります。そ、それに敵がいるかも知れませんし、し、慎重に行動しないと危険で……」
「あ、これで橋をおろせば向こう側に行けそう! このボタンを押すのかな?」
「あーっ! は、話を最後まで聞い……きゃっ!」
シルクの声は城門から降ろされた巨大な橋が地面に叩きつけられた事で響いた轟音に掻き消された。
音と共に地面が跳ねるように揺れた。麗音の小さな身体はその衝撃によりポンと跳ね、そのままお尻から地面に落下した。
「いたた……」
「い、言わんこっちゃない、ですよ……」
「シルクだけ飛んでてズルい〜!」
麗音は膨れてみせた。シルクは呆れた表情で小さくため息をつく。
「幽霊なんですから、当たり前です。魔王様には廊下は飛ぶなと、よく叱られましたが」
「魔王さまって、学校のセンセみたいだね。というか、シルクってユーレイだったんだ……って、えぇぇぇっ!?」
「な、何ですか突然っ……ゆ、幽霊が何か?」
今度はシルクが頬を膨らませては不服そうに腕を組んだ。
「幽霊、キターー!!」
「だ、だからっ……はぁ、もう好きにして」
このままでは埒があかないと見たシルクは突っ込む事を放棄した。一々相手にしていても仕方ないと判断したのだろう。
そしてそれは幼女、否、子供を相手にする場合の上手なかわし方でもある。つまりは大正解。
とはいえ、シルクもまだまだあどけなさの残る少女の姿ではあるのだが。
そんなシルクに思考を巡らす時間は微塵も与えない様子の女子小学生はトコトコと橋を渡り始める。シルクは慌てて浮遊形態になり、その後を追った。
「待ってくださ〜い!」
「お〜、魔界って感じ〜、アニメとかで見たことあるけど本当にこんな感じなんだね〜!」
「はっ、そ、外の世界……こ、これが……わたくしの住む世界、魔界ヘル=ド=ラド!」
シルクは目を輝かせて坂の下に見える城下町ヘル=ヘイムを眺めながら地に足をつけた。
「魔王子様が話してくれた通り、とても大きな城下町が見えます。きっとその先には
「わぁ、ドラゴンいるの?」
「城下町の目抜き通りはいつも賑わっていて、活気が満ち溢れているとか。魔王子様はいつもわたくしなんかにお土産を買ってきてくれてました」
「ねぇ、ドラゴン……」
「さぁレオン、早く城下町に降りてみましょう!」
「あ、待ってよシルク〜。もう、シルクって自己チューなんだから」
陽向麗音、彼女に言われてしまったら最後である。
何はともあれ二人は、魔王の城を後にし城下町に続く長い下り坂を行く。
まだ見ぬ世界に大きな期待と小さな不安を抱える二人は顔を見合わせては小さく微笑む。
「シルク、一緒に行こう?」
「あ、はい、そ、そうですね!」
朝焼けに照らされた二人のシルエットが一つになる。
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