『21』
夜も深まり子供達も寝静まった頃、メイドのシルクがレオンに語りかける。
「そろそろ就寝時間ですね。レオン、レーヌ、ベッドのシーツは交換済みですから、ゆっくりお休みくださいね」
「シルクはまだ寝ないの?」
魔王城の大浴場で汗を流したレオンは下着姿で瞳を瞬かせる。シルクはそんなレオンを見ては少し頬を赤らめたが、すぐに気を取り直し答える。
「わたくしはまだお仕事がありますので、お気になさらず」
とは言いつつ、セイレーヌの手が麗音の服を摘んで離さないのをチラチラと見るシルク。
それはさておき、
一週間前、麗音が昏睡状態になって魔王城へ帰って来た訳だが、それからというものシルクはいきいきしていた。メイドとして働く事に強い喜びを感じていたシルクにとって、お世話する人がこんなに増えたのは幸福そのものなのかも知れない。
掃除、洗濯は勿論、朝、昼、晩の食事も殆どシルクが一人で担当している。
見た目の年齢的にもシルクとサイが一番年上に見える。麗音の世界で言う、そう、小学生高学年くらいのイメージだ。
そして次に麗音、その少し下がセイレーヌといったところか。実際の年齢は定かではないが少なくとも麗音はセイレーヌを妹のような感覚で見ている。セイレーヌも麗音にべったりで微笑ましい限りだ。どうやらシルクは少しだけ拗ねてるみたいだが。
麗音はシルクに言われた通り部屋へ。
立派な部屋の真ん中に大層なベッド。シーツも新品同様に真っ白。向こう側の麗音の部屋とは対照的でキラキラしている。
目が覚めた時にいた部屋とは違う部屋だ。どうやらシルクがこしらえてくれたようだ。
麗音は少し落ち着かない様子で、ベッドの上で綺麗に畳まれている透け透けのワンピース型パジャマに袖を通した。
鏡に自分の姿を映し出す。おろした麗音の髪は肩より少し長い程度で、少しだけ外に跳ねている。
「うわぁ……着てる意味あるのかな、これ……」
殆ど丸見えだが、着ていないよりはマシだ。麗音はベッドで横になり向こう側へ帰った後の事を考える。セイレーヌとの約束の為、学校で花の種を貰わないといけない。
それに、友達の桜と舞にも早く会いたいなと、そんな事を考えているのか、口元を緩めては目を閉じた。そのあどけない寝顔は小学生のそれである。色んな顔を見せる
——
——
「ん……あ、朝……あ、そうだ学校行かないと!」
麗音はピョンと起き上がり着ていた白黒パンダパジャマを脱ごうとした。
「……あれ?」
しかし、麗音が着ているのは白黒パンダではなく透け透けワンピだった。
「あれあれ〜?」
慌てて周囲を見回した麗音の視界に映るのは、殺風景な自室ではなく華やかな魔王城の一室。
「あれあれあれ〜!?」
麗音は頭をブンブン振り立派な頬を軽く叩き頭上にハテナを浮かばせる。
眠れば向こう側、つまりは現実世界に戻れると想定していた麗音の考えはまんまと覆された訳で。
「だ、だいじょーぶ、
そう自分に言って聞かせる麗音の表情には焦りが見え隠れしている。
帰り方が分からないのは流石にマズい。それは小学生でも分かる。
普通に『想・定・外』である。
すると、コンコン、とドアを叩く音がして外からシルクの声が聞こえてくる。
麗音は思わずピクンと反応した。
「おほん、朝でございますよレオン。開けてもよろしいでしょうか?」
「あ、シルク……ち、ちょっと待って、今着替えるから!」
「そうですか。わたくしは気にしませんが……ゴクリ」
「もう、いいから待ってて!」
「仕方ありませんね。わたくしは朝食の準備がありますので準備が整い次第食堂へいらしてくださいね。ペコリ」
シルクの言う食堂とは、魔王の間の事である。
コツコツと床を叩くようなシルクの足音が遠くなる。恐らく手押しワゴンを押して廊下を歩いていたのだろう。飛ぶと魔王先生に「廊下は飛ぶな」と怒られるから歩いているのだろう。
そのついでに麗音を起こしに来たとみる。
麗音はひとまず着替えると部屋を後にした。
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