『45』
「おらおら、どうしたっ! 何とか言えやゴルァ!! うらうらうらぁっ!!」
ゴミを扱うように少女の頭を踏み付け砂浜に押し付ける。赤く染まり、その上、汚れた砂浜に顔を埋め呼吸も出来ずにもがくロザリニャの動きが遂に止まる。
「ん? 何だコイツ、もう死んだか?」
斧使いの巨漢は踏み付けていた脚で無造作にロザリニャを転がした。天を仰ぐ形となったロザリニャは途端に呼吸を再開した。しかし既に虫の息だ。
腕は通常曲がらないであろう方向に折れ、衣服は破け綺麗な金色の髪は見る影もないくらい真っ赤に染まっている。
「……ご……しゅ、じん……(油断、したにゃ……こんにゃ奴……最初から本気でやれば……)」
男は大きく腕を振り上げる。すると、沈みかけの夕陽が斧の刃を鈍く照らした。
「いいねその顔〜、これから一本ずつ四肢を捥いでやる。その後海に捨ててやるからなっ、何だっけ? この世は因果応報だっけか? 確かにお前の言った通りだな〜ギャハハ!」
男達の不愉快な笑い声を切るように斧が
斧を振り下ろしていた巨漢の身体が大きく仰け反り後退する。
ロザリニャの前に立った小さき魔王は右手に握った縦笛を更に強く握り勇者達を睨み付けた。
「……酷いよ……ひどいっ! なんで勇者なのにこんな酷いことするの……なんでっ……」
麗音の身体に真っ赤な瘴気が立ち込める。
「なんだこのクソガキは!?」
「わたしは魔王……正義の魔王少女レオン!」
「正義だぁ〜? 笑わせるなよ。退けぃ、そこの猫で遊んだ後に可愛がってやるから黙っ……」
「アンタなんかに可愛がってもらいたくない!
ランドセルから解放されたクマデビルが発光する。
『ヒャッハァー、面白レージャネェカ! コノ俺様ヲ量産スルトハナ! 周リノ雑魚ハ引キ受ケタゼ、ロリマオー、オマエハでぶヲコテンパンニノシチマエヤ!!』
「言われるまでもないよ!」
魔王少女レオンの号令で数百もの群体と化したクマデビルが弓使いと剣士を牽制、翻弄する。
そのおかげでリーダーである斧使いの巨漢は孤立、後方でクマデビル群にフルボッコにされ悲鳴をあげる雑魚共はもはやあてにはならない。
「ガキ……このオレを誰だと思ってやが……」
「誰でもいいよそんなの! モブでしょ!」
レオンは一直線に巨漢モブへ突進する。巨漢モブは来たとばかりに口元を緩めチート罠を自身の目の前に張り巡らせた。
(馬鹿が、やっぱ頭ん中はガキだぜ。このまま拘束して首の骨へし折ってやるぜー!)
巨漢モブは余裕の表情で斧を地面に突き立て指なんか鳴らしながら、獲物が罠にかかるのを待つ。
しかし、
「ブグッファッ!? (……え? え!?)」
レオンの四、五倍はある巨漢モブの身体がくの字に曲がり宙を舞う。レオンの小さな拳が巨漢のソチンを打ち潰し、そのまま振り抜いたのだ。
しかし、彼のチート能力は確かに発動していた。レオンは確かに罠に飛び込んだ筈なのだ。にも関わらず、レオンの拳は巨漢モブのアレを打ち抜いた。
「ぬがぁっ、な、ぜ……どぅぁっ!?」
股間の痛みに悶絶しながらも何とか内股で立ち上がった巨漢モブは目を見開いて眼前の魔王少女を凝視する。その少女の傍らでフワフワと浮いている物が見える。——消しゴムだ。
「消しゴムちゃんマジチート!」
「はぁ!? んだそりゃ〜ふざっけんなよ!」
「お返しするよ! 鉛筆さん、赤ペンさん、オマケに蛍光ペンも、一斉はっしゃ〜!」
無数の鉛筆ミサイルは大きな的でしかない巨漢モブの身体に次々と着弾する。着弾する度に小さくポン! と爆発が起き遂には爆風で男の姿が見えなくなった。
視界を奪われた巨漢モブは反撃の機会を待っていた。爆風で視界が悪い今が正にテンプレ反撃タイミングである。一気に飛び出し一撃打ち込めば流石に死ぬだろうと、渾身の力を右の拳に込めた。
そして意を決して爆風から飛び出した巨漢モブが見たもの、それは巨大なピコピコハンマーを縦に振りかぶった少女の姿だった。
(まちぶせ、だと!?)
「やっぱりモブだね、天ぷらおじさん!」
ピコーーーーーーーーン!!!!
打撃音からは想像もつかない強烈な衝撃で砂浜に埋もれた巨漢モブは完全に戦意を喪失した。そこにボロ雑巾のような弓使いと剣士も倒れ込み情けなく泣きべそをかく。
「もう酷いことしないって約束して……!」
「「は、はいっ、もうしましぇんからっ……こ、殺さないでーー」」
『オイロリ、コロセ!』
「もういいよ、謝ってるんだし。わかったら帰って」
「す、すいやせん……あ、あの……良かったら手を貸してもらえませんか……た、立てなくて……」
涙目で懇願する巨漢モブ。麗音は仕方ないといった表情で彼に手を差し伸べ——
————!?
————……?
「……え……」
「オレはさぁ〜、」
————————ウソツキナンダヨ?
「レオンッ!?」
サイはケルヴェロスの制止をかわし飛び出した。
しかし、魔王少女レオンの変身は解除され小さな身体は砂浜に力無く膝をついた。
琥珀色の瞳は焦点が合っていないかのように小さく、激しく揺らいでいる。
そんな揺れる瞳でサイを見る麗音は自らの腹部を抉ったソレを両手で確かめるような仕草をとり砂浜を真っ赤に染め上げるのだった。
「くっそぉぉっ、お前達っ、それでもヒトかぁっ!!!!」
麗音は薄れゆく意識の中、勇者に殴りかかるサイの姿を見、、、
——
————
っ——
——イタイ
——いたいよ、、
ママァ……
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