『88』




 目が覚めた。




 視界に映るのは、驚愕の表情を浮かべる、最愛の母の姿だ。


 市内の病院の一室、そこで陽向麗音は目を覚ました。そして、


「マ、ママァッ!!」


 飛び付いた。全力で飛び付き、全力で泣き、全力で笑顔を見せた。


「ママ! パパが愛してるって! ほら、これ!」


「えっ……これ、は……」


 麗路から、音羽への手紙だ。麗音はそれを麗路から受け取っていたのだ。

 音羽はそれを読み、


「……私達しか……知らないこと……麗路? あの人が……」


 音羽は涙を流し、その手紙を大事に胸に当てた。


 その後、麗音から信じられないような話を聞かされ、それでも彼女はそれを心から信じた。



 こうして、麗音の日常が帰って来た。



 朝、玄関のドアを開けると、


「「れおんちゃんっ!!」」


 桜と舞がお出迎え。桜は記憶を失っていた。そんな桜に、麗音は今まで通りに接した。


 大山はあれから行方を眩ませている。そんな日々が一週間ほど続いたある日、麗音は一人帰路についていた。


 麗音は近道をする為、人気のない路地裏を歩いていた。その時だった。麗音は後頭部を強打し地面に倒れる。殴られたようだ。


 後ろから何者かに殴打され、脳震盪を起こし意識が朦朧とした。振り返りボヤける視界で見上げた先にいたのは、……大山だった。


 顎に無精髭を生やし、眼球を血走らせた大山が抜け落ちて隙間だらけになった白い歯を剥き出しにした。そして麗音に覆いかぶさりその細い首を両手で締め付ける。


 抵抗するも、大人の男に女子小学生が勝てる訳もなく、麗音の意識が次第に薄れていく。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!」


「……っ……ん、ぜっ……」



 まさかの絶体絶命のピンチだが、こんな時にこそ、現れるのが、


「とぉっ!!」


 強烈な回し蹴りが大山の頭を打ち抜いた。見事に一撃で沈黙した大山の首根っこを掴み、手錠をかけた男。


「はぁっ、う、キタ……正義の味方、キタ!」


「大丈夫かい、麗音ちゃん? やっぱり、麗音ちゃんの言っていた事は嘘じゃなかったみたいだ。とはいえ、誰も信じてくれないだろうけど。だが、しっかり、罪は償ってもらわないとな。通り魔、下校中の小学生に襲いかかった犯罪者としてね」


「黒刀じゅんさぶちょーけいじ! やっぱり正義の味方はいた!」




 こうして、幼女への暴行容疑で逮捕された大山は教員生命を絶たれる事となった。







【魔界】



 復興中の魔界ヘル=ド=ラドには魔物以外にもあらゆる種族がいた。

 グレンの騎士団も、復興の手伝いをしてくれている。目抜き通りでは笑顔を取り戻したレナが果物を配っていた。

 スフレやセイレーヌも軽い荷物を運んでいる。

 シルクはひたすらに精力のつく料理を作りまくっている。サイとケルヴェロスも汗だくで働いていた。



 そして、



 お城の廊下をご機嫌で歩く少しばかり成長したリリアルは、歴代魔王の肖像画を見てクスクスと笑う。頭の白蛇もピンと立つ。



 厳つい魔王達の中に、一際輝く肖像画が一つ。




 そう、魔王レオンの————




 ————



 忘れないよ。ずっと、ずっと、




 ずーっと、ともだち!!




 ———————バイバイ☆フレンズ!





 ☆らんどせるのまおうさま☆


 ————————————【完】

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