『6』
跳ねても揺れない。そんな小さな胸を張り、石造りの長い廊下を意気揚々と歩く麗音。
そして、その後ろからフワフワと後を追うシルク、浮遊形態。
「ちょ、レオン、待って下さい〜!」
シルクの呼びかけに麗音は立ち止まって振り返った。しかし、よく子供のしでかす急な行動が悲劇を招く事となる。
「ぷぎゃぁっ!? い、痛ぅ〜っ……ちょっと、いきなり止まらないで下さいって……」
「え〜、シルクが待ってって言うから〜」
シルクは打ち付けた顔面を手で押さえている。急に振り返った麗音の額がシルクの顔面にクリーンヒットした訳だ。ちょうどアゴを打ち抜く位の高さからの強打に身悶えるシルク。
「ほ、本当に外に出るんですか?」
「うん、仲間がいるかも知れないしね」
「そんなの……いるでしょうか?」
「ん〜、きっといるよ〜」
「なんの根拠があって……はぁ」
麗音は大きな垂れ目がちの瞳をキラキラと輝かせては右手の人差し指をピンと立てる。いい事を思い付いたと言わんばかりのドヤ顔だ。
「もし誰もいなかったら、わたしが魔王でいいよね?」
麗音はグイグイ迫る。心なしか口元も緩む。
「そ、それは……あ、でも駄目ですよ。ちゃんと儀式もありますし、それにまだレオンの事もろくに知らないのです。簡単に決める訳には……」
麗音はプィ〜ッと膨れてしまった。
「シルクって、ド頑固?」
「え……あぁ、頑固者でしょうか。って、違いますっ、魔王の選定を軽々と出来ないって言ってる訳でありましてですねっ……それに、ドって何ですか……意味がわからないこと言ってないで、あ、ちょっと待って下さいよ〜!」
——
【とある魔界、
朝焼けに照らされる真珠のように輝く白い砂浜、奇っ怪な形状をした黒い岩、静かに寄せては引いてを繰り返す穏やかな波。
真っ赤な海。
そして、少女の歌声。
その澄んだ空気に溶け込むような美声は、間も無く途切れて静寂が訪れた。
奇っ怪な形状の岩、その天辺にちょこんと腰をおろした透き通るような水色の髪の少女は下唇を噛み締め小さくため息をつく。
綺麗な髪はとても長い。少女の小さな身体をすっぽり覆ってしまうくらいに。
肌は真っ白、大きな瞳は
「……歌わないと……っ……でも……」
その声は歌声からは想像出来ない程にあどけない。
「……歌わないと……なの……」
赤い海は穏やかなまま。そんな穏やかな海の向こう側、水平線に浮かぶのは魔界の太陽。
「……た……たいへんっ……歌わ……ないと……なの」
否、水平線に浮かぶモノは太陽ではない。魔界の朝焼けを背に、
「歌わないと……でも……声が……歌が……」
影はユラユラと波に乗って、確実に海岸へ近付いている。浜に到着するのは時間の問題だろう。
「はぁっ……はぁ……ゔっ……た、わない……と」
少女は立ち上がった。しかしすぐに倒れ込み嘔吐した。息を荒げ、奇っ怪な形状の岩の上で足を踏み外し、真っ白な砂浜へ落下する。無防備に背中から落下した少女を、砂浜は柔らかく受け止めた。
魔界の空を見上げながら少女は、
「……おかあさん……たす……けて……っ……」
ただ、その言葉だけを繰り返し呟いた。
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