『56』
「のんじゃ〜!」
「なのなの〜!」
「キタキターー!」
「でっしゅーー!!」
「はぁ……騒がしいですね」
「うん、賑やかだね」
『ケルヴェロスだ』
魔界で幼女達がピクニックなんかを楽しんでいる間、人界では騎士達の鍛錬が行われていた。
——
騎士の全体朝礼が終わり、騎士団長グレンと副団長アレスは鍛錬に励む騎士達を指導していた。
「騎士団長様、勇者協会の方がおいでになられました。王は不在故、騎士団長様に対応をお願いしたく参りました」
声をかけたのは城のメイドの一人、フランメだ。白く真っ直ぐなストレートヘアが特徴的な、一見人間離れした少女である。
身長は低く、見た目年齢的には中学生くらいに見えるが、立派な成人らしい。
銀色の瞳も神秘的で、白い髪の良く合っている。
「来たか。ありがとうフランメ。直ぐに出迎えよう。アレス、君は皆を集めておいてくれ」
「了〜解っ」
グレンはそう言い残し鍛錬場を後にした。アレスは眼鏡の位置を調整する。ふと振り返ると、フランメがにっこりと笑っていた。
アレスは再び眼鏡をいじりながら、
「ふぅ、皆んな集合だ!」と声をあげた。
その一声で屈強な騎士達がアレスの元へ集まった。フランメはそんな彼の姿を見て、人知れず頬を染めるのだった。
——
一方、グレンは城の広い廊下を真っ直ぐ進む。
ここ最近、グレンに直接会いに来る事が増えてきた勇者協会の使者に会う為だ。
勇者協会とは、九年前、突如として現れたギルドの一つだった。それが今となれば帝国騎士と演習を行う程まで成長した。
彼等はステータスというモノを持ち、自らの力を数値化する力を有する。
魔物を倒せば、それに見合った経験値が手に入り、その数値分だけ強くなる仕組みだ。
その中でもチート持ちという存在が居る。
チート持ち勇者は帝国騎士の実力を上回る強さを見せつけ、西の魔界を壊滅させた。
それによって帝国での地位は揺るぎないものとなり、勇者は優遇されるようになる。
その後、南へ侵攻した勇者達だが、そこで対抗組織と遭遇、現在も南の魔界を墜とせずにいる。
しかし、勇者協会は南に対抗組織が集まっているのを知り、少数精鋭で東の魔界ヘル=ド=ラドを滅亡させる。勇者達は滅亡した魔界の生き残りすら根絶やしにした。
亜人や他種族への武力行使も、勇者協会が現れてから始まった。こうして人間至上主義が確立されたのだ。今や脅威であった魔物も、人間より身体能力の高い亜人や、魔力の高いエルフも、勇者のチートの前に屈してしまった。
古代より栄光を築いて来たエルフでさえ、奴隷として売られている始末。
今現在も南の魔界とは抗争中で、戦力は主に勇者協会から提供されている。
グレンはそんな勇者協会を良く思ってはいない。どうにも気に食わないのだ。
長い廊下の最奥にあるドアを開けると、そこには勇者協会の使者が居た。
グレンは黒いフードを被ったまま、一言も発しない使者の前に腰掛け簡単に挨拶をした。
「帝国第一師団、団長のグレン=グリモアルだ。本日はわざわざお越しいただきまして……」
「御託はいい。本題に入ろうじゃないか」
「……くっ……いいだろう……」
「……帝国騎士団、そろそろ勇者協会の傘下に入る気はないか? いや、回りくどいのは無しだな。君の力をあの方が見染めておられるのだ。どうだ? 君が勇者となるなら、君の部隊も優遇するが」
フードの男はピクリとも動かず、淡々と言葉を並べる。
「帝国騎士団が一ギルドの傘下に? それは何の冗談だ。王がそれを認めるとでも?」
「……いわずとも認めているさ。現に君達の仕事は城の警備と簡単な護衛任務くらいじゃないか」
「平和に越した事はないと思うが……」
「王の心中を察してみればわかる。王は妻、王妃と二人の
(……四年前の事件、か……)
知らない筈は無かった。何故なら、その事件での護衛の生き残りはグレンただ一人だったのだから。
異形の魔物の襲撃。それによって帝国の王の妻、子供の命は失われた。目の前で、愛する者達が喰われるのを目の当たりにした王は、その日から人が変わったように人外を忌み嫌うようになった。
そして、勇者協会と密に繋がり始める。
グレンは黒いフードの男に言った。
「俺達は騎士だ。国の平和を守るのが仕事だ。こちらから戦火を拡げる勇者協会のやり方は正直言って嫌いだ」
「頑固な事だ。ステータスを得れば、君は更に強くなれるのに。あの方も君をコマに欲しいと強く願っているのだが……南のあの男を黙らせる為に」
「あいにくだが、俺は騎士団として生きたい」
「強要はしませんよ。さて、今日は合同演習を行う予定だが、あいにく今日は一人でね。だから、この私が騎士達と遊んであげますよ」
「一人で? そいつは面白い事を言う。後悔しても知りませんよ?」
「お気遣いなく。私も忙しくてね、東の魔王が復活したとかなんとかで」
こうして終始睨み合ったまま話終えた二人はアレスの待つ鍛錬場へ向かうのだった。
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