『24』


 ランドセルにぶら下げられた熊のキーホルダー、もとい、正直キモい熊のキーホルダーが有名な日本のホラー映画のワンシーン並みに揺れている。


 ブン、ブン、と。


 しかも喋りかけてくるのだから始末が悪い。


「う、うわ〜……」


 これがキッカケで麗音の可愛いセンスも改善されたのか、あからさまに顔を歪めた。流石にキモさを感じざるを得ない光景だから無理もないだろう。


 と、思いきや突然『大きく息を吸い込んだ!』


「クマデビルちょーかわいーよー!!」


『テ、テメェ……』


「揺れてる喋ってる〜、かーわいーよー!!」


『チョ、コラ……』


「うわぁ〜さっすが魔界、異世界!」


『ゴルァ、気安ク持ツンジャネー!?』


「キャハハッ!!」


『プニプニスンジャネーー!?』




 数分後、


 やっとの事で解放されたクマデビル。麗音はそんなクマデビルをベッドの上にちょこんと添えて頬を染めている。

 やはり彼女の可愛いセンスは他人とは少しズレているらしい。とはいえ、これも個性。周りがとやかく言うのは野暮だろう。陽向麗音、彼女のセンスは一旦置いておく。


「ねぇねぇ、君は何者なの?」


『ハッ、聞イテ驚ケ、俺様ハ魔王子様ノ使イ魔、クマデビルダゼ!』


「あ、クマデビルなんだね、ほんとに』


『ハッ、ロリメガ!』


「ろり、って何か知らないけど……クマデビルって口悪いね。それに色々聞き取りづらい話し方だよね。まずはその話し方からなおそうか?」


『黙レロリマオーガ!』


「あ、あの時話しかけてくれたのクマデビルでしょ」


『オオ、ソウダ。魔王子様ノ能力ヲ得タオマエハ、アノトキミタイニ魔王ノチカラヲ行使デキルッテワケダ』


「そっか〜、だから変身出来たんだね〜」


『ダガシカシ、オマエガチカラヲ行使スルニハ俺様ガ近クニイル必要ガアル、ツマリ……何ヲイイタイカトイウトダナ……』


「あ、シルクのとこ行かなきゃ。また後でねクマデビル!」


『待タンカゴルァ!』


 麗音は心底面倒くさそうに振り返り白い目をする。


『俺様ガ近クニイナイト、タダノロリナンダヨオマエハ……ダカラ!』


「仕方ないな〜、クマデビルってさみしがり屋さんなんだね。わかった、連れてってあげる」


『ッテ、ワザワザらんどせるニ繋グンジャネー!!!!』


 麗音はランドセルにクマデビルを装着し、それを背負って部屋を後にした。

 廊下をひたすらに歩いていると、まもなくシルクの部屋の前に到着。麗音はドアに手をかけようとして思い留まり、右手の甲でドアをノックする。


 中から「どうぞー」とシルクの声がした。

 麗音はそれを確認してドアを開けた。中にはいつもの白と青のメイド服姿のシルクがいて、麗音を見るなり優しく微笑んだ。


 シルクに導かれ大きな観音鏡の前に座った麗音。その後ろにシルクが立つ。


「レオン、何故その鞄……いえ、ランドセルは何故今、背負ってるんです?」


「あ、コレね。さみしがり屋さんなんだよ」


『黙レロリマオー!!』


「はぁ、鞄がですか?」


『鞄ジャネー、ネクラムッツリメイドガ!』


「とりあえず、そこに置いておきましょうか」


 どうやらシルクにはクマデビルの声が聞こえていない様子だ。クマデビルの声は魔王の力を得た麗音にしか聞こえないのかも知れない。


 ブブンブン、と揺れるホラーなキーホルダーに目もくれず、ガチなホラーである幽霊種ゴーストメイドシルクの手が麗音の髪に触れる。

 栗色の髪はほんのり艶やかで指通りが頗る良い。シルクの細指はスッと髪の間を抜けていった。


 少し癖っ毛な麗音の髪を大きなクシで丁寧に、まるで割れ物を扱うように優しくとかしていく。


「ふふっ、綺麗な髪です」


「えへへ、気持ちいいや……」


 何度かとかしてみたけれど、ピョンと跳ねる癖っ毛は跳ねたままだ。シルクはクスッと笑うと左側の髪をまとめ始めた。

 器用な手つきで片方のお団子が瞬く間に完成、そのまま右側もお団子にすると、いつものクマさんヘアーの完成だ。シルクは仕上げとばかりにお団子に少し細工を施した。


「わぁ、かわいー!」


 シルクは持っていた黒いリボンをお団子の根元部分に装飾として結んでくれたのだ。

 麗音の白黒テイスト好みにドンピシャなリボンは彼女の瞳を輝かせた。パッと振り返り満面の笑みを浮かべた麗音。


 シルクは思わず頬を染めた。


「か、かわゆい……はっ、わたくしとした事がっ……ほら、まだ前を向いてて下さいよ?」


「あれ、おわりじゃないの?」


「今日は正式にレオンの魔王就任式を行いますから、綺麗に着飾っていただきます。レオンは黒が好きなようなので、それに合ったドレスを何着かご用意いたしました」


「え、ドレス!?」


「はい。安心して下さいね、サイズはレオンが寝込んでいた際、隅々まで測りましたので」


「えー、シルク、え〜……」


 麗音は途端に白い目をする。


「あ、いえ、ほらっ……し、試着しましょうっ、さ、こちらへ!」


「もうお嫁にいけないよ……はぁ」


「心配しないでください、わたくしがもらってあげますから……じゃなくて……アワアワ」


「冗談だよ、シルク。もうシルクのことはあきらめてるから安心してっ!」


 と、ここで飛びっきりの笑顔スマイルが炸裂。


「は、はうぅっ……ズルいですよレオンは……も、もうとことん着せ替えちゃいますっモヘ〜ですよっふにゃらぁーっす!」



 極めて悪い顔色を真っ赤に染めたシルクは浮遊形態になり麗音をクローゼットへ拉致した。



 ※注意※


 その後の展開は皆様のご想像に任せします——


 byお淑やかなメイド、シルク









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