『23』
「どうしたのですかレオン?」
そんな彼女に声をかけたのは幽霊メイドのシルクだ。どうやら一仕事終えたらしい。
「あ、シルク。サイも出かけてるみたいだし、仕方ない、シルクに相談しよっか」
「な、何ですかその『圧倒的仕方ない感』は!」
シルクは頬を膨らませる。麗音はそんなメイドさんに仕方なく相談を持ちかけた。
相談というのは言うまでもなく現実世界へ帰る方法だ。一度帰って再びこちら側へ飛んで来たのはもはや明白な事実。
しかし、肝心なそのメカニズムが解明出来ていない。
今のところセイレーヌ以外が知り得ない驚愕の事実をサラッと告白。セイレーヌの為に花の種を取りに行きたい事も伝える。
当然、シルクの三つ編みはこれでもかと跳ね、その表情はまるで幽霊に遭遇したかのような顔に。とはいえ、彼女自身が幽霊なのだが。
「つ、つまりレオンは寝ている一週間、元の世界に戻って生活していたって事ですか?」
「うん、そうだよ。あ、でもね、向こうにいたのは一日だけだったんだ。夜になって眠ったら、また
「ふむ、それでもう一度眠れば帰れるとみたのですね。ごく自然な考えです。しかし、帰れなかった……恐らくですが、向こう側とこちら側を行き来する何らかの方法があるのでしょうけど……」
シルクがプカプカと浮きながら首を傾げる。
その横で麗音も同じように考えに耽った。暫くそうしていると、ふと思い出したようにシルクが口を開く。
「それにしても、お花ですか。ここのお庭にも魔王子様が人間界から採ってきてくださったお花が咲いていたのですよ。あの日、勇者達に焼き払われてしまいましたが……お花があるとお城も華やかになっていいですね」
「うんっ、シルクもそう思うなら尚更一度帰らないとだね〜」
「あ、レオン……少しいいですか?」
「ふえっ!?」
シルクが突然、麗音の髪に触れた。
「ど、どーしたの!?」
「ふふっ、サラサラですね。レオン、お昼の前にわたくしの部屋へいらしてください」
「え……シルクの部屋……だ、だいじょーぶかな……」
「な、なな何をおかしな事考えてるんですかっ……か、髪を結ってあげるだけですっ」
シルクは麗音の周りをクルクルと浮遊しながら言った。どう見ても動揺を隠し切れていないシルクに若干の不安はあるが、麗音も髪が邪魔だと感じていたのかその申し出を快諾した。
「それじゃあ後でね」
「はい、待っておりますね〜!!」
「……う、うん」
シルクの異常なまでのテンションに少しばかり後悔した麗音は一旦自室へ戻る事にした。
——
自室にある大きな姿見の鏡に自身を映し出す。
確か、向こう側で眠った時はパンダのパジャマを着ていた筈なのだが、目が覚めた時着ていたのは、
こちら側で一週間程眠っていたのだから当然ではあるのだけれど、麗音の頭では色々と整理し切れずにいるのか神妙な表情で首を傾げてしまう。
無理もない。
忘れてはいけないのが、彼女は小学生、ましてや低学年とまだまだ幼い子供だという事。ややこしい事は頭で処理し切れないのは当然の事である。
『オイ、オイコラオマエ!』
「な、何……今考え事してるんだから」
『バッカヤロウ、コノ俺様ヲ置イテ行クトハドーイウ事ダッテンダ、ロリマオーガ!』
「う、うるさいな〜、今、帰るほうほうを……って、え?」
『バッカヤロウガ、コンチクショーガ!!』
「だ、だだだだ、だれっ!?」
『俺様ダ、コンチクショー!』
極めて生意気な、それでいて甲高いダミ声が部屋に響く。麗音は慌てて辺りを見回したが当然の如く部屋には陽向麗音一人しか居ない。
「だ、だれ……なの?」
麗音は恐る恐る問いかけた。
「どこから……話しかけてるの……?」
とてつもない不快感と見えない恐怖が麗音の声のトーンをいつもより下げる。
『ココダココ、らんどせるニブラサガッタ俺様ダヨ、コノロリガ!』
麗音は部屋に置いてあるランドセルに視線をやる。
確かに、声はランドセルから——否、ランドセルに吊るされたキーホルダーから聞こえているようだった。黒い翼の生えた鎌を持った熊をモチーフにしたあのキーホルダーだ。片目には眼帯をしていて不気味極まりない麗音のお気に入りキャラクター。
そのお気に入りのクマがブンブン揺れながら麗音に話しかけているのだ。
これは……そう、ちょっとしたホラーだ。
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