『83』


 当たれ! 当たれ! 当たれ! 当たれ!



 麗音は心の中で叫ぶ。決して攻撃の当たらない相手に、渾身の一撃を決めるべく何度も何度も体当たりにも似た攻撃を仕掛けては躱される。焦る、涙が溢れそうになる。でも、諦めたりしない。


 髭の彼は倒れ、歌姫は沈黙、騎士は地を舐めた。


 圧倒的な強さの前に、勝機はあるのか。


「所詮はガキの駄々! そんな攻撃が当たる訳ないだろ! いい加減っ、諦めたらどうだ!」


「嫌だっ!!」


「ならば死ねぇっ!!」


「死なないもんっ! 行くよクマデビル増し増しぃぃっ!!」


 レオンは咄嗟にゴーストの攻撃を躱し反転、クマデビルを量産する。


『ロリマオー……オマエ……力ヲ制御シテルノカ? ヨッシャァ!! コレナライケル!! 今回ハ増シ増シダ!』


 クマデビルは分身、その数は千を超える。従来の十倍の量産に成功した訳だ。

 それでも奴には攻撃が当たらないというチートスキル【絶対回避】が存在する。結局、当たらなければそれも無意味だ。


 しかし、力を制御しつつあるレオンなら、もしかしたら奇跡を起こすかも知れない。


 その場の全員がその奇跡に期待せずにはいれなかった。だが、空中で激しい攻防を繰り広げる魔王レオンにも疲れが見えてくる。

 一瞬でも気を抜けば変身は解除され気を失うだろう。そうなってしまっては全てがお終いだ。


「だめっ、クマデビル! こっちに!」


 レオンの呼びかけにクマデビルが反応、空高くまで昇りゴーストを見据える。

 ゴーストは魔王を見上げては両手を広げ、余裕の表情を見せた。レオンは下唇を噛み締めた。

 しかし、次の瞬間、レオンの口元が微かに緩む。



 下で激戦の行方を案ずるサイ達。

 そんな時、ロザリニャが不適に笑ってみせる。


「にゃは……勝ったかもにゃ」


 その言葉に全員が振り返る。因みにセイレーヌとグレンはケルヴェロスが回収し、今は意識を取り戻している。


「勝てるって……はっ、あ、あの人は!?」


 サイの視線の先、空中で両手を広げるゴーストの背後に迫る影。スーツ姿の彼は気配を消して空を飛び、ゴーストの真後ろで口元を緩めた。


「皆んにゃ、遠距離系が使える奴は魔王レオンを援護するにゃ! 次の攻撃、にゃんとしても奴に当てるにゃ。その突破口はご主人が開いてくれる!」


 ロザリニャの言葉の意味はわからないが、子供達は皆小さく頷きそれぞれの力を解放した。





「ははははっ、どうした魔王! もう攻撃はお終いか! 何処からでもかかって来ていいの……っ……なっ、後ろ!? くそっ、まだ誰か残ってやがったのか!!」


 後方の殺気に遅れて勘付いたゴーストは咄嗟に振り返り回し蹴りを繰り出した。

 蹴りは見事にヒット、髭の似合うダンディなオッサンに触れた。


「なっ……きさっ、まは死んだ……はず!」


「言っただろう? オッサンはまだ死ねないってね……チェックメイトだ」


 ゴーストはすぐさま離れようとしたが、脚をしっかりと掴まれていて叶わない。


反則破壊チートブレイク!!!!」


 彼がそう叫ぶとゴーストの身体からガラスの破片のような光が弾け出した。


「くっ……そっ、がぁっ!! 死ねぇっ!!」


「ぐあぁぁっ!!」


 激昂したゴーストが放った魔法で彼は地面に叩きつけられた。ゴーストはそのままトドメを刺そうとした。しかし、背後にただならぬ殺気を感じ振り返った。そこには、


 ——魔王レオン


 空中で魔王レオンが全魔力を解放した。


 その圧迫感は尋常ではなく、地面に這う男に構ってられる余裕は無くなった。何せ、破壊されたのだから、避けなければ攻撃は当たるのだ。


 地面でニタリと笑う男のチートスキル、それはチート自体を破壊するチートの中のチートだ。主に魔王の持つチート級スキルを無効化する為のものだ。


 つまり、今のゴーストは【絶対回避】が使えない。自らの意思で回避しなければ、


 当たる。


「ちぃっ、退散だっ!」


 ゴーストは慌てて緊急離脱用のアイテムを取り出したが、そのアイテムは何かに弾かれ地面に落下した。振り返り目を見開いたゴーストの視界には、


「クソ猫がっ!?」


「ごめんにゃ〜?」


 ロザリニャのナイスな判断で緊急離脱を阻止、す、ると次は歌姫セイレーヌが立ち上がる。

 歌姫は全魔力を歌に込め、魔王に捧げる魔歌を歌う。すると、魔王レオンの瘴気が超絶強化された。


 次にスフレがレオンに追い風を送る。魔王レオンは「追い風キターー!」とか叫びながら風に乗り、ゴースト目掛け飛んだ! 風に乗り、とてつもない速さで!


「こんのぉぉぉぉーーーーーー!!!!」


「ぐぅっ、だが、この距離なら避けられる!」


 ゴーストは回避行動に入った。しかし、目の前に突如現れた、





 ————人魂




 からの〜、




 ————————魔王降臨っ!!




「とおぉりゃぁぁぁっ!!!!」


「なん、だ、とぉっ!?(ワープ、した!?)」



 仲間の声も響き渡る。


「「「いっけぇぇーーーーーー!!」」」



「必〜っ殺!!」


 ————————玉砕グシャっ!!!!!!


「キィィーーーーーーック!!!!」




「ぐべするぅぁっ!?」



 完全粉砕!!


 ゴーストの大事な部分が玉砕された。魔王レオンの全身全霊のドロップキックが見事にめり込み、そのまま地面を止まる事なく滑り、境界線の壁に激突した。そこにいたレジスタンスに囲まれ遂に戦意を喪失し、気を失ったのだった。



「やったぁーー!! 正義は必ず勝つ!!」


 しかし、


「……あっ……もう、だめ、かも……」


 変身が解除された小さき魔王の身体が地面に向かって落ちていく。誰もが息を飲んだ瞬間、麗音を優しく受け止めた男が居た。


「よく頑張ったね、麗音」


「…………っ……うんっ、えっと……」


「さ、皆んなが待ってる。行こうか」


「う、うん……(あたたかい……)」



 麗音は意識を失う事はなかった。


 皆と再会し涙を流し合う子供達を見て、オッサンは拾ったハットを深く被り直し振り返る。

 そんな彼にロザリニャがすり寄る。


「流石は不老不死の勇者、だにゃ」


「いや……オッサンの夢はほぼ叶ってしまった。つまり、もう次は死ねないさ。呪縛は解けたんだ。正真正銘、ただのオッサンになってしまった」


「え? どういう意味、にゃ?」


「よーし、皆んな! とりあえず勝利の宴といこうか!」


 彼ははぐらかすように明るい声を出した。


 その声に子供達も「おー!」と応え、一行はレジスタンスの駐留施設へ向かう事となった。

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