『8』
【魔界ヘル=ド=ラド、城下町、目抜き通り】
石造りの建物が所狭しと並ぶ魔王の城の城下町、その目抜き通りにはサイクロプスの少年サイと魔物の子供達四人の姿があった。
サイの集めて来た缶詰で空腹を満たした子供達は元気に噴水広場ではしゃいでいる。
それをベンチに座りながら眺めるサイの表情は決して明るくはないけれど、それでも子供達の元気に心なしか口元が緩む。
「明日もまた食材を調達しないと、せめて子供達だけでも食べさせてあげないと……お腹、空いたな」
サイは集めて来た缶詰を殆ど口にしていない。貴重な食料は子供達の空腹を満たす為に使う。
彼は見た目こそ一つ目の
「……ここから見える魔王の城に入れれば、まだ食料が残っているかも知れないのに……って、し、城の橋が!」
轟音と共に魔王の城と城下町を繋ぐ橋が架かったのが確認出来た。サイは元々丸い目を更に丸くし、立ち上がっては坂の上の城を見上げた。
「……ど、どうして城門が……橋が架かってるんだ……?」
「どうしたの〜サイにいちゃん?」
「あ、お城のはしがガシャーンってしてる!」
子供達が城の異変に気付き指をさす。そしてその中の一人、兎の耳のような見事なダブルアホ毛の女の子がサイの服をグイグイ引っ張る。そして、
「まおうしゃま、生きてたのでしゅか?」と、大きな瞳でサイを見上げる。
子供達の中でも一際小さい彼女は最年少のリリアル。薄い桃色の肌、二本の細い尻尾の先には蛇の頭。髪は白く癖っ毛、ピョンと跳ねたダブルアホ毛がチャームポイントで、その先も白い蛇の頭がついている。種族はメデューサ。
「わ、分からない……リリアル、僕の側から離れないように。もしかしたら勇者かも知れない」
リリアルはビクンと身体を震わせ尻尾を萎びかせ、サイの脚にギュッとしがみついた。
「ゆーしゃ嫌っ……怖いのでしゅ……」
その声に他の子供達も怯え始め、サイの周りに集まっていく。サイはそんな子供達を優しく
子供達は素直に元々宿だった石造りの建物の中に避難する。リリアルは心配そうにサイを見上げる。
「リリアル、君も隠れて」
「サイ兄のところにいたいのでしゅ……」
「駄目だよ。危険かも知れないからね。もし、勇者だったら君達は息を潜めてやり過ごすんだ。僕が何とかするから」
「そ、それじゃサイ兄が……」
「だ、大丈夫。君達を残してやられる訳にもいかないし、何とかしてみせるよ。僕はあの父さんの子供だよ。ね、良い子だから皆んなの所に行ってな?」
「わ、わかったでしゅ……」
宿に隠れていた子供達がリリアルの名を呼び手招きする。リリアルは何度も何度もサイの方に振り返りながら子供達の所へ退避した。
緊迫した空気が場を覆う。
話し声が聞こえてくる。小さな影が二つ、坂を下ってくるのが見える。
サイは尖った耳をピクンと反応させる。
「……お、女の子……の、声?」
サイは耳を澄ませる。彼は人並み外れた聴力を有していて、子供達には聞こえない声まで聞き取る事が出来る。
「ひ、一人は知っている声だ……そう……この声は……城のメイドの……」
父親がパン屋をしていたサイは、定期的に城への注文品を届ける時があった。その際にいつも目にしていた
しかし、もう一つの声には聞き覚えがない。そんな思考を巡らせている内に彼女達は目抜き通りに足を踏み入れる。
既に視認出来る程の距離に。サイは大きな瞳で二人を視界に捉える。
シルクと共にそこへやって来たのは、まだ小さな女の子だった。
何を隠そう、陽向麗音、小学三年生だ。
「き、君は……確か城のメイドの……」
「あ、貴方は……パン屋さんの……?」
「良かった、生きてるヒトがいたんだ。で、そこの彼女は?」
その問いかけに麗音が元気に返答する。
「
空気が凍り付いた。サイは丸い目を更に丸くして押し黙り、隠れていた子供達は思わず悲鳴をあげた。
麗音はキョロキョロと辺りを見回してはシルクを見上げる。
「い、いきなり人間なんて言うからです……わ、わたくしが説明しますから、レオンは黙っていてください……分かりました?」
「はっ、緑の少年キターー!!」
「だ、だから少し黙ってくださいっ!」
何とか麗音を黙らせたメイドのシルクは、顔見知り程度の
サイは自らも名乗り、子供達に出ておいでと手招きする。わらわらと集まって来た子供達はサイにしがみつくようにして麗音をじっと見つめている。
リリアルの頭と尻尾の白蛇も舌を出して威嚇する。
それを見た麗音は大きな垂れ目がちな瞳をキラキラと輝かせながら『大きく息を吸い込んだ!』
サイは
「仲間たち、キターーーー!!」
「……え?」
「キターー!!」
「……え?」
「仲間たち、キタキターーーー!!!!」
「……え、ちょっと仲間って……」
叫び終えたのを再三確認したシルクは第二波が来る前に説明を追加した。
陽向麗音、彼女が魔王に立候補した事、その許可を受ける為に生き残った仲間を捜しに来た事、麗音はどうやらこの世界の人間ではないという事を。
俄かには信じられないといった表情のサイ。無理もないだろう。この世界の人間でなければ、どの世界の人間なのだと、頭がこんがらがってしまうのは無理もない。
そのような途方もない話、聞いたこともないのだから。
場は異様な空気に包まれ、暫しの沈黙が流れるのだった。
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