『78』

 ◆洗濯中、、否、、丸磨き中、、丸み……


「のじゃらべぶぼじゅじゃぁぁぁぁっ!?」

「ひえぇぇっあばばぶべばっ!!」


 砂埃にまみれ汚れたのじゃロリと、同じく汚れ切った魔王こと陽向麗音が幽霊メイドの必殺洗濯術で綺麗に磨かれていく様は圧巻の一言だ。


「はっ! まだここが汚れてます! 逃がしませんよーー!! ゴシゴシ!!」


「きゃははっくすぐったいくすぐったいよ!」

「も、もう勘弁してくれなのじゃーー!?」


 ミタマの家の風呂場を使って儀式が行われるのをリリアルが遠目で見ながら身震いする。久しぶりにスフレを磨くシルクはとても楽しそうだ。


「しゆく、嬉しそうでしゅね〜」


 リリアルも何だか嬉しくなり、磨きあがっていくお姉ちゃん達を見てクスクスと頬を染めた。

 すると、シルクがそんなリリアルに言った。


「次はリリアルですからね! ゴシゴシ〜!」


「……death……」





 麗音達は翌日すぐに出て行く事に。これ以上、ここの人達に迷惑はかけられないからだ。

 ミタマはとても名残惜しそうにしながらも、大量の食料を持たせてくれた。男達はケルヴェロス用に獣車をこしらえてくれ、移動もかなり楽になる。


「ありがとうミタマちゃん! 皆んなも助けてくれてありがとう!」


 麗音の笑顔に集落の者達も笑顔で返事をした。女達はトロけ、男達は麗音の頭をこれでもかと撫でる。もはや人気者だ。


 地理に詳しい者からは、反乱分子と呼ばれる組織の滞在する南への道のりも聞いた。

 それにより、当面の目的はそこへ向かう事に。


「お主達よぅ、またいつでも来なよ、おぉぅ」


「泣かないでミタマちゃん! それじゃぁわたし達は行くね!」


 麗音は手を振り獣車に乗り込む。

 集落を去っていく獣車を見えなくなるまで見送っていたミタマのシワはかなり消えていた。

 ミタマちゃん、子供達に影響されて若返り過ぎね。


「……正しいのは、子供達なのかも知れんな」



 ——



 ケルヴェロスが駆ける!!

 森を走り、顔面に枝をぶら下げながら、それでも全力疾走で駆け抜ける!

 やがて森を抜け、目の前に崖が見え……え、


『なんっだとぉぉっ!?』


 森を抜けた瞬間、道が消えた。

 ケルヴェロスは空中で脚を回転させ数秒踏ん張ったが、飛べる訳もなく、獣車は真っ逆さまに崖下へ落下していく。


「「「ひえぇぇーーーーっ!?」」


『ノーーーッ!?』


「「「ピャーッ!!」」」


 獣車内で幼女達の身体が浮いた。シルクは慌て過ぎて浮遊形態で天井に頭をぶつける。麗音はボールみたいに壁をバウンドし、リリアルは楽しそうに笑い出した。


「の、のじゃぁぁぁーー!!」


 その時だ。のじゃロリが叫ぶと同時に浮いていた幼女達の身体が床に叩きつけられた。

 顎を強打してお団子を震わせた麗音はゆっくりと起き上がると窓から外の景色を見る。途端に麗音の瞳がキラキラと輝き、プルプルと震えだしたと思うと、『大きく息を吸い込んだ!』


「空飛ぶケルヴェロス、キターーーー!!」


 スフレのナイスな判断で風を纏ったケルヴェロスが獣車ごと空を駆けていた。


「わぁ! 凄い景色ですね!」


 シルクもその雄大な景色に見惚れながら背の低いリリアルを抱き上げた。

 抱き上げられた事で景色を目の当たりにしたリリアルもまた、大きな瞳を輝かせ「でっしゅぁぁっ!!」と、謎の雄叫びをあげる。


「ふぅ、何とかなったのじゃ……こ、このまま南の魔界と人界の狭間、サンドライト荒野を目指すのじゃ!」


 スフレは常に技を発動している状態だからか、少しばかり余裕のない口調で言った。


『よーし、我に任せるがいい! ワオォォォォーーーーーーン!!』


 ケルヴェロスのテンションも最高潮で、この調子なら今日中に荒野に辿り着けそうである。


「ベロちゃん、調子に乗ってる〜!」


 空飛ぶケルヴェロスは目にも留まらぬ速さで風を切り、雲を掻き分けながらサンドライト荒野へ向けて方角を調整、そして全速力で駆け抜けるのだった。



 ——



 その頃、そのサンドライト荒野では。


「にゃっはぁ〜、くすぐったいにゃ、やめるにゃマチルニャ〜」


「ふにゃにゃにゃ〜ん! やっぱりロザリニャのおっぱいは最高にゃん! ぶはぁっ!」


 猫の姉妹が戯れあっていた。

 金色の髪と瞳が特徴的な姉妹で、姉のロザリニャは見ての通りたわわな果実を装備している。

 一方、妹のマチルニャは正反対な体型で、姉の胸に埋まるなり、揉むなりする癖がいつになってもなおらない。


 サンドライト荒野から魔界へと繋がる境界線には長い壁がそびえ立つ。その壁は高さ十五メートルにもなり、容易に飛び越える事は不可能である。

 勇者協会もこの壁を越えられずにいるのだ。


 ここが、反勇者協会であるレジスタンスの拠点となっており、ロザリニャを始めとする人間以外の種族の戦士達が集まっている。

 勇者を名乗る者を始末する為の精鋭部隊も組織されており、ロザリニャはその隊員でもある。妹のマチルニャも、その部隊に所属する。


 部隊と言っても、今は猫の姉妹とあと一人しかいないのだが。勇者との戦いで失った戦友は数え切れないということだ。


「やぁ、君達はまたちちくりあっているのかい? 仲の良い事だね」


 声をかけたのは背の高い細身の男だ。

 紺色のハットにスーツ姿といった、ファンタジー離れした格好の彼は戯れあう二人の頭をポンと叩くと小さく微笑んだ。


「にゃ! ご主人!」


 ロザリニャはパァッと表情を明るくし、男の方へ振り返る。抱きつく妹も「ご主人!」と尻尾を立て、喉を鳴らした。


「ははは、休憩所に猫缶を用意しているよ。オヤツに食べて来なさい。ここは、オッサンが見ててあげるから」


「猫缶っ! わ、わかったにゃ、ありがとうにゃ!」


「にゃん、待って〜ロザリニャ〜」


 騒がしい猫達が去ると、男は監視台の椅子に腰掛けては小さく息を吐いた。


(東の魔界が壊滅、か……ロザリニャの言っていた小さな魔王も、もう……いないか)


 男は立派な髭を風に靡かせ空を見上げる。


(今夜あたり、奴等が攻めてくるだろう。今日こそはゴーストを討つ。協会の最強勇者である奴を倒せば、元凶も黙ってはいない筈だ)


 髭の似合うダンディな男は紺色の背の高めなハットを深く被り直した。


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