『70』
真っ白な刃物と化した白蛇は、闇夜の人魂の光を反射し、次の瞬間、シルクへと振り下ろされた。
シュン、と鋭利な刃物が紙を切ったような音が響き、蒼白い光に黒い影が舞う。
「あーあ、でしゅ……」
「ありがとうございます、リリアル」
リリアルの髪が元通りになる。悪態をついたリリアルにシルクは笑顔を見せる。
「気持ちの切り替えですよ。女の子のリリアルなら、いつかわかる日が来ます。なんちゃって」
軽くなった髪が頬を撫でる。後ろから見ればうなじが見える程の長さに切り揃えられた髪。超が付く程のロングヘアーは一変してショートヘアとなった。
リリアルの能力を応用して、邪魔な髪を切ったシルクは、くるりんと回って見せる。
その時、
「……シルク、髪、切ったんだ」
その声に、
その声に二人の心が弾んだ。鼓動が早くなる。
そして、振り返っては途端に表情を崩した。
「レオン……」
「ま、ま、ま、ま、ま、ま、」
「シルク……リリアル……二人が無事で良かっ」
「ままままおーーしゃまーーっ!!!!」
麗音が全てを言い切る前に白メデューサが全力で飛び付いた。押し倒されそうになりながらも、リリアルを受け止めた麗音は、真っ直ぐにシルクを見つめては苦笑いを浮かべた。
「シルク……あのね……」
麗音は言葉に詰まった。強敵を前に戦う事を躊躇したのを気にして、嬉しくて飛び付きたい気持ちを押し殺した。
シルクはそんな麗音の瞳を真っ直ぐ見つめ返し、ふぅ、と息を吐き『大きく息を吸い込んだ!』
「魔王レオンの復活、キターーーー!」
「え、と……シルク?」
「キタキターーーーーー!!」
「シル……」
「キターーーーーーーーーーーー!! はぁっ、はぁっ……はぁっ……
————おかえりなさい、レオン!!」
麗音の瞳が波打つのに、そう時間はかからなかった。いや、寧ろ一瞬だった。
波は防波堤を突破、一気に外へ打ち出された。ポロポロと、とめどなく流れ落ちる大粒の涙がリリアルの白蛇の頭を濡らしていく。
「……シルクゥゥ!! た、ただいまぁぁぁっ……!!」
麗音は手を広げて立つシルクの、膨らみかけの小さな胸に飛び込んだ。とても、とても優しい香りがする。まるで、母のような優しい香りだ。
突如放置されちゃったリリアルもすぐにその間に割り込む。そして顔を見合わせて泣きながら笑った。
「短い髪も、とーっても可愛いよ、シルク!」
「そ、そんな……少し邪魔かと思って切っただけですから」
「まおーしゃま、リリアルも!」
「うん、リリアルも可愛いよ〜、よしよし」
頭を撫でられたリリアルは上機嫌で跳ねる。人魂の周りで喜びの舞を披露し始めたリリアルを横目に、シルクは崩していた表情を曇らせた。
「レオン……わたくしは皆を見捨てて逃げ……」
「違うよ、シルク。皆んなはきっと生きてる。だから、諦めないで! わたしには魔王の資格なんてないかもしれないけれど、でも、皆んなを捜して、また皆んなで遊びたい……」
「……レオン……でも、でもサイは……っ……いえ、レオンの言う通りですね。信じましょう、まだ、諦めるには早過ぎますよね! だって、
——魔王、レオンが復活したのですから!」
「えっ……!?」
「魔王は貴女しかいませんよ。きっと皆んなもそう言ってくれます」
「でしゅ!」
シルクとリリアルが真っ直ぐな瞳で魔王を見つめる。麗音は溢れそうな涙を拭い、そんな二人に最高の
「わたしは……わたしは魔王レオン! シルク、リリアル! これから皆んなを迎えに行くよ! わたしに力をかして!」
「もちろんです」「でしゅ!」
翌朝、
髪をシルクに結ってもらった麗音は、少し汚れてしまった赤いランドセルを背負った。
「皆んなを見つける為に、まずやらないといけない事があるの。それはね……」
——クマデビルの捜索である。
しかし、麗音がシルクに語りかけている背後で、リリアルの声が上がった。
「あぁぁぁぁーーでしゅーー!」
何事かと二人は川原へ走った。すると、
『アブベラブベベブァ!?』
「あ! クマデビルだ!」
麗音は瞳を輝かせ流れ着いたクマデビルを回収、一頻りスリスリした後、ランドセルに装着した。
「これで準備はおっけい! 二人とも、これから皆んなを捜す旅に出るよ!」
ラッキーガール麗音は難なくクマデビルと再会を果たした。これで、魔王少女としての力も使えるようになり準備は完了だ。
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