第5話 魔造人間は賢者の塔の主になる


「全ての製造シーケンスが完了した魔造人間に、賢者の塔のすべての権限が承認されました」


「全ての権限!? 管理者権限ではなく?」


「はい 賢者の塔の主、つまり賢者と認められたという事になります」


人工精霊であるバベルが活動を開始してから初めて告げるメッセージである


「ははは 淡い期待は、持っていたがまさか現実になるなんてねぇ」


今回の、『魔造人間の創造』は、次代の管理者への世代交代の儀式の為だった


だが、それとは別に、ある特別な思惑があった


それは、管理者の魂に刻まれた、ある制約の解除だった




26代目は、金髪に淡い青の瞳を持つ美丈夫だった 身長は180cmと、この世界では標準的な高さ


一見して普通の人であるが、その正体は、クローン技術応用した、錬金術にによって作られた、人工の生命体:ホムンクルス


歴代26人の管理者全てがホムンクルスであるが、任務遂行のために目立たぬように、みな標準的な見た目で統一されており、26代目の外見は唯一の例外であったようだ


彼は、濃い緑の生地に金糸でさりげなく刺繍が施された明らかに高級なローブを身に纏っていた


認識疎外の術式が組み込まれており、第三者から見えなくなるわけではないが、装備した者と出会ってたとえ会話したとしても、会話の内容は思い出せるが相手の顔は思い出せない


そうなるように、術式が調整されていた


賢者の塔が作り出されてから、歴代の管理者に課せられた使命は、ある存在を討伐するその為、その唯一の目的を果たしうる兵器を生み出すそれのみと言っても過言ではない


そして、世界の情勢の調査


人や亜人種、魔族と呼ばれる者たち動物、魔物の生態や分布状況


現存する国の勢力の分析


これらの任務はあくまで余力の範囲内であくまで兵器の開発が最優先であった


管理者でも、賢者の塔内では、ほぼすべての権限が与えられていた


塔の大幅な機能の改造や、防御機構の停止、施設の破壊などの権限は与えられていないが


ただ一つ決定的な制約があった


それは、『第三者への関与の禁止』であった


歴代の管理者は目立たず歴史の表舞台には立たないように行動を制限されいる


ひとえに賢者の塔の存在が露見し危険にさらされるのを防ぐためである




約6000年の間、彼らは世界をそしてその住人たちを、傍観者として見つめ続けた


いや見つめる事しかできなかった『第三者への関与の禁止』の制約があるが故に


あまたの国や町、村が生まれ消えていった


昨日まで無邪気な笑顔を浮かべていた、小さな村に住む子供達が、魔物の大量発生に巻き込まれ無残な姿に変わった


権力に目がくらんだ者たちの命ずるままに、戦争に駆り出され散って言った何千、何万、いや何億の命が失われた


不作のせいで、泣く泣く奴隷に身を落とす人々がいったい何人いた事だろう


奴隷を買いあさり、おのれの欲望のままに、甚振り、犯し、殺す、持てる者たちを黙って見過ごすしかなかった




賢者の塔に保存されている知識、技術、機能をもってすれば、今まで見てきた惨劇のすべてとはいかないまでも、自分たちならば救うことが出来たはずである


だが、そう願っても、無慈悲にも魂に絡みついた鎖が彼らを縛り続けた


これまでにも、制約を解除は何度も試されたが、すべてが徒労に終わっていた


今回もそのはずだった


だが、今回は違った




『魔造人間』はやがて覚醒した


性別は男、身長は170cmと少し小柄、黒髪に黒い瞳


年齢はずいぶんと幼く見える、10代後半と言ったところか


この世界の東部の島国に住むと言う少数部族の特徴に酷似していた


この塔の主となったこの男に、これまでの自分たちの事を26代目は要約して話してきかせていた


「記憶継承の儀で、君には僕たちのの記憶・知識が与えられているはずだから、説明の必要もないんだけどさ、敢えて言うね 君は僕たちの希望となる存在のはずなんだよ」


軽い口調で話す、26代目だがその内容は、口調とは裏腹に期待と警戒の色が入り混じっていた


話の間、男は彼を真っ直ぐ見つめ返していたが、未だ一言も発していない


(見極めねばならないね この男が、僕たちの積年の願いをかなえられる者かどうかを)


(そしてもし彼が悪しき者であるならば、この身に換えても滅びてもらわねばならない)


賢者の塔の主になる


それはこの世界を支配する力を手に入れた事と同義であるからだ


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